第7話 お風呂配信

「じゃ、グミ。今着ている襤褸切れを脱いで」


「ウゥ……?」


 首を傾げている。全く伝わっていない。


「服を脱ぐの!」


「ウゥ……?」


 駄目だ。このままだと先に進まない。視聴者が焦れ始める。今日はチャンネル登録者を増やすチャンスの日。サクサク展開で行きたい。


 俺は防水仕様のアクションカメラを風呂場に固定した。そして──。


「こーやるんだ」


 ──自分の服を脱いだ。


「ウゥ!」


 グミは理解したらしい。なんの恥じらいもなくその身を覆っていた布を脱ぎ捨てる。


「……や、やるじゃないか」


 グミは着痩せするタイプだった。筋肉質で引き締まった身体に、デン! と双丘がある。


 さて、ここからが重要だ。今から行うのは、あくまでテイムモンスターの世話。汚れた身体を綺麗にするのだ。決して、決していやらしい行為ではない。いやらしい見えてもいけない。


 俺が直接洗うと、問題になる可能性がある。視聴者に通報されたらお巡りさんはすぐにやってくるだろう。


 やはりここは、お手本を示すべきか。


 浴室に掛けてあるボディータオルを手に取り、ボディーソープで泡立てる。そして自分の身体を洗ってみせた。あれ? 俺は何を配信しているんだ?


「こーやって洗うんだ! わかる?」


「ウゥ!」


 グミにタオルを渡すと自分の身体を洗い始めた。泡の感覚が面白いらしくニコニコ笑っている。これは……いいコンテンツかもしれない。モフモフではないが、眺めているとちょっと癒し効果があるぞ。


「じゃ、流すぞ!」


 視聴者から出が悪いとディスられていたシャワーで、グミの身体の泡を洗い流す。今までの饐えた臭いがなくなり、肌も艶々としている。


「次はシャンプーなんだけど、大丈夫かな?」


 俺とグミの手にそれぞれシャンプーをツープッシュ。お手本を見せるために先ず洗ってみせる。するとグミも自分の頭を泡だて始めた。


「アァァァ!」


 シャンプーが目に染みたらしい。


「今流すから暴れないで! 大丈夫! 大丈夫だから!!」


「アァァァ! アァァァ!」


 グミは鋭い爪のついた手を振り回す。何度も身体に当たってHPが減った。入浴、危険だな。


「ほら! もう痛くないでしょ? 髪も綺麗になったよ!!」


「ウゥ……」


 どこか納得いかない表情のグミだったが、バスタオルを渡すと落ち着いた。それを身体に巻き付け、満足気だ。


「いや、それが服ってわけじゃないからね? てか、服どうしようか」


 この部屋に女モノの服なんてない。隣の部屋からうちの母親の服を取ってくる? いや、それは流石になぁ。何かないか……。


「あっ、そうだ! ラブホのお客さん用のコスプレ衣装があるわ!」


「ウゥウェ?」


「そう、コスプレ! ちょっと待ってて! 借りて来るから」


 俺はざっと身体を拭き上げ、バスローブだけ雑に纏ってフロントへと急いだ。



#



「タケシ! やっぱりあんたモンスターにやらしいことを!」


 俺のバスローブ姿を見て、母親が声を上げた。


「違うから! お風呂の入り方を実演して教えてただけだから!!」


「嘘おっしゃい!!」


「本当だって! 後で本人に聞いてみればいいだろ? そんなことより、コスプレの衣装貸してくれない!?」


「二回戦目はコスプレってことかい……!?」


「違うってば!! 着せる服がないから、コスプレ衣装を借りようと思ったの。母さんの服、サイズ合わないでしょ?」


「……本当だろうねぇ? それでどんな衣装がいいの?」


 衣装選びは重要だ。なるべく視聴者が喜ぶものにしないと。


「チャイナドレスかナース服。なるべく短くてエロいやつ」


「タケシ、恥ずかしくないのかい? モンスターにそんな格好させて」


 母親が真顔だ。


「今は何より視聴者を稼ぐことが重要だから! 手段は選んでられないの!!」


 熱弁を続けると、母親はついに折れた。そして俺はチャイナドレスとナース服を手に入れたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る