第23話 移動開始


 アイリスによると俺は今、スキル【特許権】の効果で魔力消費せずに冥府之鎧を永続発動させているらしい。本来俺が消費するはずの魔力量は、スキルを創った存在が肩代わりしてくれているというが……。


「スキルを創った御方って、俺たちをこの世界に召喚した女神様より偉い、大神様ってことでしょ!? そんなことして良いの!?」


『スキル制度の穴をついた良い作戦かと思ったのですが。大神様にバレて、ちょっと怒られちゃいました。こちらをご覧ください』


 俺の目の前に半透明のボードが現れた。


【我が創出したスキルの不備につき、初回のみ見逃す。次はダメだぞ】


「あの、これは?」


『大神様からのメッセージです。次回同じようなことをしても、おそらく実行できなくなっているでしょう。やはり初回で物理攻撃力も永続上昇させられる魔法にすべきでしたか……』


 アイリスが落ち込んでいるが、反省すべき点はそこじゃないと思う。


『まぁ、物防か魔防どちらかにしなかったのは正解でしたね』


「こうなるって思ってたから、魔力はいくらでもあるのに特許権利化特典を使えって俺に言ってきたんだ」


『そうですよ。これで祐真様は魔王の攻撃にも耐える防御力を手に入れました。攻撃力は魔法でどうとでもなるでしょう。魔力は際限なく増え続けますし、これまでに権利化した最上級攻撃魔法でも弱いというのでしたら、冥府之鎧のように威力が最大魔力量に依存する魔法を新たに登録してしまえば良いのですから』


 えっ、なにそれ。

 俺、最強じゃね?


『祐真様はこの世界で無双したいと仰っていました』


「うん、確かに言った」


『私は祐真様のためのスキル、ガイドラインです。マスターが望まれることを叶えるため、そのゴールまでの道筋を示すのが役目。私はその任務を全うしました』


「アイリス様!! さすがです!!! ほんとにありがと」


 俺だけじゃ、絶対にここまでスキル【特許権】を使いこなせなかった。特許のことすら良く分かっていなかった俺を、最強にしてくれたことに心から感謝する。


『お喜び頂けて良かったです』


「ちなみにだけど、最強になれてもお城は作れないよね?」


 俺は古城があった場所に立っている。


 大きく抉れたクレーターの最下部に、ひとりでポツンと。


『ゴーレムを作り出す魔法は祐真様が特許登録しています。そのゴーレムたちに作らせれば、およそ1週間ほどで城が完成するでしょう』


「その間の俺の住処は? 食事は?」


『自給自足するしかありませんね』


 それはちょっと厳しくね?


 調理器具も何もかもが跡形無く消滅しちゃってんだから。


「せめて連絡用の魔法でも創っておけば良かったな」


『それは良いお考えですね! この世界では遠方と連絡する際、大精霊たちの念話に頼るか、鳥に手紙を付けて飛ばすくらいしか方法がありません。遠くと連絡できる魔法は、多くの人々が使い始めることでしょう。更なるSP確保のチャンスです!!』


 魔王の攻撃を耐えられるくらいのステータスになったのに、まだ俺を強くしてくれようとしてるんだ。まぁ、もしかしたら魔王以上の強敵もいるかもしれないし、強くなれるならなっておいて損はないか。


 でも問題なのは、現状をどうするかってこと。


「とりあえずここにはいられないね。こんな何もない所にいたら、また魔王に見つかっちゃう」


『では、近くの街を目指してみましょうか』


「そこにみんないるかな?」


『おそらくいないと思われます。前回、皆様が戻ってこられたとき、全ての方がレベルを上げていました。ダンジョンを攻略したとも言っていました。ここから一番近い街にはダンジョンが無いため、彼らはもっと先まで進んでいるのでしょう』


「そっか。でもここにいるよりはマシだよ。いくら強くなっても、食べ物がなければ餓死しちゃう」


『そうですね。私も移動には賛成です』


「みんながこの先の街に立ち寄らずにここまで戻って来た時のために、とりあえず書置きしておこう」


 そう言ってから、紙やペンなども全て消滅していることを思い出す。仕方ないのでクレータのそばにあった岩に、石で傷をつけて文字を書くことにした。



「これで気づいてくれるかな? この岩をクレータの下に堕としとけば目立つか」


『それはお止めになった方がよろしいかと。もし雨が降れば、この窪みに水が溜まり、岩が沈んでしまう恐れがあります』


「そっか。じゃあ、どうしよう?」


『このままで良いと思います。祐真様の魔法の中に探索系能力を伸ばすものがあり、それを使えるように契約してくださった方が何人かいますので』


 なるほど。田中とかが契約してくれた魔法か。


 多分、彼なら次回もここまで来てくれるだろう。



「頼むぞ、田中。お前を信じるからな」


 合流できなかった時のための書置きを残し、俺はたったひとりで移動を開始した。

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