第32話 真の水龍弾
「失礼しまーす」
教員室に入ると、議論に熱中していた教員たちが一斉にこちらを見た。
「ん? 君は?」
「あっ、彼です。彼が編入希望のユーマです。ほら、この答案の」
俺をここに呼んだ男性教員が、他の教員たちに1枚の紙を見せていた。それはどうやら、俺が編入試験で記入した答案用紙のようだった。
「君か! さぁ、こっちに来なさい」
「是非話を聞かせてほしい」
手招きされたので、8人ほど集まっている教員たちの輪の中に入った。
彼らが囲む机には様々な文字や数式が書かれた紙が乱雑に置かれている。所々に、俺が特許登録した魔法詠唱の文字が見えた。
「ユーマ。君は編入試験で、今回受験した者の中では最高得点だった。特にこの世界で一般的に普及している魔法に関する問題への答えは文句のつけようがない。非常に素晴らしい回答だ」
「そうでしたか。ありがとうございます」
じゃあ、なんで満点じゃないんですか。
「ただ新魔法についての問題で、君は我々の理解を超越する回答をしていた。はじめは不正解としたのだが、良く検討してみると君の理解の方が正しいのではないかという可能性が出てきたのだ」
そりゃ俺が創った魔法なんで。
俺のが正解ですって。
不安だったのはこの世界に元からあった魔法についての回答。それが全問正解なら、新魔法の方で俺が間違えるわけがない。
「教えて欲しい。例えばこの魔法、水龍弾。元は無形の水を弾として放つ魔法だが、新魔法では水が何らかの姿を形作る。それがどんな形なのか、我々は分からない。ユーマの答案には“龍を模した弾”とあるが、龍とはいったいなんだ?」
「形でお見せした方が早いですね。どこか魔法を撃っても良い場所はありますか?」
「なに? まさかもう新魔法を使えるのか?」
「も、もし本当に放てるなら是非とも見たい。こっちだ、ついてきなさい」
教員たちに連れられ、俺とリエルは魔法訓練場までやって来た。
「ここなら魔法を放って良い。あちらの的に向かって撃ってくれ」
「あれって、壊しちゃってもいいモノですか?」
魔力測定水晶の時のようにならないよう、一応聞いておく。
「不倒之的を壊す? はははっ、面白いことを言うな君は」
「あれは大賢者オーガスが設置した魔法訓練用の的だ。並みの魔法使いでは上級魔法を使っても倒せぬよ」
「しかも君が今から使うのは初級攻撃魔法。いくら新魔法になって威力が強くなっていたとしても、不倒之的は絶対に壊れない」
「だから全力で水龍弾を撃ちなさい」
──って言ってるけど、大丈夫かな?
念のためアイリスに確認しておく。
『逆に全力で良いと思っているんですか? 魔力が増え続け、今や魔法攻撃力が30万を超えている祐真様が全力で魔法を放って良いと。本気でそうお考えなのですか?』
言葉に棘がある。
しばらく会話してなかったからか、アイリスが拗ねていた。
ごめんって。
今日の夜は、ふたりでたくさん会話しよう。
それで許して。
『……リエルさんは夜、一緒にいませんよね?』
夜は一緒にいないでしょ。
無事にこの学園に編入出来たら学生寮に入れるらしいけど、流石に男女は別の建物だ。寝る時まではアイリスと俺しかいないよ。
『そうですか。ではしっかり入学金が免除されるよう、頑張らなければなりませんね! 威力計算を行いますので、少々お待ちください』
アイリスが元気になってくれて良かった。
『計算が完了しました。放出魔力は私が調整してもよろしいですか?』
うん、任せる。
「準備出来ました。それじゃ、いきますね」
遠くに設置された的に向かって立つ。
教員たちとリエルは防護壁の後ろに退避している。
「いつでも大丈夫だ」
「さぁ、君の思い描く水龍を見せてくれ」
オッケーらしいので、右手を的に向けた。
「水の精霊よ、可憐なる精霊よ、その身を水龍と化して我が敵を喰らえ──」
水が右手の前に集まってきた。
けど、この水量って……。
ちょっと、多すぎないか?
しかし魔法はもう止められない。ここで無理にキャンセルすれば、集めた水がコントロールを失ってはじけ飛ぶ。
撃つしかなかった。
「水龍弾!」
集められた水が龍を形成する。
魔人を攻撃した時の10倍くらいの大きさになっていたそれは、超高速で的に向かって飛び、不倒之的を容易く噛み砕いた。
「な、なん…だと……」
「ふふ、不倒之的が」
「初級攻撃魔法で破壊された!?」
教員たちから驚きの声が上がった。
俺だってビックリしてる。
アイリスに威力調整を任せたのに……。
もしかして失敗しちゃった?
『いえ、計算通りの威力です』
計算した上で、あの的を壊しちゃったの!?
『だって、この世界のヒトの手による創作物で、祐真様の魔法で壊せないって思われているモノがあるなんて、許せるわけないじゃないですか。私のマスターは最強なんですから』
わーお。
わざとなんですね。
本当にちゃんと計算して、あの的を粉々にできる威力にしちゃったんですね?
『はい、その通りです! 完璧に計算しました!!』
彼女の言葉を肯定するように、不倒之的以外の被害はほとんどなかった。
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