タヌキの里から追放された九本しっぽのタヌキは伝説の九尾狐とかんちがいされてキツネの里でかつがれる

しゃぼてん

タヌキの里から追放された九本しっぽのタヌキは伝説の九尾狐とかんちがいされてキツネの里でかつがれる

 ある朝、タヌキューがめざめると。


「うん? なんか、おしりがいつもよりあったかいなー。あと、なんか、おもたいぞぉ?」


 あくびをしながら起きあがってせのびをした後。タヌキューはかがみを見た。


「うわっ! うしろに大きな毛むくじゃらがいる!」


 タヌキューは、うしろをふりかえった。

 なにもいない。


「あれ?」


 タヌキューはもういちどかがみを見た。


「この巨大な毛むくじゃら、おれのしっぽかなー?」


 よく見ると、タヌキューのしっぽは9本に増えていた。

 でも、太いしっぽが9本もあるもんだから、ぜんぶくっついて、大きな毛むくじゃらに見えたのだ。

 9本しっぽは、タヌキューの体より大きい。


「まぁ、いっかー」


 タヌキューは外にでて、タヌキの集合場所の古寺ふるでらにむかうことにした。

 この地区のタヌキたちは定期的に古寺に集まって会議をする。キツネの里と戦争中だから、キツネのこととか、他のいじわるな動物、たとえばニンゲン、がしてくるいやがらせについて対策を話しあうのだ。

 タヌキューは歩きながら、ぼやいた。


「しっぽが重たいなぁ。あるくのもたいへんだよー」


 タヌキューが古寺に入ると、タヌキたちが、ぎょっとした顔でタヌキューを見た。


「げっ! なんだ、あいつ!? しっぽがすごいでかいぞ?」

「しっぽが体より大きいぞ?」

「タヌキューのやつ、しっぽが増えてるぞ?」


 タヌキューがすわると、となりのタヌキがタヌキューにたずねた。


「おまえ、そのしっぽ、どうしたんだよ?」

「朝おきたら、ふえてたんだよー?」


 タヌキューはのんびりとこたえた。

 でも、タヌキたちは、ざわざわと、ささやきあっていた。


「しっぽがふえるなんて、ありえないぞ?」

「ばけものみたいだ」


 大昔は、タヌキとキツネが変身してかし合っていたとかいうけど。近頃はタヌキもキツネも変身なんてできない。

 魔法とか変化の術とか、そんなものは現実には存在しない。と、今時のタヌキはみんな考えている。だから、とうぜん、タヌキのしっぽがふえるなんて、ありえない。



 それから数日後。タヌキューは地区会長に呼び出されて、いつもの古寺に行った。

 古寺には、この辺りのタヌキがみんな集まっていた。タヌキたちはみんな、むずかしい顔をしている。

 会長は言った。


「タヌキュー。おまえのしっぽは、ぶきみだ。おまえ、なにか悪いことをしたんだろう」


「おれは何もしてないよー。朝おきたら、こうなっていただけだよー」


 タヌキューはそう言ったけど、会長はむずかしい顔をしたままだ。


「いんや。おまえ、悪いことをしたんだろう」


「おれは、なにもしてないよぉ。それに、おれは何もかわってないよー。しっぽが8本ふえちゃっただけだよー」


 タヌキューはそう言ったのに、タヌキたちは信じてくれなかった。


「しっぽがかってに増えるもんか。きっと悪いことをしたんだ」

「それに、悪いことをしてなくても、しっぽが9本もあるタヌキなんて、見た目がきもちわるいんだ。おまえなんて、視界に入ってくるな」

「そうだ、そうだ。いなくなれ」


「やだよぉ。おれは、なにも悪いことしてないんだからー」


 タヌキューは、もっともなことを言った。

 その日はそれ以上何も言われず、タヌキューは家に帰った。

 だけど、それから、毎日、タヌキューは他のタヌキたちに「ぶきみなしっぽを見せるな」「きもちわるいんだよ。出ていけ」「しっぽが9本なんて、悪いタヌキに決まってる」と言われ続けた。

