第11話 新宿ダンジョン

 新宿歌舞伎。怪獣のオブジェで有名なビルの真横に新宿ダンジョンは大きな口を開けている。


 かつては家出した十代の聖地だったこの場所に、その頃の面影はない。見渡す限り、ダンジョン攻略に人生を捧げる探索者ばかりだ。


「ウゥ……」


 鋭い視線がグミに集まる。


 何でグールがいるんだ? 何でナース服なんだ? と訝しんでいるようだ。ちなみにグミは今日も男物のボクサーパンツです。


「大丈夫だ。俺がついてる。行くぞ」


「ウゥ!」


 格好をつけてみたが、俺はまだレベル1である。新宿ダンジョンの推奨はレベル10以上。完全に【配信命】のスキル頼みだけど、まぁ、大丈夫やろ!


 探索者の視線を無視してダンジョンの入り口まで来ると、管理人が待ち構えていた。


 こいつもスキンヘッドだ。デジャヴ感ある。


「免許証を」


 渋い声だ。


 あらかじめ出しておいたダンジョン免許証を渡す。


「……まだ取得したばかりだな。お前、レベルは?」


「レベル1です!」


 正直に答える。見栄を張るのはよくない。


 管理人は俺のすぐ側を飛ぶ、ドローン型カメラを睨みつけた。


「駆け出しの配信者が話題作りのためか。悪いことは言わない。やめておけ。ここはそんなに甘くない。せめてレベルが10になってから来るんだな」


 やはり止められたか。


「俺にはテイムモンスターがいるので大丈夫です!」


 グミが一歩前に出る。


「……グールか。珍しいな」


「グールはコボルトより強いです! 一階なら問題ない筈です!」


 管理人は少し悩んだあと、俺に免許証を返して「通れ」と言った。そもそもの話、ダンジョン免許証さえあればダンジョンには入れる。俺を止めたのはただの善意なのだ。


「よし、グミ行こう!」


「ウゥ!」


 新宿ダンジョンの入り口の横には大きな石碑が立っていた。


 そこに刻まれている言語は地球のものではない。【翻訳】のスキルを持つ有名な探索者が解説するには、こんな意味の言葉らしい。


『このダンジョンを攻略した者は、あらゆる願いが叶うだろう』



#



 新宿ダンジョンの一階は他のダンジョンと同じようにゴツゴツとした岩の通路だった。ほんのりと光る天井も他と変わらない。違いと言えば──。


「ウォンウォン!!」


 ──モンスターの出現頻度だ。


 コボルトの鳴き声にグミが身構えた。通路の先から早くも棍棒を振りかぶった犬のモンスターが駆けてくる。


「俺がやる!」


 ──カチン! とHPの壁が棍棒を跳ね返した。コボルトは目を見開く。


「オラッ!」


 コボルトの膝を金属バットで叩く。キャンと悲鳴が上がり、犬っころは地面に転がった。そこからは作業だ。バットで何度か鈍い音を響かせたあと、魔石が現れた。初戦は完勝。


 脳内ステータスを確認するとHPの上限は1000を超えている。グミのナース服姿が効いているらしい。


 コメント欄も元気だ。



『グミちゃんナース服でダンジョン草』

『死ぬ死ぬマン、意外と堅実だな』

『気を抜くなよ。そこは新宿ダンジョンだ。他とは違う』

『ほら、さっさと魔石拾って次にそなえろ!』

『早く武器ドロップしないかな。金属バットじゃ辛い』



 確かに武器は欲しい。配信用のカメラやバッテリーに全財産を注ぎ込んだので、ダンジョン用の武具は買えないからな。


 防具はHPで代用出来るからいいけれど、いつまでも金属バットでは辛い。


 しかし、俺には当てがあった。


「ウォンウォン!」


 ちっ、またコボルトかっ! こんな雑魚に用はないのだが──。


「おおぉぉ!」


 HPの壁を利用してタックル、そしてテイクダウン。思いっきり後頭部を地面に打ち付けると、コボルトはそのまま魔石になった。


 

 何度も戦闘しながら目的地に向かって進む。新宿ダンジョンの配信は昔からよく見ていたので、道はばっちり覚えている。



『なぁ、これって……』

『あれ? 二階の転移石そっちじゃないよ』

『まさか、あの地帯に?』

『やば! 溶岩チャレンジするつもり!?』

『うおおおおお!! めちゃくちゃ楽しみ!!』

『溶岩地帯は無理っしょ!!』

『同時接続数増えればいける……!?』

『溶岩ってHPの壁で防げるの?』

『やべぇぇ!! みんな拡散しよう!!』

『死ぬ死ぬマンの溶岩チャレンジやぁぁ!!』



 そう。俺は溶岩地帯に挑戦する。

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