第14話 クラスメイトの帰還
待ちに待った日がやって来た。
今日は俺のクラスメイトたちが帰って来てくれると約束した日だ。
何とか100個の魔法詠唱を登録し終えることができた。昨日は各属性の大精霊さんが俺の所に来てくれて、魔法詠唱に関するトークで大いに盛り上がった。
俺の黒歴史は、この世界の精霊に大ウケするネタだった。こんなに詠唱の話しで盛り上がれる存在は、俺のクラスメイトのオタク仲間にもいない。彼らは俺とは少し違うジャンルのオタクだから。詠唱が基本的に全部英語だったり、オリジナル言語を作ってるやつもいる。
高校生のガチオタクってのは基本的にヤバい。それなりにネットでの検索知識を付けて、マジもんの古代呪文とかを調べて暗記したりするやつがいる。闇呪文サークルとかに参加してるのもいる。
知識と行動力が趣味に適合するとヤバい存在になるってことの証明だと思う。
系統は違うが、彼らも異世界での無双を夢見る同士だった。この古城から去って行く彼らの後ろ姿を、俺は今でも忘れていない。
みんなが帰ってきたら、こう言うんだ。
俺も一緒に連れてって! 俺は、みんなと一緒に戦う力を得たから!! ──って。
──***──
「……やっぱり、ユーマは連れていけない」
数日前にも聞いたセリフを再び聞かされた。
絶望で目の前が暗くなる。
「だ、だめ、なの? どど、どうしても、だめ?」
「せっかく持ってきた装備を全部ユーマが使えないってなったら、俺にはどうしようもないよ」
勇者になった
彼が本当に申し訳なさそうな顔をするもんだから、俺がそれ以上文句を言うこともできない。
なんとクラスメイトは全員が戻って来てくれた。
一度進んで、ここまで戻ってくるのは大変だから、数人だけで食料などを運んできてくれる可能性が高いって思っていた。
だからクラス全員の姿が見えた時、思わず涙が出た。
ほんとに嬉しかった。
しかも彼らは、俺のためにひとつのダンジョンを攻略し、その最奥に保管されていた装備一式を俺のために持ち帰ってくれたんだ。
これで俺も、みんなと一緒に旅ができるって思った。
しかし──
【この装備を身に着けるための必要装備ポイントが足りません】
装備を身に着けようとした俺の前に、そんな文字が表示された。
そんなゲームみたいなシステムないだろうと、無理やり着ようとしたがダメだった。どうしても手甲に手が通らない。胸当てを突けようとしても謎の力で弾かれてしまう。剣すら持つことができなかったんだ。
「装備ポイントっていう制限があるなんて、ほんとに気付かなかった。これはユーマ用にって、誰も着ようとしなかったから」
そう言うのは田中。
何故か、あだ名が田中。
俺のオタク仲間1号。
「お前にも異世界を堪能してもらおうって、ダンジョンの一番奥にあった鎧をとってきたんだ! でも、普通に街で売ってる装備も一緒に買ってくればよかった……。マジで、すまん」
頭を下げてくれるのが山田。
あだ名はダッサン。
オタク仲間2号。
「いやいや、ユーマお前。レベル106になったのにスキルに極振りしちゃって、装備ポイントに振れないのバカ過ぎワロス──って、いてぇ!! な、なにすんだよ!?」
田中に頭を叩かれたのが
オタク仲間3号。
「キム、今はふざけて良い時じゃない」
「ユーマの気持ちも考えろよ」
田中とダッサンが真剣な顔で怒ってくれてる。
「……悪い。つい、いつもの感じでふざけた」
「ううん、大丈夫。みんなに会えて、俺は嬉しいよ」
いつものノリで会話できることが、なにより嬉しかった。キムが本気で俺を馬鹿にしたんじゃないってことは良く分かってる。
こいつらも良い奴らなんだ。
だからこそ、できれば俺も彼らと一緒に旅がしたかった。
みんなが持ってきてくれた装備を身に付ければ、物理防御が+3000、魔法防御が+1800される。序盤ではマジで最高クラスの装備だった。しかし、これを身に着けるために必要装備ポイントというのが設定されていた。
ステータスボードの2枚目。その装備の欄に、よく見ると“装備ポイント”という文字があったんだ。ちなみに俺の初期装備ポイントは0だった。クラスのみんなもそうらしい。
アイリスに聞いたが、ステータスポイント1に対して装備ポイント1と交換できるとのこと。
魔人を倒して106まででベルアップし、スキル【特許権】で魔法詠唱を100個特許登録した。残りのステータスポイントは150。
それに対して、クラスのみんなが俺のために持ってきてくれた装備を身に着けるのに必要な装備ポイントは300。だから俺は身に付けられない。装備が強すぎたんだ。
この装備はクラスメイトの誰かに使ってもらって、俺がその誰かの装備を使わせてもらうってことも考えたが……。それもダメだった。
みんなの装備は身に着けるのに装備ポイントは必要ないが、その代わり必要魔攻や必要物防などが設定されていて、それらは俺のステータスポイント150を全部割り振っても達成できない数値だった。
唯一、図書委員の立花 唯奈さんが身に着けていた “魔法使いのローブ(中位)” だけは何とか俺でも使えそうなステータスになれるのだけど、女の子が身に着けていたモノを貰うなんて絶対にできない。
唯奈さんは優しいから、俺が使っても良いよって言ってくれたけど……。
俺が無理だった。
絶対意識しちゃうもん。
伊達に童貞やってない。
女の子が着ていたローブを貰うなんて無理すぎる。
それから周りの男どもの “絶対に断れ” って無言の圧がヤバかった。唯奈さんは眼鏡女子でおとなしい子だけど、ウチのクラス男子からの人気は高い。
そんな訳で、またしばらくの期間は俺がこの古城で留守番することになった。
装備とかが入手できる町がここから結構距離が離れているらしい。クラスメイトたちは十分な安全マージンを取って行動しているから、俺だけのために数人で町とこの古城を往復してもらうなんて申し訳なさすぎる。
みんなに手間をとらせたくなかった俺は、この場で待機することにした。
食料や生活必需品は潤沢。
これで米だけ生活ともおさらばだ!
やったね!!
……うん、やったね。
確かに良かった。
ここでの生活の質は良くなるだろう。
でも俺は、そんなのじゃ満足できない!
「田中、ダッサン、キム。俺がスキルに極振りしたのは言ったけど、そのスキルで出来るようになったことはまだ教えてなかったよね」
みんなについていけないなら仕方ない。
今回は諦める。
「おう、それ聞こうと思ってた」
「ユーマが極振りするなら、やっぱり【特許権】って凄いスキルだったの?」
「ステータスは全然だったけど、スキルでめっちゃ役に立つって言うなら、俺らが全力でユーマを守ってやらんことはない。湊にも交渉してみる」
「ありがと。でもごめん、戦闘で俺自信が役に立てることはない。だからやっぱり、みんなと一緒には行けない。だけど──」
ひとりでもみんなを追いかけられるような圧倒的ステータスを得れば良い。
「俺がスキル【特許権】で使えるようにした激強魔法、みんなに使って欲しいんだ」
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