第26話 ハーフエルフの少女
街に向かって移動している。
特にこれと言った問題はない。
「グモォォォォ!」
おぞましい雄叫びを上げながら、豚の頭部と2メートルを超える巨体を持つ魔物。オークが俺に襲い掛かってくる。
オークがその手に持つ棍棒を俺に振り下ろした。
「グ、グモっ!?」
俺の頭に当たって砕けた棍棒を見て、オークは驚いていた。
さっきから俺は10体ほどのオークに囲まれ、攻撃を受けている。
でも大丈夫。
特に問題はない。
冥府之鎧の効果で、ダメージは一切受けない。衣服にも俺のステータスが反映されるらしく、攻撃を受けても破れたりすることはなかった。
『オークは危険度Cランクに分類される魔物です。Fランクの角兎と比べると、かなり強い魔物。しかし知能は低く、罠にかければ討伐は難しくありません』
「罠は要らないんじゃないかな」
『祐真様には不要ですね』
「こいつら、倒した方が良い?」
『雄のオークは異種族の雌を襲い、子を産ませます。人族にとっては討伐重要度が高い魔物。10体もいれば小さな村なら壊滅させられてしまいますから、この場で討伐をお願いします』
「了解! また指示をよろしく」
『はい。初級の水属性攻撃魔法、水龍弾でオークを倒してください』
「詠唱は?」
『必要です』
「おっけー! 水の精霊よ、可憐なる精霊よ、その身を水龍と化して我が敵を喰らえ。水龍弾!!」
水の龍がオークに襲い掛かる。
無詠唱で魔人の腹を食い破った魔法だ。
魔人の危険度は最高のSランクだという。Cランク程度のオークが10体いても、フル詠唱の水龍弾に耐えられるわけがない。
10秒もしないうちに、オークは全滅した。
濃い血の匂いが辺りに立ち込める。
「うっ。これは……、ちょっとキツい」
角兎の時は跡形もなく燃え尽きていた。
こうして俺の魔法に食い破られた死体を見ると、吐き気を催す。
『申し訳ありません。急ぎでしたので、対処を誤りました。次回からは敵魔物の死骸を残さないようにします』
「急ぎ? なんで?」
『オークは獲物を狩る時でもなければ森の中で群れることはほとんどありません』
オークの獲物って言うと、この世界のヒトってことか。
「襲われていたヒトがいるんだ」
『だと思われます。どこか、そのあたりに──』
「あ、あなたが、オークたちを倒したの?」
背後から声をかけられた。
振り返ると、金髪の少女がいた。
大きな目。美しい金色の髪。
肌は透き通るように白く、綺麗だった。
肩くらいまでの長さの金髪から少し尖がった耳が見えている。
絶世の美少女だった。
元の世界じゃ、アイドルでもここまで可愛い子はほとんどいない。
エルフってやつかな?
『耳の長さが短いので、ハーフエルフだと思われます』
そうなんだ。
「ねぇ、聞いてる? 私の言葉、通じてるよね?」
「あぁ、ごめんなさい。言葉は分かりますよ」
こちらの世界の人族とエルフが使う言葉が違うかどうかは分からない。でも俺たち異世界人にはパッシブスキルに“言語理解”っていうのがある。それにより、この世界で言葉に困ることはないらしい。
「あなたがオークを倒してくれたの?」
「えぇ。全部倒しました」
「良かった。助けてくれてありがと。オーク1体くらいなら私でも何とかなったんだけど、後から10体も出てくるからどうしようもなくって。私が木の上に隠れても、あいつらこの辺から移動しなくて困ってたの」
1体はオークを倒したんだ。
その華奢な見た目で、凄いな。
やっぱり異世界って、魔法が使えるから見た目で判断するのは良くないらしい。
「ここを通りかかったら襲い掛かってきたので倒しただけですよ。それで助けられたなら運が良かったです。俺、ユーマって言います」
「私はリエル。改めてお礼を言わせて。本当にありがとう」
オタクの俺は色んな異世界ものの漫画やラノベを読破している。
人族には敵対心剥き出して話しかけてくるエルフが登場する作品もあったが、この世界のエルフは人族に友好的らしい。
ハーフエルフだから、リエルが特別って可能性もあるかな。
なんにせよ、こんな美少女からお礼を言われて嬉しくないわけがない。
さっそく異世界無双が出来ちゃった。
これは田中たちに自慢しなきゃ!
「あの、出会ったばかりで悪いんだけど。ユーマ、私とこの先の街まで一緒に行ってくれないかな? またオークとかに襲われるのは嫌だから。街についたらご飯を御馳走する。それじゃ、ダメかな?」
リエルが不安そうに聞いてきた。
こんなに可愛い子がご飯を一緒に食べてくれるんですか?
一緒に街まで行っても良いんですか!?
それって、実質デートですよね!?
『どちらかというと、護衛任務ですね』
アイリスの冷静なツッコミが入った。
でも良いんだ。
俺の中では勝手にデートってことにしておく。
「いいよ。街までリエルを街まで送ってあげる。ご飯の件、よろしくね」
「ユーマ、ありがと! よろしく!!」
古城に置いてあったお金やアイテムなどは全て消滅していた。だから俺は今、無一文なんだ。そういう意味でも、ご飯を食べさせてくれるというのに護衛任務を断る理由がない。
「それじゃ、行こ!」
リエルが俺の手を引いて歩きだした。
は、はじめて女の子と手を繋いでしまった。
『祐真様。進行方向が逆です』
えっ?
「リエル。向かってる街って、どっちにあるか分かってる?」
「んー、わかんない。でも多分こっちでしょ」
……そうか。
方向音痴タイプだったか。
可愛くてオークを倒せるほど強い。
初対面の俺にも気さくに話しかけてくれる。
そんな完璧美少女にも欠点があった。
「ほら、早く行かないと。暗くなっちゃう」
「街はそっちじゃないよ」
「えっ、そうなの? ユーマ、道案内できるんだ」
俺は案内できない。
街に行ったこともないから。
アイリスに導いてもらうだけ。
てことでアイリスさん。
よろしくお願いしまーす!
『……嫌です』
えっ。なんで?
『可愛い女の子と手を繋いで鼻の下を伸ばしているんですから、祐真様はこのまま森から出られない方が幸せなんじゃないですか?』
もしかしてアイリス、嫉妬してる?
『してません』
絶対してるでしょ。
『嫉妬なんかしてません! 私は、ただのスキルです!!』
ただのスキルなら、怒って叫んだりしないよな。
俺はその後、なんとかアイリスをなだめ、リエルと共に森を抜けた。
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