第18話:社畜、職場で配信活動の理解を得ることに成功してしまう


 月曜です。みんな大嫌いな月曜日です。満員電車の中にいる社会人みんなが滅んじまえと心の中で絶叫する日です。


 ああ、すぐに帰ってフィルと戯れたい……モフモフしたい、ご飯いっぱい食べさせてあげたい。しかしそれが許されないのが社畜。生活費をしっかり稼がないとフィルと一緒にいられなくなるわけで、これは逃れられない運命なんだ。


 それにいくら視聴者さんたちが大量の投げ銭をしてくれたからって、それに頼って仕事を辞めるのは良くない。あくまで視聴者さんたちは善意でくれたんだ。

それをあてにして生活するようじゃ、多分いつか痛い目見る気がする。


 とはいえなぁ……今の仕事量だと平日は間違いなく配信できない。俺の努力だけでは定時帰りなんて到底実現できないし……どーすっかなぁ。そうだ、朝倉さんと相談してみるか。彼女なら何かいい案持ってるかも。


 なんて頭の中でごちゃごちゃと考えているうちに、会社の最寄駅に着いてしまった。そしてなんだかんだ足を止めることなく会社まで到着する。うーん、今日は何から仕事を進めようか……。


「おはようございまーす」


 いつも通り出社して挨拶を済ませ、自分の席に座ってパソコンを開く。ん? なんか妙だな、今日はやけに視線がこちらに向かっている気がするんだが……。


「鎌田くん」


「は、はいなんでしょう部長」


 え、出社前から部長に話しかけられるなんて今までなかったのに。え、もしかして俺何か仕事でやらかした!? だ、だからこんな視線を感じるのか……うわー、何やったんだ俺。心当たりないのが余計焦るんだけど……うーん。


「昨日の配信見たよ。フィルちゃん可愛いねぇ」


「…………はい?」


 なんて? 今、部長フィルの名前出した? え、俺の聞き間違いだよ……な?


「ああ、俺も見たよ。やっぱりあれ鎌田だったか。お前家だとあんな風に豪快に酒飲むんだなぁw」


「…………え?」


 課長も? あの配信を見てた……え? 酒飲んでるところ見られてたってことは爆睡してたところも……。


「私も見たよ鎌田くん。フィルちゃん可愛すぎてついスパチャしちゃった」


「………あ」


 俺の一個上のバリキャリの先輩もあの配信を……しかもスパチャをしただと……!?


 おい、まさかこれって……。


「おはよーございまーす!!! 鎌田先輩、昨日のはい……あ、それは内緒でしたね。ご、ごめんなさい」


「いや朝倉さん。もういいんだ」


「え?」


「なんか職場の人みんな見てたっぽい、あの配信」


「……ええええええええええええええええ!?」


 なんということでしょう。どうやら俺は職場の人たち全員に配信を見られてたっぽい。こんな地獄があるか? 神は俺に過酷な試練を与えたいのか? クッソ……これはもう仕事やめるチャンスなんじゃないかって一周回って思えてきた。


 それ以前に、クビになるかもしれないけどね♪ 無職は……嫌だな。


「せ、先輩……。み、みなさん先輩はフィルちゃんのことを思って配信しただけです! そ、それに配信を進めたのは私なので……せ、責めるなら私を責めてください!」


「あ、朝倉さんが気にすることなんかないって」


「いえ、私が進めたんですから……これで先輩が仕事をクビになっちゃ嫌です!」


 朝倉さん、別に何も悪いことをしていないのに……むしろ俺があんな配信をしてしまったのが悪いのに……くそっ、せめて酒は自重して爆睡しないようにすればよかった!!!


「いや、何を勘違いしてるの。俺はむしろ鎌田くんに配信してほしいし、会社にもいてほしいけど。いやー、配信ってあんなに面白いものなんだね」


「へ?」


「俺も。というかフィルの愛らしい姿を見られなくなるのは嫌だし。あとお前がいなくなったらうちの会社きつい」


「そうそう。だからクビになんかしないって。……鎌田がうちをやめたいのなら、止め……はするけど意思は尊重する」


 どうやら部長と課長、俺たちの配信を気に入ってくれたみたいで、クビになることはないみたいだ。それに、俺の仕事ぶりを評価してくれていることも言ってくれた。


 うう……なんだかんだ今まで仕事してきてよかったなぁって思える。やっぱり、人から直接いい評価をしてもらえた時が一番嬉しい。


「あ、ありがとうございます!!! 仕事はやめません、フィルを養うので! でも配信もやります、楽しいので!」


「おお、なんて意気込み。なら俺たちも鎌田がフィルと配信活動いっぱいできるようサポートしてやらないとな。もうすぐ多少人手もましになるだろうし、鎌田の仕事量も減らせるはずだ」


「やりましたね先輩、まさかの職場で配信活動の理解を得られましたよ! これで好き放題配信できますね!」


「す、好き放題できるかはまた別だと思うよ朝倉さん」


 これで流石に上司への愚痴を配信でもらすこととかはできなくなったからな。いや、俺のことだ。多分そのうち酒に溺れてぽろっとこぼしそう。


 まぁその時はその時か!


「よし、時間になったし仕事するか! おっと、最後にフィルの様子を見よう」


「あれ、先輩フィルちゃんの様子スマホで見れるようにしたんですか?」


「うん、朝倉さんに進めてもらったカメラをスマホに連動させて見れるみたいでさ。どれどれ……」


「きゃ、きゃわいいいいいいいいいいいいいいい!!!」


「フィルちゃん可愛い!」


「癒されるなぁ……」


「これは……最高だ」


 上司も先輩も後輩も、みんな揃って俺のスマホ画面い見入ってしまう。なにせ、そこには庭で警戒心皆無でグデーっと仰向けになっているフィルが、「すう……すう……」と寝息を立てて寝ていたんだから。


 おいフィル。お前の可愛さ、職場をもめちゃくちゃ癒してるぞ。


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