第49話 死ぬ死ぬマンandザ・ファントムズ
『おい! 音声切るなよ!』
『何も聞こえないぞ!!』
『卑怯だぞ! 死ぬ死ぬマン!!』
『てか、グミちゃんとマリナちゃんだろ。ファントムズ』
『男は誰?』
『知らん』
『聞こえてますか〜』
『今何階? 今から差し入れに行くから教えて』
『タケシちゃん、後で話の内容教えてね』
『トマベチさん、抜け駆け狡い!』
音声を切った途端、コメント欄にはクレームが溢れた。しかし、全てを聞かせるわけにはいかない。何がどう転ぶか分からないのだ。
「ウゥ……! ウウウアアァァアアァァ!」
「師匠……! 元気そうで良かったです!」
仮面を付けたままグミとマリナが飛び付いてこようとするが、【女人禁制】のことを思い出してピタリと止まる。
「実際に会うのは病院以来だな。元気だったか?」
「ウゥアァ!」
「もちろん!」
本当に元気そうだ。
「さて、多分配信を見ていただろうし、こまめにDMでやり取りしていたから俺の状況は分かっていると思う。一応簡単に伝えておくと、俺はDライブのビルを全壊させた後、この新宿ダンジョンに逃げ込んだ」
「ウゥアァァ! アアァァァウウウアァァァ!」
「見てました! 最高に気持ちよかったです!」
二人、仮面越しに瞳をトロンとさせる。
「その後は支援者の差し入れを受けながら、逃亡の日々だ。一番のピンチは俺が寝ている間にカメラのバッテリーを抜かれそうになった時。あの瞬間は本当に危なかった」
「配信を見てて、心臓が止まりそうになりましたよ!」
マリナがグッと拳を握る。
「さて、二人はどうだった?」
グミとマリナが顔を見合わせ、口を開く。
「師匠に言われた通り、久保先輩を探しました。鶯谷駅周辺はウェアウルフに見張らせ、私達は近隣の病院をしらみ潰しに。そこで、見つけたのです。暗い顔をした久保先輩を」
俯いていた白仮面の男が顔を上げる。ひどく申し訳なさそうだ。
「八幡君。僕は──」
「謝らなくていい」
「でも!」
「俺が知りたいのは事実だけ。Dライブから声が掛かったのはいつだ?」
答えに詰まる。
「……ギガース討伐の前日だよ」
「もっと前からDライブと繋がっていたのでは?」
「違うよ! 八幡君達と別れたあと、急にDライブの人に話しかけられたんだ。そして──」
「母親を救いたいなら、死ぬ死ぬマンを裏切れ? だろ」
「ごめんなさい! 高位の回復アイテムがあるって言われて! それを飲ませれば、癌もなくなるって!」
「で、結果は?」
「体調は良くなったけど、癌は変わらずだよ……。僕は愚か者だ」
仮面の奥に涙が浮かぶ。
「その経緯は分かった。大方、予想通りだ。次に久保の能力について教えてくれ。お前のあれはなんだ?」
「僕の持っているスキルは一つだけ。【幻術】だよ」
やはり、そうだったか。
「効果は?」
「僕の身体を見た相手に、幻を見させることが出来る。効果範囲も内容も思い通りになる」
見込んだ通りだ。
「そのスキルのことを知ってる人は他にいるか?」
「正確に把握している人はいないと思う。Dライブの人にも本当のことは話してないし。そもそも【幻術】はガチャオーブで手に入れたんだ」
都合がいい。
「さっき、謝らなくていいと言ったが、罪は償うべきだ。久保、お前には俺達と一緒に新宿ダンジョンの攻略を目指してもらう」
「えっ……!? いいの……!?」
「そのつもりだったんだろ?」
「いや、僕はとにかく謝りたくて……」
「謝罪してもお前の母親は助からない。見込みがあるとすれば、新宿ダンジョンの攻略だけだ。久保がいれば戦術の幅が大きく広がる。攻略も夢じゃないとおもっている。……やれるか?」
瞳に力が篭る。
「やるよ!!」
力強い声が転移部屋に響いた。
「師匠! 死ぬ死ぬマンandザ・ファントムズの結成ですね!!」
「うっ……あぁ。そうだ。よろしく頼むぞ」
三人揃って「はい!」と返信をし、死ぬ死ぬマンandザ・ファントムズが結成されてしまったのだった。
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