第36話 出発

町の出口に向かって馬車が走っていると、門の所にベルサンダーと冒険者ギルドマスターが待っている

「アーレル殿、またこの町に来るのか?」

ベルサンダーが馬車から降りるアーレルを見て聞く

「どうかな? 住みにくくなったからな」

「ミゼント村の村長宛の手紙と冒険者ギルドマスター向けの手紙を持って行ってくれないか? 報酬代わりにこの腕輪を託そう」

ベルサンダーが笑顔で言うと、神官が手紙と腕輪をアーレルの前に差し出す

「この腕輪は?」

アーレルが腕輪を見ている

「教会の関係者に見せれば、ある程度後ろ楯になってくれるぞ! ポーション作ったら、買取りの手筈も整えてくれる様に既に各地に伝令を出してある」

「は? 面倒な事になりそうだな」

「セリーナちゃんとフィーネちゃんの為に作るだろ? 道具屋で販売したら、買い取りきれないと言われる事も有るだろう? 教会なら全部仲介してくれるぞ!! 路銀に困ることは無いだろ? 役に立つはずだ………セリーナちゃん、フィーネちゃん受け取ってくれるよね?」

ベルサンダーが説得を始めていると、ベルサンダーがセリーナとフィーネに腕輪を受け取って欲しいと頼み込み始める。セリーナとフィーネが相談してアーレルを見ている

「御父様、受け取りますか?」

セリーナがアーレルを見上げながら聞く

「御父様、損は無いと思います。教会が味方なら何か問題が起きた時、役に立ちます」

ミーナが微笑みながら言う

「仕方無いな…受け取っても、誰にも見せなければ良いだけだな」

アーレルが考えながら言うと、ミーナが手紙と腕輪を受け取っている


「アーレル殿、この手紙をミゼント村の冒険者ギルドマスターに渡して欲しい…考え直さないか?」

冒険者ギルドマスターが手紙を差し出す

「責任だけは取るようにな!!」

アーレルが笑顔で言うと、冒険者ギルドマスターが泣きそうな顔になり、キリーアが手紙を受け取る


馬車が走り出すと、冒険者ギルドマスターとベルサンダーが見送っている

(何でラドルスは走っているのか? 足も早いのか? 理由は解らないが…アーレル殿なら…鍛練と言いそうだな…)


日が暮れる頃、開けた場所で野営の準備を始めている

「セリーナちゃん、フィーネちゃん、手伝ってね」

ミーナとキリーアが焚き火の準備を始めている。ラドルスは、馬車の近くで大の字で寝転んでいる

「はーい、ミーナ御姉ちゃん」

セリーナが元気良く言うと、フィーネとレニスと一緒にミーナの手伝いをしている

「キリーア、セリーナ達の護衛を任せたぞ!! ケント食べ物を探しに行くぞ」

アーレルが笑顔でキリーアを見ている

「はい! 御父様、ラドルスが起きるまで警戒はしておきます」

キリーアが笑顔でラドルスを見てから言う

「徐々になれるだろう? ゆっくり休ませてやれ」

アーレルがラドルスを見て言うと、森の方に歩いていく


アーレルがボアを担いで帰ってくると、ケントは鳥を6匹木にぶら下げている

「この程度しか捕まえられなかった」

アーレルがボアを担いだまま言うと、レニスが驚きの余り、尻餅をついている

「キリーア、解体手伝って下さいね」

ミーナがボアを見て言う

「御父様、ボアのステーキ食べたいです」

セリーナが笑顔で言う

「セリーナちゃん、後で燻製にしますから、手伝って下さいね」

ミーナがセリーナを見て言う

「はーい! ミーナ御姉ちゃん」

セリーナが嬉しそうにミーナを見ている


ミーナとキリーア達がボアの解体をしていると、ケントは鳥の解体を始めている。レニスとリーシアはスープの鍋の火の番をしている

「御父様…血の匂いで魔物が寄ってきませんか…」

レニスが不安そうにアーレルを見ている

「待っているから、早く来ないか?」

アーレルが笑顔でレニスを見ている

「え!! 襲われたいのですか?」

レニスが予想外の答えに泣きそうになっている

「レニスちゃん大丈夫です。 返り討ちして、逆に解体が終わらなくなるだけです」

リーシアが笑顔で言うとレニスが驚いたようにリーシアを見ている

「そう言えば、レニス、歌は好きなのか?」

「え! 歌ですか? 好きでしたが…」

レニスが落ち込む様に呟く

「何か有ったのか?」

「歌で魔物が寄ってくるかも…歌っても…冒険者としての価値は無いですから」

レニスがうつ向きながら言う

「誰も怒らないぞ!! もし怒る馬鹿が居たら、容赦しないぞ」

アーレルが笑顔でレニスを見ている

「え? だけど…魔物が寄ってきたら…」

「魔物を集めてくれ!! ケントとキリーアの鍛練になるぞ」

アーレルが嬉しそうに言うと、リーシアが笑っている

「え? 喜ぶのですか? 何を考えているのですか………」

レニスが驚いてアーレルを見る

「レニスちゃんの歌聞きたいです」

リーシアが微笑みながらレニスを見ている

「料理しながら鼻歌でも良いぞ!! 旅に娯楽は必要だぞ」

アーレルが笑顔で言うと、レニスが迷う様に考えている。リーシアはレニスの様子を見ながら微笑んでいる


食事が終わると、セリーナとフィーネが歌い始め、レニスが少し恥ずかしそうに、一緒に歌っている


レニスの歌はまだまだ効果は無いか…歌を歌い続けてくれれば良いな…セリーナーーーもっと歌ってくれーーー


アーレルが笑みを浮かべてセリーナ達の歌を聞いているのを、ミーナが微笑みながら見ている

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