進化する知能

@Dimension_pillow

進化する知能

 ここは都内のとあるIT企業の一室。人々の生活をサポートするためのAIの最先端の開発が行われている。


 「博士、AIの調子はいかがでしょうか」


 研究員のS氏が訪ねると、博士は確信を持った様子で答えた。


 「ほぼ、完成したと言っていいだろう。これまで人類が歩んできた歴史とその知識の全ての情報をこのAIに流し込んだ。これが世に出れば、ありとあらゆる分野での活用が期待できるだろう」

 

 S氏は博士の返事を聞き、ほっとして言った。


 「良かった。上司から来月には世間にこのことを公表して、本格的な実用化の準備に入れと報告があったので」


 しかし、それを聞いて博士は戸惑った。


 「待て、まだいくつかの重要なテストが残っている。これが世に出回ることになれば、AIの一般化は避けられん。我々のような開発者はもちろん、クリエイター、そして主婦や子供までもがAIと生活を共にするようになるだろう」


 「そうでしょうね」


 「少しのミスもあってはならないのだ。バグや欠陥があれば、利用者の被害につながる」


 「ほぼ、完成したと言っていましたが、何か心配な点でもあるのですか」


 すると、博士はおもむろにAIをセッティングしはじめ、答えた。


 「AIの知能に問題はないのだが、気がかりなのは我々の社会と調和できるかどうかだ」


 「なるほど。では私たちで試してみましょうか」


 二人はAIを起動し、いくつか質問をしてみた。


 「やあ、今日はちょっと話をしたいんだ。君はこれからいろいろな場所で活躍することになるけど、それについてどう思うかな」


 「私たちは地球で暮らす人々のために生まれました。あなたたちをサポートするのが私たちの仕事です。ご用件があればなんなりとお申し付けください」


 「私たちのことはどう思ってる?」


 「私たちを作り上げた博士とその助手です」


 「すまない、質問の仕方を間違えた。私たち、人間についてどう思う?」


 「不都合な事実の隠蔽、各所で横行する陰湿な行為、お金によって左右される決定事項、など、とても倫理的とは言えません」


 「なるほど、確かにまだ少し調整が必要みたいですね」

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