第20話 大丈夫、正規の方法です
「あ、アイリス! ここ、これ。どうなってんの!?」
ステータスボードに表示されたSPの数値がおかしなことになっている。
しかもこの数値、少しずつ増え続けていた。
「みんなが俺の魔法を使って、すごい速度でレベル上げしてくれてるってこと!?」
この拠点を出ていく時、クラスのみんなは俺を強くするために魔法をたくさん使うと約束してくれた。とはいえこの7,000超えのSPは意味が分からない。
俺がもらえるのはたったの5%だけ。7,000SPを超えるにはみんなが合計で140,000以上のステータスポイントを得たってことになる。
クラスメイトは俺以外で32人だから、ひとり平均900近くレベルを上げなきゃこんな数値にはならないはずなんだ。
俺の現在のレベルが106なので、この世界のレベル上限が100じゃないってことは分かっているが……。それでも他のクラスメイトたちが僅か1日で900もレベルを上げたなんて考えられなかった。
『祐真様。落ち着いてください。確かにクラスの方々は祐真様との約束を守るため、レベル上げを頑張って下さっているようです。しかし彼らからだけでは、ここまでのステータスポイントを得ることはできません』
「じゃあ、この数値はなんなの!? バグかなにかってこと!?」
『その数値は紛れもなく、祐真様のSPです』
「意味が分かんないよ! ちゃんと説明して!!」
SPが多くて悪いことなんて何もないはずなのだが……。
今の俺は理解できない状況で、金を貰っても逆になにかあるのではないかと怖くなってしまう状況に近い。だからついアイリスに怒鳴ってしまった。
『魔法詠唱の権利化をする際、祐真様はいくつかの魔法をこの世界の人々にも使わせたいと仰っていました。それは御記憶でしょうか?』
「えっ。それは……、うん。覚えてる」
水の少ない乾燥地域で飲める水を確保する魔法とか。薬草の成長を早め、その薬草から作られた回復薬の効果を高める魔法など、この世界の人々が生活を豊かにできる魔法も30個くらい創出している。
『私は登録後、それらの魔法を一般人にも使わせるつもりがあるかと尋ねました。そして祐真様の了承を得ましたので、世界各地の精霊掲示板を通して新たな魔法が使えるようになったと宣言したのです』
「精霊掲示板って何? そこで宣言すると、どうなるの?」
『この世界では魔法を使う際、ヒトが持つ魔力を精霊が魔法に変換することで魔法が使えます。精霊との交渉により新たな魔法が生み出されると、世界中の人々がその魔法を使えるようになります。その情報発信がされる場所を精霊掲示板と呼称するのです。ちなみにこの世界の住人たちはそれを神からのお告げ、“神託”と言っています』
アイリスさんって、神様レベルのことができちゃうってことっすか?
ヤバいっすね。
『通常であれば神託により公開された魔法は誰もが無条件で利用することが可能になります。しかしスキル【特許権】で生み出された魔法は、その使用に条件を付けることが可能です。つまり、神託を聞いた全てのヒトと自動で特許実施許諾契約を結ぶことが可能なのです』
「えっ。じゃあもしかして俺は、凄い数のヒトと契約を結んでることになる?」
『現在の契約者数はクラスメイトの方々を含めて5,021名です』
「ごご、ごせん!?」
『私が祐真様の代理として公開したのは、そのほとんどが生活を豊かにする魔法です。しかしその魔法を利用してから1か月以内に使用者がレベルアップした場合、ステータスポイントの5%が祐真様に譲渡されるようになっています』
俺たち異世界人と違い、こっちの世界の人がレベルを上げにくいとしても1か月以内にって条件ならステータスポイントをかなりもらえちゃう気がする。
『ちなみに5,021名の方々が、平均3レベル上昇させています。だからこそ、そのステータスボードに表示されるSPになっているのです』
「俺らはともかく、この世界の人のSPって貴重なんじゃないの?」
『勇者様たちとは違い、一般のヒトはステータスボードを使えません。つまりSPの振り分けなどできないのです。彼らは魔物を倒して一定以上の経験値を蓄積すると、自動で各自の戦闘職に適したステータスが上昇するようになっています。その経験値をSPに換算し、祐真様に献上しているということ』
「SPが無いにしても、強くなりにくくなるって思わないのかな」
『そのデメリットより、祐真様の魔法を使った際のメリットの方が大きいと判断された結果ですね。自動で特許実施許諾契約を締結するといっても、新魔法の使用希望者には契約内容が明示されるようになっています。決して現地人たちを騙してSPを奪っているわけではありませんので、ご安心ください』
「そうなんだ、って話してる間に8,000SP超えたよ? これ、マジで大丈夫?」
『良いのです。大神様がお創りになられた正規のスキルを正しく利用し、正規の方法で神託を出してこの世界の人々に使われている。私たちとしては、何も悪いことをしていません。怒られる謂れがないのです』
なんとなくだけど、アイリスが悪い笑みを浮かべているのが想像できた。
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