第15話 デモンストレーション


「使えるようにした激強魔法?」

「も、もしかしてユーマ……」

「オリジナル魔法を創ったの!?」


 田中たちが俺に詰め寄ってくる。

 その圧がヤバい。


「お、教えてくれ! どうやったんだ!? 俺が考えた“アルティメットフレイム”も“ギガ・ディザスター”も発動しないんだ!」


「俺の最強神滅魔法、ርዩጂንዝበሃシャルファームも使えなかった」


「脳内設定では、俺のステータスがあれば魔法は発動してもおかしくない。イメージだって完璧だ。それなのに誰も魔法を発動させられなかった」


 やっぱりオタクだな。

 考えることは同じなんだ。


「この世界の魔法って、英語とかじゃダメらしい」


「えっ!?」

「マジ?」

 

 驚いている田中とキム。


「……やっぱりそうか」


「ダッサン、気づいてたの?」


「そりゃそうだろ。各属性の初級攻撃魔法の詠唱を見りゃ分かる」


 独自に異世界語の設定を創っちゃうようなインテリオタクはちょっと違うな。


「分かってても俺は、俺が考えた最強魔法をこの世界で使いたかった」


 その気持ち、痛いほどよくわかる。


 でも魔法詠唱のルールを教えたら、コイツらならすぐにいくつかオリジナル魔法を使えるようになるだろう。ほんとなら俺の特許化した魔法を使って欲しい。だけどオタク仲間の夢は、叶えてあげたい。


 田中たちは絶望し、地面に膝をついて涙を流していた。


 そんな彼らに声をかけようとしたところで、脳内にアイリスの声が響く。


『祐真様。少しよろしいでしょうか?』


 うん、良いよ。

 どうしたの?


 そう言えば彼女のことはまだみんなに紹介していなかった。俺の脳内で響く声なので、ガイドラインってスキルが追加で実装されたとみんなに説明したところでそれを証明することができないんだ。


『誠に残念ながら、スキル【特許権】を持たないヒトが新たな魔法詠唱を創ることは不可能です』


 えっ。ダメなの!?


『この世界で一般に普及している魔法は精霊がヒトに伝えたもの。新たな詠唱を創るとなれば、大精霊を召喚して共に詠唱の構成を考える必要があります』


 勇者とかなら大精霊さんを召喚できるんじゃない?


 確か精霊使いって戦闘職になってた女子もいたはず。


『勇者も精霊使いも、とある魔導書を入手すれば大精霊を呼び出すことは可能です。しかし魔法の詠唱を精霊と一緒に造り上げるには、年単位の期間が必要なのです。それだけの長期間、精霊を召喚し続けられる魔力は誰も持ち合わせないでしょう』


 新しい魔法をスキルなしで作ろうとすると、そんなに時間がかかるんだ……。


 ちなみにだけど、詠唱を相談しながら創る途中で魔力が切れて、大精霊が帰るとどうなるの? 再スタートとか可能?


『最初からやり直しになります』


 マジっすか。


『【特許権】が優れたスキルであったこと。そして祐真様が考案された詠唱がこの世界のルールに則していたこと。最後にこの私、アイリスが完璧な特許明細書を瞬時に書き上げたからこそ、わずか3日で100件もの魔法詠唱を権利化できたのです。普通なら1000年くらいかかってもおかしくないほどの偉業です』


 褒めてほしそうだね。

 褒めて欲しいんでしょ。


『べ、別に私はそんな……。祐真様のガイドラインとして当然のことをこなしただけで。褒めて欲しいなんて、おお、思ったりしてません』


 君がいなければ、俺はダメだった。


 スキルの使い方も分からず、古城でクラスメイトが食料を持ってきてくれるのをただ待つだけの日々を送っていたかもしれない。

 

 だから、やってくれて当然なんて思ってないよ。


 心から感謝してる。

 アイリス、ありがと。


『──っ! こ、こちらこそ。私を頼っていただき、ありがとうございます!!』


 うちのガイドライン、ちょろ可愛いな。


『祐真様。ちょろ可愛いとは、どういう意味ですか?』


 普通に俺の思考が読めるから隠し事できないんだよな。それがちょっと問題。


『もしかして、“ちょろい”と“可愛い”の合体系ですか?』


 ごめん。可愛いって思ってるのは本当だから。


『えへへ。私、可愛い。えへっ』


 なんか嬉しそうだった。

 チョロいって思ってるのはスルーされたっぽい。


 アイリスが良いなら、それで良いや。



 さて、そろそろ本題に入ろう。


「なんかこの世界で新しい魔法を創るのに、俺のスキル【特許権】が必要みたい」


「おい、マジかよそれ!?」

「お前だけ優遇されすぎだろ」

「ズルいぞ!」


「俺からしたら俺の何十倍ってステータス持ってて、魔物相手に無双できるお前らの方がズルいわ!」


「んー。まぁそうか」


「上級魔法って使った? あれは凄いぞ」


「初級魔法とは威力が全然違うんだよなー。あっ、でもユーマの魔攻じゃ、当面は発動させらんないか。残念だったな」


 キムは相変わらずキツいところを突いてくる。他人を煽る天才だ。


 もし俺が特許権利化特典で魔法を使ってなかったら、コイツを殴っていただろう。


「ちょっとこっち来て」


 俺は田中たち3人だけでなく、クラスメイト全員に声をかけて古城の結界の外に出た。向かう先は俺が魔人を倒したあの場所。




「ユーマ。こんなところで何するんだ?」


「てかここ、こんな感じだったけ?」


「なんかものすごい魔法で破壊されたような……。って、まさかお前!?」


 ダッサンは気付いたようだ。

 この破壊跡が俺の魔法によるものだと。


「今からみんなに、俺のスキル【特許権】で新たに作った魔法を見せるよ。この世界に今ある魔法より何倍も強い。使うにはちょっと条件があるんだけど、俺の魔法を見たら、その条件を受け入れてもきっと使いたいって思ってくれるはず」


 クラスメイトたちにデモンストレーションするため、この時間まで特許権利化特典が使えるように調整した魔法がある。それを今からみんなに見てもらおう。



「無形の影、邪龍の黒翼、深淵の闇を司りし巍然たる大精霊よ」


 顔の前で力を溜めた右手を、前方に突き出す。


「我の敵を森羅万象と闇に葬れ、天地晦冥てんちかいめい


 俺の右手から黒い光線が放たれた。


 それは雷哮によって大きく抉られた山へと向かって突き進む。


 黒の光線が着弾した次の瞬間。


 着弾地点を中心に、半径1キロメートルが球状の闇に包まれた。


 時間にして僅か数秒。


 音すら飲み込み、威力などないように思えるこの魔法は──



 その闇の球体の範囲内にあった地面を、木々を、魔物を。全てのモノを飲み込み、跡形もなく消滅させた。

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