 だからタヌキューは、すっかりつらい気持ちになってしまった。

 そして、しっぽが9本にふえてから9日後に、タヌキューはがまんできなくなって、タヌキの里を出ることにした。



 タヌキューは、タヌキの里、「たぬきがくれの里」を出ようと、どんどんどんどん、里の外にむかって歩いて行った。

 数日後。タヌキューは、たぬきがくれの里のはずれにたどり着いた。


「ふぅ。たぬきがくれの里のはずれだー。でも、この先はきつねがくれの里だから、気をつけないとなぁ」


 たぬきがくれの里ときつねがくれの里は、領土りょうどをとりあってずっと戦争をしている。

 戦争といっても、やばんで残虐ざんぎゃくなニンゲンとちがって、タヌキとキツネはころしあいなんてしない。

 かみついたり、ひっかかいたり、ぶんなぐったりして敵の兵士を追い払うだけだ。

 だけど、殺されはしないだろうけど、タヌキのタヌキューがキツネにみつかったら、ひどい目にあわされてしまう。

 用心してタヌキューが歩いていたら。


「おい! 何者だ!」


 タヌキューは、さっそく見つかってしまった。


「あちゃー。このしっぽ、大きすぎるから、すぐ見つかっちゃったよー。どうしよう」


 タヌキューがつぶやいていると。

 キツネの兵士が数匹出てきて、タヌキューをかこんだ。


「たぬきがくれの里のスパイか!?」


「ちがうよー。おれは……」


 タヌキューがどう言おうかまよっていると。キツネがびっくりしたように叫んだ。


「こ、こいつ、しっぽが9本ある……。ひょっとして、宰相さいしょうから探すように言われていた伝説の九尾きゅうびきつね様か!?」


「え? キューリのキツネ?」


 タヌキューは首をかしげたけど、キツネたちは、感激したようすで叫んでいる。


「九本のしっぽをもっていて、キツネを栄光の勝利と繁栄はんえいへとみちびいてくださるという、キツネの里の救世主きゅうせいしゅ、九尾狐様!?」


 タヌキューは、ますます首をかしげた。


「キツネの里の救世主きゅうりきつね様? でも、おれ、きゅうりでもキツネでもなくて、タヌキだよ? ほら、このほっぺた横のもさっとしたプリチーな毛と、短い鼻に小さい耳のかわいい顔。どっからどう見ても、タヌキでしょ?」


 でも、タヌキューの言うことを、キツネたちは聞いていなかった。


「まさか、伝説の九尾狐様が本当にあらわれるなんて!」


 タヌキューもおどろいて、もういちどタヌキだと言ってみた。


「えー? ほら、おれ、キツネよりまるっこい体で、色も濃い茶色だし、しかもどう見ても顔と前足が、黒いでしょ? 色も形も、どう見てもキツネじゃなくて、タヌキでしょ?」


