第50話 父さんが怪我をした

 異世界の実家(ドゥームグローブ内の家)の方で暮らしている時は基本母さんが食事の準備をしてくれる。

 台所もあるので古いガスコンロもあるのだけど、こっちの世界にはガスが無い。

 異世界に来てから電気配線・LAN配線・水道管の設置、灯油用配管はDIYで作業したが、ガス配管だけは危ないと父さんに許可されず、配管作業はしていない。


 電気やLAN配線は工事してから写真を撮って父さんに見てもらい問題無ければOK。

 水道は失敗しても水が漏れるだけで駄目だったらやり直し。

 灯油に関しては光る空間を少し出た先に灯油バルブを設置してそこからポリタンクに給油して家のボイラー用燃料タンクに運ぶだけだけど。


 でもガス配管工事だけはある程度経験が無いと危険で、ガス漏れは目視ではわからないし失敗して気が付いた時は爆発していたではシャレにならないので工事していない。


 こっちで料理するときは主に電子レンジが使える物やお湯が必要な時は電気ポットやIHコンロ・時々カセットガスコンロを使う。

 カセットガスコンロだとコスパが凄く悪くなるので、結局料理はほとんどしなくなって母さんが忙しい時はカップ麺やレトルト食品で済ませる事もある。


 でも、ここまで設備が充実できたのは父さんのおかげだ。

 父さんに感謝。


 ・・・・


 今日はイリスがここの風呂場でも蛇口からお湯が出ると発狂していた。

 風呂場の方から女子二人? の声がワッキャ聞こえてくる。


 この家は古い家なので風呂場で大きめの洗濯物を洗ったり出来るように洗い場が広く作ってあるので女性三人位なら余裕で入る事が出来る。


 たぶん今頃シャンプーやらボディーソープに感動している頃なのだろう。

 フリッグの街に置いてあるのはキャンプ用のシャンプー+ボディーソープ兼用の男女共用タイプだし、サクラはこっちに来たらシャンプーとリンスを絶対に忘れずに持っていくと言っていた。


 19時頃から夕飯の時間なので早く出て貰いたい。

 俺が風呂に入る時間が無くなってしまう。


 18時50分頃になってようやく二人共出てきてリビングに顔を出す。


「サクラ、遅いよぉ」

「お兄ちゃんごめん、イリスの髪を毛乾かしていたら遅くなっちゃったよ」


 怒っている訳ではないので俺も早く風呂に入って今日の汚れを落として来ようかと思った時だった。


 サクラの後にいたイリスの格好にビックリ。

 Tシャツにショートパンツ姿。

 太ももがむっちりショートパンツに食い込んで,Tシャツはヘソ出しで目のやり場に困る状態だ。


「まったくサクラの服はなんでこう短いのやらピチピチなのじゃ」


 Tシャツを下に伸ばして修正しようとするイリスだが、下を引っ張ると上が出てくるので目を背けてしまう。


「その服はそれくらいで丁度良い服なんだよ」

 サクラはそんな事を言っているが俺からすると困る服装だ。


 サクラも同じような服装をしているがサクラの場合は見慣れているので何とも思わない。

 サクラもヘソ出し状態なので同じと言えば同じなんだけど。


 兄妹だからね。


 服の事で色々言うとまたサクラが怒るので俺はそのまま彼女達を置いて風呂場に向かう。


 リビングの方ではサクラ達が夕食の準備をはじめて、母さんが作った物を並べて温めているだけだけど。


 俺が風呂から出ると「遅くて腹が減ったのじゃ!」

 と開口一番に言われた。


 俺の風呂時間10分なんだけど、遅いのか?

 この腹ぺこエルフが! と内心思ってしまう。


 おいしそうな匂いを放つハンバーグとパン+サラダ・スープの夕食セットが並べられていたので、腹ペコエルフからすれば待ち時間は拷問だったかもしれないが。


 家に帰った時は両親への報告会から夕食が始まる、定刻を少し過ぎたがテレビの電源をいれ定時報告会のスタートだ。


「お兄ちゃん、会議アプリ起動するよ」


 今はスマホの撮影画像をTVに表示するように設定しているので、接続が完了するとTVに母さんが映っている。


 こっちのカメラ画像が画面下に小さく映っていて、俺とサクラは撮影範囲内に入っていたが、イリスはちょうど画面の端っこにいた。


 母さんはあれだけ楽しみにしていた異世界の人。

 イリスに気が付いていない感じ。


 ただ、母さんの様子がいつもと違いおかしい。

 そういえば父さんの姿も見えない。


「あれ? 父さんは?」

「シオンねぇ、父さん会社で怪我しちゃったのよ、今病院に行ってるの」

「えっ! 今こんな時間だよね、そんなに酷い怪我したのか?」

「仕事中に怪我をしちゃったみたいで良くわからないの、この会議が終ったら母さんも病院に行ってお父さんを迎えに行くけど、会社の人の話だとそんなに酷くないと言っていたから心配しないで」


 一通り報告会が終ると母さんは通信を切断して病院に向かったようだ。


 俺達の会話を聞いていたイリスが心配そうに呟く。

「状況からするにシオンの父君が怪我をされたのかの?」

「今の話だけだから怪我の状態は良く解らないけど、珍しく父さんが怪我したみたいだな」

「パパが怪我したなんて私が生まれてから一回も無いよね、聞いた事も無いし…」


 父さんは会社社長で工場を経営している。

 俺が小さい頃は自分でも現場に出て仕事をしていたが、サクラが生まれた頃には経営の仕事を中心として現場にはほとんど出ていなかった。

 ただ俺が就職したのを境に再び現場に出ていたので少しだけ心配はしていたのだが、俺達が異世界に行ったとか日本でも色々あったのかもしれない。


 大怪我でないことを祈りたい。


「怪我ならシオンは治癒ポーションをもっているじゃろ? 心配ならくれてやればよいのじゃ」


 治癒ポーションって日本でも使えるのか? と疑問が浮かぶ。

 ポーションはラスターの母親も重傷から治癒した、イリスに関しては死人が生き返った、日本には存在しない魔法の薬だ。


魔法とか使えないけど効果があるのか?」

「お主らが魔法を使えなかった原因じゃったな、ポーション自体は魔法や魔素の影響を受けずそれ自体に効力が付与されておるでの、関係無いのじゃ」


「お兄ちゃん、パパに使ってみるように教えてあげようよ、効果はラスターママやイリスでも見ているし」

「そうだな、使うとかは親たち決めて貰って、こっちの世界で凄い効力のある傷薬として渡しておこうか」


 やることが決まったのでSランクフルポーションと使い方を書いた手紙を添えて日本の実家の方に送っておいた。



 翌日、母さんからメッセージアプリ経由で連絡が届く。


 ”シオンが送ってくれたSランクフルポーションを説明書を読んでスプレーボトルに入れてお母さんは試しに自分の手に吹きかけてみました。

 すると、水仕事で出来た手荒れが一瞬で綺麗になっちゃったの。

 凄い物なのね!

 目の前で見ていたお父さんは半信半疑だったけど、傷口に吹きかけたら傷口が光って、一瞬で元通りなの!

 なにこの水、本当に魔法の薬なの? ありがとうね!”


 とお礼のメッセージが届いていた。


 Sランクフルポーションは日本でも効果絶大だ。


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