ビールの最初のひとくち目

yasuo

ビールの最初のひとくち目

まだ6月だというのに40度を超えてる地域もあるらしい。

聞いたところによると沖縄やインドより暑いという噂もある。

どうなってしまったんだ日本。


一方この部屋は冷房を惜しみなく効かせている。

少し肌寒くて毛布をかぶって横になり、背徳と贅沢とお昼寝だ。

窓の外には街並みに鉄塔、山と入道雲が夏の到来を告げている。


休日とはいえだらだらするのも疲れたので(これまた贅沢な物言いである)、窓を開けてベランダに出る。

その瞬間熱気が体を包み、気の早い夏の洗礼を受ける。

冷房で冷えた体が温められていく、この時間がたまらない。

夏で最も好きな瞬間とさえ思う。

すぐに暑くなって不快になるわけだが、それまでの束の間、快適な状態で夏を体感する至福の時間。

ビールの最初のひとくちに似ている。

別に美味しいと思わないのだが、最初のひとくちだけはなぜか格別だ。


変化が気持ちいいのかな。

新鮮さに飢えているのだ。

代わり映えのない毎日だから、少しでも新鮮さを求めているのかもしれない。

妙に納得して、スマホでマッチングアプリを開いた。

勢いに乗って人に会ってしまおう。

このアプリもまた、日常に新鮮さを流し込むツールだ。

日が暮れると外で飲むのに最高の気温になるだろう。


夏の始まりはいつもワクワクする。


***


ビールの最初のひとくち目。

屋外席の開放感。

目の前にはテーブルを挟んで初対面の人。

テーブルと言ってもビールケースを重ねた上に板を載せた簡易的なものだ。


面識のない人間と酒を飲むのが好きだ。

共通の知り合いもいないのがいい。

他のテーブルから声をかけられたりするのも好きだ。

酔っていると自分から声をかけることもある、、かもしれない。


人間関係も最初だけでいい。

関係が続くと途端に面倒くさくなる。

後々のことを考えてしまうから。

気を遣ったり、言いたいことを言えなくなる。

その場限りの関係ならば、失礼なことを言ってしまっても、恥ずかしいことを知られてしまっても、どうってことはない。

どうせ赤の他人だ。

結果的に、距離が近くなって仲良くなったりする。

仲良くなってもそれきりだけど。それがいい。

花火みたいに、人生みたいに、終わりがあるから尊いのだ。


冷房の効いた部屋から出たときの熱気。

ビールの最初のひとくち目。

人間関係。花火。人生。


無理矢理すぎるな。。と心の中で独り言ちながら、一杯目のビールを飲み干してメニューを手に取った。

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