第56.02話 横取りスナッチ

突然の甲高い声に俺とサクラはビックリして声の方向に振り向く。


「おうおう!おみゃーら、誰の許可もらってここで薬草採っているんじゃい!?」

甲高い声の方向には細い吊り目で前歯が突き出た細身の男と筋肉質の何処となくパッとしない大柄な男二人組が立っていた。


 街の外にある畑は管理されているから採っちゃ駄目とセレナさんに言われて注意していたが、ここは誰かの管理地だったのだろうか?


「ここはなぁこのスナッチ様専用のだ! 勝手に薬草を採られちゃ困るんだ、その荷車に乗っている薬草は全部置いていきな」


 出っ歯の男で変な話し方をする男がスナッチで大男の方は子分なのかスナッチ様と呼んでいる。

 ただし喧嘩慣れしているのか、パッとしない表情ではあるが低い声で採取した薬草を全部置いて行けと俺に命令してきた。


 ここで薬草採取する前にもスマホに撮影した地図でこの場所が誰かの管理地で無い事を確認していたのだが目の前の男二人は、俺たちが余計な事を考えられないように凄い剣幕で怒っている。


 この世界のルールを良く知らない俺とサクラだけだったら、迫力負けしてしまっていたかもしれないが、イリスは冷めた目で二人の男を見ているので少しだけ気持ちが落ち着き一方的に相手の話を聞いてはいけない感じだと思った。

 

「セレナさんが教えてくれた注意事項に農業組合の管理地には必ず識別用の立て札があるって言っていたよね」

「そうじゃな、必ず農業組合に管理地として申請されておる場所は地図にも明記されておるはずじゃが、ここは地図にも載っておらんし立て札も無いの」


サクラとイリスから正論が出ると、スナッチは機嫌が悪そうに口を開く。


「おみゃーら、何をブツブツ言ってるじゃい! ここは俺様スナッチ様の採取地だと言ってるじゃい!薬草置いてとっと消えるじゃい……おっとそこの女二人はずいぶんイイ女じゃいか、謝罪代わりに女も置いていくじゃい!」


 言っている事が変だし、なぜ女性二人が出てくるんだ。


「ここは誰の管理地でも無いだろ?採取地はみんなの物のはずだ組合の地図を見て調べてある、なんで見たこともないお前に俺達の薬草を渡さなければならないんだ」


 初クエストにして変なのに絡まれてしまったと思ったが、何もしらなければスナッチの話を聞き入れてしまうかもしれない。(サクラとイリスは置いて行かないけど)

 でも冒険者組合の地図はスマホに撮影してあるから記憶違いも無い、付近にある組合が設置した識別用の石塔番号から、ここは共有採取地であることに間違いはない。


「地図なんか関係ないじゃい、おみゃえら、俺様スナッチ様の事をしらんじゃいかぁ??」


「知らない」

 俺とサクラはスパッと否定。


「バキャに教える事もねぇ痛い目合わせてやるじゃい」

 スナッチは後の大男に命令し、大男がサクラとイリスに掴みかかろうとしたのだ。


 ただ二人ともヒョイっと簡単に避けてしまう。


「おみゃ!俺様スナッチ様に楯突こうなんてふざけたヤツじゃい! 先にそのヤサ男をブチのめして女にスナッチ様に逆らった恐怖を植え付けるんじゃい」


 目標を俺に変更した大男は俺の方に駆け寄り有無を言わず殴りかかってきた。

 身長だって俺より大きいし体の作りだって俺の二倍位ありそうな男だ。


 俺も喧嘩慣れはしていないが、いきなり襲われたので覚悟を決めて応対する。

 

 俺が身構えるとサクラもこっちを見ていた。

 良く見るとホルスターに手をかけている、それをここで使うのはマズイだろ!


 サクラが発砲する前に何とかしなければと俺は男の様子をジッと見る、気持ちの切り替えでそう感じるのか、今までの戦いで遭遇したゴブリンキングやオークキングに比べたら全く怖くない。


 戦闘モードへの切り替わりなのか大男の動きがスローモーションに見えるように感じてきた。


 伸びてきたパンチを避けその腕を掴み、引っ張り引き抜くようにすると大男を投げ飛ばす事に成功、地面に滑り落ちるように顔面を打ち付けるが、大男は何事もなかったかのように手で泥を拭き落とし立ち上がる。

 投げ飛ばされた事で俺への警戒度が上がったのだろう、さっきパンチしてきたときよりは動きが遅くなり、両腕を伸ばし覆い被さるように俺を捕まえに来たが、捕まる前に軽く肘で腹を突いたらくの字に折れる。


「ぐぼぉ……」

 エルボ突き一発。


 大男は声にならない鈍い声を上げて、腹を押さえるとその場に座り込んでしまうが、それを見ていたスナッチが異常状況に気が付き叫ぶ。


「おみゃ!何をやりやがったじゃい!」


 スナッチはうずくまって立ち上がれない大男を見て、起った状況に信じられないような表情をしていたが、俺からすると大男がまさか肘突き一発で倒れるとは思わず、別の意味で驚いている。


「いや、この大男は弱すぎだぞ」

「バキャな事を言うんじゃねぇじゃい、こいつは強えぇんじゃい!」


 仲間の大男が一発で行動不能にされるとは思っても居なかったスナッチは近くにいたサクラを人質に取ろうと走り寄ったのだが。


「ジャイジャイ、ウザい!」


 サクラが平手でスナッチの顔をブッ叩いたらスナッチの顔があり得ない方向に向き、回転しながら野原で倒れて動かなくなってしまった。


「弱すぎるよこの人達、死んでないよね」


 あまりの出来事に逆に心配になるサクラだが、イリスが遠目で二人の様子を見ると。


「大丈夫じゃ死んでおらん、こやつらも冒険者じゃろうし、あとでセレナに話しておくのじゃ」


 この倒れている二人をどうしようか別の意味で困ったが、サクラの平手打も強力だった事にチョット驚いてしまう。


「サクラも強いなぁ驚いたよ」

「お兄ちゃんも強いよ、びっくりだよ」


 大男だってプロレスラーやラグビー選手並みの体型をしていたから、まさかダウンするとは思わなかったのだが……。


「シオンとサクラよ、お前らはドゥームグローブから来ておるから解らんかもしれぬが、あっちの常識で考えない事じゃ」


 その後イリスから遠回しに俺達二人はそれなりに強いから気を付けろと言われる。

 何度か喧嘩やトラブルに巻き込まれているが、ステータスに差がある相手との喧嘩の場合は特に気をつけなければならないようだ。


・・・・


「イリスさぁ、この二人放置でいいのかな?」

「このまま放置すると夜には魔獣の餌になるかの」


「それマズイな」


 面倒だけど、クエストの件もあるからスナッチの事も組合に報告する事になる。

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