 キツネたちは感動したようすだ。


「しっぽが9本あるキツネが本当にあらわれるなんて!」


「だから、しっぽが9本あるタヌキだってば……」


 キツネたちは、いっさい、タヌキューの主張を聞かなかった。

 こうして、タヌキューはキツネたちに連れられて、なぜかキツネの里に行くことになった。




 数日後。タヌキューは、きつねがくれの里のごうかなやかたの中で、玉座にすわっていた。


「あのー。おれ、タヌキなんですけどぉ?」


 タヌキューは玉座のそばでかしこまっている宰相キツネにそう言った。


「なにをおっしゃる。九尾狐様」


 きつねがくれの里で一番えらい宰相キツネは、タヌキューのことを九尾狐様と呼び続けている。タヌキだって言っても信じてくれないけど、タヌキューはもういちど言った。


「だって、ほら、色も形も……」


 宰相キツネは、首をかしげた。


「なるほど。たしかに、九尾狐様はキツネにしては、もさっと芋っぽくて太りすぎの中年おやじみたいな体形に見えますね」


「なんか悪口言われてるように聞こえるけどー。その通りだから、まぁ、いいや」


 宰相キツネは、そこで一礼した。


「かしこまりました。九尾狐様をあかぬけさせるために、里で一番の美容師を連れてまいります」


「えー? そうなるのぉ?」


 数時間後。宰相キツネは、さっそく里一番の美容師キツネを連れてきた。


「コンコンコーン。これは、やりがいがありそうですね」


 美容師キツネは、タヌキューを見て、うれしそうに鳴いた。


「では、まずは、全身をスマートにカットしていきます」


「おねがいしまーす」


 タヌキューは、もうあきらめて、されるがままに全身の毛をカットされた。


「はい、できました。コーン。ごらんください。こんなにせんれんされたお姿になりましたよ」


 かがみがタヌキューの前におかれた。

 かがみにうつった自分の姿を見て、タヌキューはびっくりした。

 おなかまわりの毛がカットされて、今のタヌキューはキツネみたいに手足の長いすらりとした体形に見える。タヌキとしては、あまりいい体形じゃないんだけど。

 それから、顔の横のプリチーな毛もすっかりカットされて、キツネみたいにすっとした顔に見える。タヌキとしては、かわいさ半減なんだけど。

 さすがに、丸くて小さな耳はかわっていないけど。なんだかタヌキューはタヌキっぽくなくなった。


「耳いがいは、キツネっぽくなったねー」


 タヌキューがそう感想を言うと、美容師キツネは自信満々に言った。


「ご心配なく。おしゃれなつけ耳を用意してあります」


「つけ耳ー? そこまでするー?」


「コンコーン。いまどきのキツネは、みんな、おしゃれなつけ耳をつけていますよ。ヒット曲『つけ耳つける』をごぞんじでしょう?」


「しらないなー。きつねがくれの里にはそんな流行があったんだねー」


「コンコーン。では、次は全身の毛に脱色ブリーチをかけて白くしていきます」


「はいはーい。どうぞー」


 タヌキューはされるがままに、全身の毛に色を落とす薬をつけられた。

 それから、しばらくたって。おふろに入ってあがってきたら。タヌキューの全身の毛はすっかり白くなっていた。

 美容師キツネは満足そうに鳴いた。


「コンコーン。お腹以外を金色に染めることもできますが。九尾様は、全身真っ白なこのままの方がおにあいです」


 かがみを見ながら、タヌキューはすっかり感心してしまった。


「すごーい。すっかりキツネっぽくなってるよー」


「すっかり今時のキツネっぽくなりましたね」


 宰相キツネもほめてくれた。


「あとは、このつけ耳をつければ、かんぺきです」


 美容師キツネは、白いふさふさの大きな三角形のキツネ耳をとりだした。

 白いつけ耳をつけると、タヌキューはどっからどう見ても、かっこいい九尾のキツネだった。

 タヌキューはのんびりと言った。


「なんだか、すごいキツネ気分になってきたよー」


「これなら、一目でだれもが感じ入り、伝説の九尾狐様のまえにひれふすことまちがいありません」


 宰相キツネは、満足そうにうなずくと、美容師キツネを帰らせた。

 それから、宰相キツネは地図をとりだした。


「では、九尾狐様。たぬきがくれの里侵攻作戦を始めましょう」


「えー? たぬきがくれの里侵攻?」


 宰相キツネはあたりまえだと言うようにうなずいた。


「はい。我々は、たぬきがくれの里と戦争中ですから」


「そういえば、そうだったー」


「九尾狐様はきっと我々を勝利へと導いてくれると、里じゅうのキツネたちが、兵士に志願しております。士気はこの上なくあがっており、今、この時こそ、たぬきがくれの里に攻め入る時です」


「そっかー。みんなやる気なんだねー。たぬきがくれの里を攻め落とすのって、タヌキとしてどうかと思うけど。おれは追放されちゃったんだから、ま、いっかー」


「計画はすでに立案してあります。では、明日さっそく出発しましょう」



 翌日、タヌキューは、おみこしみたいな乗り物に乗って、キツネの兵士たちといっしょにおでかけした。

 キツネの兵士たちは、みんな、白い九尾狐様を見て感動していた。誰も九尾タヌキだとは気がつかない。


 しばらくすると、きつねがくれの里のはずれについて、その辺りからタヌキの兵士が出てくるようになった。

 タヌキの兵士たちは白い九尾狐を見て、おそれおののいた。

 一方、勝利を確信しているキツネたちは、なんかそのノリで連戦連勝、タヌキをけちらしていった。


 宰相キツネは言った。


「さすが、九尾狐様のお力です」


「おれはなにもしてないよー?」


「またまた、ごけんそんを。さて、九尾狐様。この先にタヌキの軍勢ぐんぜいが集まっています。この先のクシャミガハラが決戦の地となるでしょう。でも、九尾狐様がいる今、我らの勝利はまちがいありません」


 宰相キツネが言う通り、クシャミガハラでも、キツネたちは楽勝だった。

 タヌキの軍勢は伝説の九尾狐の姿を見るだけでふるえあがっていたし、キツネたちは勝利を信じて自信満々、実力以上の力をだしたから、かんたんに勝てた。


 こうして、きつねがくれの里は、たぬきがくれの里に勝利した。

 里のタヌキたちは、みんな持てるだけの荷物を手に、別の土地へと逃げ去っていった。

 タヌキの兵士や逃げていくタヌキのなかには、タヌキューの知り合いもいたけど、誰もタヌキューの正体に気がつかなかった。



 さて、戦争が終わった後。きつねがくれの里の領地になった古寺でリラックスしながら、タヌキューは宰相キツネにたずねた。


「ねー。宰相さんは、ほんとに、おれがキツネだと信じてたのー?」


 宰相キツネは、うれしそうに笑いながら、はっきり言った。


「まさか。九尾狐様は、どっからどう見ても、九本しっぽのタヌキでしたよ」


「やっぱりー?」


 宰相キツネは、満足そうに説明した。


「でも、タヌキをキツネに変えるのは、キツネにしっぽを九本はやすより簡単そうでしたので。偵察ていさつキツネから九本しっぽのタヌキがあらわれたと聞いた時に、私はあなたを九尾狐様として迎え入れることに決めたのです」


「じゃ、かってにだまされたふりをしてたんだねー」


「そのとおりです。里の全員がだまされて、計画通り戦争に勝てました。だまされるが勝ちですよ」


 宰相キツネは、うれしそうに笑った。


「へー。だまされるが勝ちかー。すごいねー」


「九尾狐様のだまされっぷりも、たいしたものです。みごとに、たぬきがくれの里に復讐ふくしゅうをはたされたではありませんか。おたがい、良いだまされあいでしたね」


「そうかなー」


 タヌキューはその後もきつねがくれの里で、ちょっとタヌキっぽい九尾狐様として、のんびりくらしたとさ。




 おわり。

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