異世界人に転生された双剣士は、人格が消えずに残ったので、自分に転生した廃ゲーマーの知識を借りてモンスターに支配された世界の英雄になる

深海生

異世界人に転生された双剣士と転生させられた廃ゲーマー

1 プロローグ

「こ、こんなところで、俺の人生は、終わりなのか……」


 目からほんの少し先にある地面に向かい、ブレイブ・クラインはそう呟いた。


 早く立ち上がらなくては危険なのだが、敵の不意打ちをまともに受けてしまい、思うように体が動かない。


 回復までにはしばらく時間がかかりそうだ。


 彼へさらに追い討ちをかけようとしているのは、二足歩行する獰猛な大型犬のようなモンスター、コボルトだ。


 それが一体だけならまだしも三体いる。


 装備はいっぱしで、手に持つ木製の棍棒以外にも、体には革鎧を身につけ、冒険者から奪ったのか金属製の脛当てをしている者もいる。


 コボルト達は彼を取り囲むと、まるで追い詰めた仇敵に積年の恨みを晴らすかの如く、執拗なまでにブレイブを殴る、殴る、殴る。


「あがっ、ぐふっ、げほぉっ! ディ、ディビアントが出るなんて、聞いてねぇぞ!」


 ブレイブは、突如自分を襲った不運を呪う。


 彼がいるダンジョンは、ある王国の地下に形成されており、階層を下るごとにモンスターは強力になっていく。


 通常この第三階層にコボルトが出現することなどはあり得ず、スライムやゴブリンといった最下級の冒険者でも対処可能な魔物しか出現しないはずだった。


 ダンジョンにはそういった決まりごと、不文律がある。


 だが稀に、それを守らない存在が現れる。冒険者はそのような存在を従わぬ者ディビアントと呼び、忌み嫌っていた。


「いやだ! こんなところで死にたくない。俺は、英雄になるんだ。そのために、これまで必死で鍛えてきたし、神様にも祈りを捧げてきた。絶対に、絶対に生き残ってやる!」


 ブレイブは強い意思で体の痛みをねじ伏せる。


 ぐいと体を横に転がして迫り来る棍棒を避けると、地面に転がっていた二本の剣を両手に握る。


 そして、ふらつきながらもなんとか立ち上がった。


 逃げ道はないかと目を左右に動かすが、コボルトに完全に包囲されている。


 少なくとも一体を排除して、そこを突破口にするしかない。


「コボルトなんて勝った試しがねえ。けど、やるしかないんだ。……いくぞオラァァア!」


 彼は叫ぶことで自らに喝を入れると、目の前に立つコボルトに向かって走り出した。


 その勢いのまま、双剣に渾身の力を込めて攻撃を繰り出す。


 しかし、その攻撃が相手に届く前に、後方から放たれた棍棒の一撃が彼の体を吹き飛ばした。


 ドサッ。


 再び倒れ込み、地面に額をつけると、彼はそのまま意識を失った。



「ふう。なんとか殺ったか」


 地面に転がる三体の犬型モンスターの死骸を睥睨し、如月静流きさらぎしずるは安堵のため息をついた。


「僕のせいでこの体の主が死んだら気分が悪い。いや、もう僕の体のようだから、それは気にしなくて良いのか」


 そう呟きながら、近くにあった大きめの岩に腰をおろす。


「やれやれ、突然目を覚ましたらコボルトに囲まれているのには驚いた。コイツの立ち回り方はどうなっている? 素人以下だぞ。……それよりも、このコボルトにこのダンジョン、さらに僕のプレイヤースキルが通用する点、EKOイーケーオーの世界に似過ぎている」


 EKOとはエターナル・キングダム・オンラインの略称だ。フルダイブ型VRのRPGで、彼は人生の大半をこれに費やしたと言っても過言ではない。


 だが、なぜ彼はEKOに酷似したこの世界で目を覚ましたのか。


「あの女神、本当に僕を異世界に転生させたのか……。ふざけやがって!」


 彼は両手に握っていた剣を、力いっぱい地面に叩きつけた。


 彼自身は転生を拒否したのだが、先ほど会った女神が彼を無理矢理この異世界に転生させたらしい。


「そもそも、僕は校舎の屋上から飛び降りようとしていたんだ……。なのに突然光に包まれたかと思ったら、よくある転生モノのように女神の前に立たされて、転生を言い渡された。……そんなの勝手すぎるだろう! 神なら何をやっても良いのかよ!?」


 彼の怒りは、剣を投げた程度では収まらなかった。


 しかし、無情にもその怨嗟の声は、虚しくダンジョンに響き渡るだけだった。


「一体、僕はこれからどうすれば──」

〔う、ううっ……〕

「ん、誰の声だ? ……ま、まさか、この体の!?」


 頭に直接聞こえる声に驚愕して、彼が自分の体を見回していると、次第に体の力が入らなくなってくる。


 腕がだらりとぶら下がり、首がガクンと下を向いた。そして、彼の視界は急速に暗闇で覆われていった。

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