第29話 絶対に触るなよ?

  

 お約束通り、魔力測定水晶とやらは俺が触れた瞬間に消し飛んだ。


 あまりにも細かく割れたので、水晶玉の破片はほぼ粉のような状態。そのおかげで目とかに入ることはなく、風に吹かれて霧散していった。


「……は?」


 試験監督らしき男性が唖然としている。


「魔人の魔力でも割れないって言われてたのに、ユーマって凄いね」


「どういたしまして」


「お、おい! お前、いったい何をしやがった!?」


「何って、ただ言われた通りに触れただけです。それより俺との約束を覚えてますか? ちゃんと奨学金がもらえるように、推薦状くださいね」


 さて、これですんなり納得してくれるかな?


「ふざけんな! さては魔法で水晶を消し飛ばしたな!?」


 やっぱりそう来るか。


「そんなことしてませんよ」


「魔力測定水晶って、魔法耐性がすごく強い魔具ですよね。それを魔法で消し飛ばすしたとしても、凄いことなんじゃないですか?」


 リエルが俺の援護をしてくれる。

 良い子だな。


「ただこの場から消しただけかもしれない。もっかいやれ!」


 男が椅子の下の箱から2個目の水晶を取り出した。


 俺はそれに指で触れる。



 パァン! ──っと、水晶が砕け散った。



「ほら、今の見てました?」


「そんなことはあり得ない!! 次はこれを腕にはめろ」


 男が取り出したのは、何やら魔具っぽい腕輪。


「これはなんですか?」


「魔封じの腕輪だ。魔力が放出できなくなる。これを付けていれば、魔法で水晶をどこかに消すことなんか絶対にできないぞ!」


 魔力が放出できなかったら、そもそも魔力測定できないのでは?


 でも言い訳させてもらえなさそうだったので、渡された腕輪を大人しく装着した。


「さぁ、これでもう不正はできな──」



 パァン!



「……えっと、割れちゃいましたね」


 魔封じの腕輪でも俺の魔力は封じることができなかったようだ。


「おぉ。ユーマ、すごーい!」


「そ、そんな……。ではお前は、本当に魔人以上の魔力があるとでもいうのか?」


 やっとクールダウンしてくれたようだ。



「騒がしいの。ファリル先生、何か問題でもあったのかね?」


 立派な白髭を生やした老人がやって来た。


 いかにも賢者っていう出で立ち。


 そのお爺さんが何かに気付いたように立ち止まり、俺をジロジロと見てくる。

 

「ふむ、ふむふむ。ほぉ、これは凄い魔力じゃな」


「学園長の見立てでも、それは間違いないのですか?」


「そうじゃな。この子に魔力測定の水晶を触らせてはいかんぞ。恐らく粉々に砕けてしまうじゃろう。アレは非常に壊れにくいが、かなりの貴重品じゃ」


 おっと、それはヤバい。

 

 ファリルと呼ばれた男性を見ると、大量の冷や汗を流していた。


「これから測定を行うところか?」


「い、いえ。実は、その……」


「まさか、もう割ってしまったのか!?」


「すみません、学園長。俺には貴方のように、この者の魔力量を推し量ることができませんでした」


 ファリル先生が頭を下げる。

 俺も少し申し訳なくなった。


「まぁ、過ぎたことは良い。1個ぐらいは仕方ないじゃろう」


 1個じゃないんだよな。


「あれひとつでファリル先生の年収が軽く吹き飛ぶのじゃ。くれぐれも彼に予備の水晶を触れさせるんじゃないぞ。いいか、絶対にダメだぞ」


「「「…………」」」


 俺たちは誰も、学園長先生の顔を見ることができなかった。

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