第20話:社畜、フェンリルに上げる最高級の餌を買いに行く


「おしゃれな人しかいない……」


 都内某所のおしゃれ街。普段の俺なら絶対に来ないであろうこの街は、やれ洒落たカフェだのイタリアンだの、高そうなブランド店や美容院があちこちにある。


 普段休みの日は家でフィルと遊ぶか寝て過ごす俺にははっきり言って刺激が強ぎてなかなか慣れないところではあるが……今日の俺には目的がある。


「でもフィルの舌を唸らす飯ためだ。頑張れ俺」


 そう、今日ここに訪れた理由はフィルの餌を買うため。この前視聴者さんたちが教えてくれた「阿澄レナ」という人がやっているモンスターフードのお店がフィルも気になってるみたいだったからきてみた。


 本当はフィルも連れていけたらなと思っていたけど、残念ながら東京の都会でそこらへんの犬よりもずっと大きいフィルを連れ歩くのは無理だ。絶対まともに歩くことすら困難になるだろうからな。写真とか勝手に撮られまくる気もするし……。


 まぁでもこの前試しにやってみた庭にカメラ置いて留守中のフィルを写す配信をしてたらフィルの様子も出先でも見られるし、視聴者さんたちにも見守ってもらえるから問題ないか。


 いや、問題はあったな、パンツ勝手に庭の中に埋められたし……。対策をしてからは多分されてないはず。こういういたずらも分かるから何かと得なことが多いな。


「ここか……」


 そして多くの人通りをかき分けて、ようやく目的地である「阿澄レナ」さんのモンスターフード専門店に来ることができた。街の中心から少し離れたところにある小さなお店なので、そんなに混み合っているというわけでもなさそう。


 よし、それならゆっくり買い物できるからちょうどいいや。さて、入るか……よいしょっと———


「いらっしゃいませ、社畜さん!!!」


「……へ?」


 店の扉を開けた瞬間、パンっと音がなって紙吹雪が舞う。そして目の前を見ると、そこには可愛らしい女の子が満面の笑顔で出迎えてくれた。


 確かこの子は……そうだ、この子が「阿澄レナ」さんだ! ん、でもどうして俺が社畜であることを知ってるんだ? あの時はまだ配信をしてなかったし……いや、そもそもなんでこんな歓迎をすることができたんだ!?


「あ、ご、ごめんなさい。いきなりで驚いちゃいましたよね」


「うん、めちゃくちゃ驚いた。でもどうして俺が社畜ってことを一発でわかったの? 今日街の中歩いてても全然声かけられなかったのに」


「だって私、社畜さんとフィルちゃんの大ファンなんです。助けてもらった時から、またお会いできればなって思ってたんですけど……まさか配信をしてくれるなんて思ってもいませんでしたし。いざ見はじめたら、いつの間にか生きがいになってました!」


「そ、そうだったんだ……」


 なるほど、だから俺がこの店に訪れることを知っていたってわけか。思えば職場の人以外で俺たちの配信を見てる人に会うのは初めてだな……なんだか照れる。


「だから今日は社畜さんの貸切です。フィルちゃんが美味しいって思える料理たくさん作りましたから、じっくり見ていってくださいね」


「あれ、阿澄さんの手作りなのこれ?」


「はい、そうです! 目一杯作ってますので、きっとフィルちゃん気に入ってくれますよ。あ、もちろんサービスはいっぱいしますから!」


「あ、ありがとう……」


 目をキラキラさせながらそう阿澄さんが言ってくれるので、その気持ちは素直に受け取ることにした。でも本当に美味しそうな料理ばっかり……多分俺が普段食べてるものよりもずっと豪華だ。金額も普段なら絶対躊躇する価格ばかりだし。


「うーん、どれがいいかなぁ。どれもフィル好きそう」


「今日はフィルちゃんの好きそうな料理だけを用意しておきましたから。きっとどれを選んでも満足してもらえるはずです!」


 確かに肉が中心の料理ばかりだから、どれも間違いなくフィルは好きだろう。うーん、でも決まらない。どれも好きそうだから、その中で一番フィルに満足してもらえそうなものを選ぶのはもはや至難の業といってもいい。


「ちなみに全部買うってのもありですよ」


「え、いや流石にそれは他の人が困るんじゃ……」


「大丈夫です! みなさんもフィルちゃんが食べるだったら仕方ないかって納得してくれると思いますよ。いや、納得しなくても私が説得するので大丈夫です」


 阿澄さん、なんかフィルのことになるとめっちゃ目がスターみたいにキラキラ輝いてるし、フィルのためならなんでもしてしまいそうな雰囲気すら感じる。


 いやー、でもフィルをずっと見てたらそうなっちまうよなぁ。俺もフィルに対して全力を尽くしたいし。


「あ、もしお金がないなら私が全て立て替えますので安心してください」


「流石にそこまではしなくていいから! わかった、全部買うよ。フィルも絶対それが一番喜ぶし」


「ありがとうございます! それじゃあ、たくさんありますから「テクノロジア」の高性能配達ドローンを手配して夜までにお届けしますね。あ、住所の登録この端末からお願いします」


「はいはい……これでいい?」


「オッケーです。あ、心配しないでくださいね。私、社畜さんもフィルちゃんも大好きですけど、この情報悪用してストーカーとかしませんから」


「そんなこと気にしてないよ。それじゃ、今日の夜に配信しながら阿澄さんの料理フィルにあげるね」


「はい、楽しみにしてますね!」


 こうして俺は無事フィルにあげる最高級の餌(料理)を買うことができた。フィルのやつ、どんな反応するかな。美味しく食べてくれるかな? うわ、今からスッゲー楽しみになってきた。夜が待ち遠しいや!



 その頃……。


「ぎゅるるるるるるるるるる……くーん」


———

「スッゲー大きなお腹の音で草」

「フィル、今日は社畜が阿澄レナの料理買ってくるからって腹空かしてるの可愛い」

「美味しい料理の写真見たの覚えてるのか」

「社畜、フィルの期待を裏切るなよ」

「今フィルに近寄ったら間違いなく糧にされるじゃんwwwww」

「これなら社畜が店中のもの全部買ってきても食いきれるんじゃね?」

「流石に全部は買わんだろwwwwwwww」

「いや、社畜ならやりかねん」

「早く帰ってこい、社畜ううううううううううううう!!!」

———


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