異世界メイド喫茶

ユニ

第1話 異世界転移したら猫耳ついてました。

 はぁ~癒やされるぅ~。

 あたしが働いているレストランとは大違い。


 かわいい女の子がお給仕するのを愛でながらのティータイムは天国ね。


 月曜日のお昼すぎ。

 この時間帯はお客さんも少なくてメイド喫茶では狙い目の時間なのだ。

 あたしは土日のシフトは必ず出さないといけないから平日しか休めないのだ。

 平日休みなのはむしろ好都合だけどね。


 十三連勤からの二連休。

 今日は午前中から家を出て池袋で同人誌をいくつかみつくろった。

 以前から狙っていたゲームソフトを購入。

 そして帰りにメイド喫茶に立ち寄る。

 明日は一日中引きこもって録りためたアニメを見てからゲーム三昧。


 うん、ワレながら立派なヲタ活動だ。

 いいの。いいの。あたしは幸せだから。

 本当は、あたしもメイドさんやってみたいとか思う事もあるけど容姿に自信が無いし……。

 

「いってらっしゃいませ! お嬢様」


 かわいいメイドさんに見送られて、いざ自宅警備へ。

 勢いよく進もうとした所で後ろから声をかけられた。

 振り向くとあたしの推しのメイドちゃんがちょっと寂しそうな顔で立っている。


「マミさん……」


 え? どうしたんだろう?


「また来てくださいね。お待ちしています」


 メイドちゃんお決まりのセリフではない普通の友達チックなお別れの言葉。

 常連だけに許された挨拶。


「う、うん。またね」


 あたしも少しぎこちないけど友達みたいに挨拶する。

 店内に残っているお客さんがこちらを見ている気がする。

 だって人気のメイドちゃんがお見送りの挨拶の後にわざわざ呼び止めて話をしてるんだから気になるのは当たり前。


 優越感を感じてしまう。


 気分良くお店を後にした。

 駅へと向かい大通りに出ていつもどおり歩いていると……。


「あっ! 猫ちゃん」


 まっくろで小さい子猫ちゃんが道路を渡ろうとしていた。

 ちょっと怯えながらちょこちょこ歩いてるのが、かわいい。

 黒猫は不吉な前兆なんて事も聞いたことがある。


 けど都内で猫を見かけるなんてめづらしい。

 アニメでは黒猫は定番のキャラクターだし今日は何かいい事が起きそうだ。

 なんて思ってると。


「危ない!」


 思わず叫んだ。

 そして、言葉より先に体が動いていた。

 あたしは黒猫ちゃんを抱きかかえて道路の真ん中にいた。

 振り向くとトラックが迫って来ていた。

 思わず目をつぶって叫んだ。


「ぶ、ぶつかる!」




※ ※ ※ ※ ※




「う、うぅ~ん」


 おひさまがさし涼しいそよ風が、ほおをなでる。

 緑色の絨毯と見間違えるほどの綺麗な芝生の上に寝っ転がっていた。

 ぼんやりした視界から辺りの様子が浮かびあがってきた。


 あ、あれ?

 ここは公園?

 芝生の外では人や馬車が行き交っている。


「え!? 馬車!?」


 あたりを行き交う人々は鎧を着た兵士。

 ワンちゃんの顔をした人?

 とてもおおきな巨人さん?

 ギルドや武器屋なんて看板をかかげたお店。


「もしかして異世界?」


 頭のあたりとおしりのあたりがピクっとするのを感じた。

 両手で頭を触ってみる。

 なんだか、ふわふわ、もふもふしたモノがついている。

 今日は休みの日なので長い髪をおだんごにはしてなかったはず。

 

 恐る恐るお尻のあたりをさわってみる。

 ふわふわ、もふもふしている。

 振り向いて見てみると……。


「し、しっぽ!」


 まっ黒なふわふわもふもふした尻尾が生えている。

 という事は……。

 ああ、やっぱり。

 あたしの目の横についていたはずの耳は無くなってしまっている。

 代わりに頭の上あたりで、ふわふわもふもふな感触。


「猫耳と尻尾が生えたみたい」

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