第8話 一日の終わり

『絶対チャイナだろ!』

『馬鹿が! ナース服こそ至高!!』

『バスタオルのままがいい!!』



 グミに何を着せるかで視聴者同士が揉めている。


 当の本人は何の事か分からず、ソファーに座ってぼんやり。ノートパソコンの画面に物凄い勢いで流れるコメントを見つめていた。


「分かりました! 日替わりにしましょう!! 今日はチャイナドレスです。明日はナース服。明後日はバスタオル」


 俺の提案に一応、視聴者は落ち着いた。しかしある一人が次の爆弾を落とす。



『パンツはどうする? はかせる?』



 ……パンツのことは考えていなかった。流石にウチのホテルでも下着の貸し出しはしていない。勿論、母親のモノを付けさせるわけにもいかない。



『馬鹿野郎! グールは元々パンツなんて穿いてないだろ?』

『そうだ! 下着なんていらない!!』

『はぁ? ランジェリーはいるに決まってるだろ!!』

『あの灰色の肌には赤い下着が似合う』

『ちょっと! 男の人キモ過ぎる!!』

『女子供は黙ってろ!!』



 駄目だ。収集がつかない。もう本人に決めさせるしかない……!!


 俺はバスローブを脱ぎ捨てパンツ一丁になった。そしてグミに問いかける。


「パンツはく?」


「ウゥ?」


 両手の人差し指でパンツを指し示し、もう一度尋ねる。


「パンツはく?」


「ウゥ!!」


 コクコクと頷く。どうやら穿くらしい。


「ちょっと今は女モノのパンツはないんだ。まだ穿いてない俺のパンツがあるから、とりあえずそれで我慢してくれ」


 タンスから新品のボクサーパンツを出してグミに渡すと、俺の真似をして器用に穿いてみせた。そしてその上からチャイナドレス(ミニ)を着せる。


「とりあえず今日のところは! これで許してください!!」


 グミをカメラの前に立たせ、クルクルと回す。



『お、ぉぉおん。まぁ、いいんじゃないかな』

『グミちゃん可愛い!!』

『風呂入ったら綺麗になったね』

『ボクサーパンツの安心感』

『身体のラインが強調されてなんとも……』



 概ね好評だな。女用の下着はまた今度入手しよう。欲しいモノリストを公開して、視聴者から貢がせるのもアリだな。


 グミはなんとなくカメラの役割を理解したようで、パソコンのモニターに映る自分の姿に興味深々だ。色んな格好をしてモニターに映し出される自分の姿確認している。


 しばらくはこれで視聴者数が稼げそうだ。


「ちょっと今日は色々あり過ぎたので、少し眠りたいと思います。勿論配信は続けたまま。グミは起きていると思いますので、俺が寝ている間に何をやっていたか、明日教えて下さい!」



『オッケー死ぬ死ぬマン! 任せとけ』

『死ぬ死ぬマンのHPは俺達が守る!!』

『グミちゃんで命拾いしたな』

『死ぬ死ぬマンさん! お疲れ様でした!!』



 据え置きカメラを寝室に移動し、ベッドの映る場所に置く。メインチャンネルは寝室、サブチャンネルは首元のアクションカメラ、サブサブチャンネルはリビング。合計三ちゃんねる3チャンネル配信だ。


 これだけやっていれば、視聴者がゼロになることはない。そもそも自分のパソコンで接続しているしね。


 安心してベッドに横たわる。


 ついて来たグミが、何も言わずにベッドの端に腰を下ろした。あまり側から離れるつもりはないらしい。


 しかし眠い。瞼が重い。


 意識が落ちる前に脳内ステータスを確認すると、HPの上限は4000を超えていた。


 たった一日でとんでもない躍進だ。めちゃくちゃ気分がいい。もしかして俺は天才なのでは? と感じている。


 しかし、油断は禁物。配信者の世界は群雄割拠。常に新しいチャレンジが必要だ。何か大きな目標をぶち上げて、それに向かって行動していかなければ……。


 考えをまとめているうちに、意識は落ちていた。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る