第16話:社畜、ついに解禁されたスパチャの波に押しつぶされそうになる


 日曜日。いつもならフィルの散歩をしたり一緒に遊んだりしながらダラダラと過ごして過酷な労働で負ってしまった疲労を回復する日。


 だが今日はいつも通りに過ごすわけにはいかない。なぜなら昨日、配信で明日もやると視聴者さんたちと約束したからな。さて、準備はこれで万端かな……っと。


「ワンワン」


「おお、フィル。お前も早く配信始めたいか?」


「わん!」


 フィルもどうやら配信が待ち遠しいみたいで、今日は朝からずっとそわそわしている様子を見せていた。なんだかんだたくさんの人に反応をもらえるのって思ってたよりもずっと楽しかったからなぁ、フィルも同じ気持ちなんだろう。


「よし、それじゃあ始めるか。ん、なんか収益化申請可能って出てるな……ああ、これで配信したらお金がもらえるようになるのか」


 朝倉さんから聞いてた話だと収益化は最低でも数週間はかかるって言ってたのに。もしかして仕組みが変わったとか? まぁいいや。試しにつけてみよう。


「これでいいのかな……? まぁ付いてなくてもいいか。さて、始めるぞフィル!」


「ワン!」


「始まったかな? みなさんおはようございまーす。えっと、社畜とフィルです」


「わーん」


———

「キタああああああああああああああああ!!!」

「待ってました!」

「ああ、本当にまた社畜とフィルの配信を見られるなんて……!」

「あれ、スパチャ送れるじゃんw」

「マジや」

「¥50,000 餌代」

「おいおい、マジか」

「ついにこの時がきたんやな」

「お前ら、財布の中を溶かす用意はできたか?」

———


「ん? なんか赤いコメントがいっぱい流れてきたんだけど……これなんですか?」


 昨日の配信じゃ一切流れてこなかった赤いコメント? みたいなのが今日はやけに流れてくる。書かれてる数字とかの意味もよくわからないし、たまに緑とか黄色とか青とかも流れてくるけど……カラフルだなぁ。そういう演出のものなのか?


———

「社畜スパチャ理解してなくて草」

「投げ銭だよ投げ銭! これが社畜とフィルのお金になるの!」

「¥50,000 餌代だよ」

「¥50,000 酒代持ってけ!」

「¥50,000 餌代」

「¥50,000 餌代」

「¥50,000 つまみ代です」

「¥50,000 餌代」

「¥50,000 フィルちゃんたくさん見れるお礼です!」

「¥50,000 餌代」

「¥50,000 餌代」

「¥50,000 餌代」

———


 ……へ?


 これ全部お金? てことは、この赤いのは50,000円……も、ものすごい勢いで流れているこの赤いのが……。


 や、やばいだろこれ!? ちょ、ちょっと幾ら何でももらいすぎだ! え、どうしよう、これこのまま本当にもらっていいのか!?


「ワンワン」


「フィ、フィル。お前は随分と素直に嬉しそうだな……」


 どうやらフィルも何となく今起きていることを理解しているらしい。餌をばくばくと食べながら「これからもっとたくさんご飯食べれるんだろ俺?」とキラキラした目を向けてきやがる。


———

「フィル素直に嬉しそうで草」

「反対に社畜はめちゃくちゃ慌てふためいてるwww」

「2人とも純粋でいいな!」

「¥50,000 これでうまいもの食え」

「¥50,000 餌代」

「¥50,000 俺らのことはきにするな、社畜とフィルはうまいものを食って幸せになれ!!!」

「お前ら団結力すごくて草」

「社畜早朝にとんでもない金稼いでて草」

「社畜、フィル、俺らの愛を受け取れええええええええええええええ!!!」

———


「い、いやでも……幾ら何でもこれは……」


「ワンワン」


「フィル、お前……」


 「ここは素直に気持ちを受け止めようぜ」と言わんばかりに前足を俺の肩にポンポンしながらフィルはお代わりを要求してきた。こいつ、本当に遠慮がないな……でもそこが可愛い。お代わりあげちゃう。


「まぁ……せっかくいただけるわけだしもらうしかないか。みなさん、本当にありがとうございます。でも、本当に無理はしないでくださいね。俺は働いているので、フィルの餌代は自分で稼げますから」


———

「社畜誠実すぎる……」

「お前がそんなだから俺らはスパチャをあげたくなるんだよ!」

「余計あげたくなりました」

「フィルの餌代辛くなったらいつでも俺らに言えよ!!!」

「安心しろ、俺らはもいつでも社畜とフィルにスパチャを投げられるよう働くから」

「フィルちゃんめっちゃ笑顔で可愛い!!!」

「あ、スパチャの歴代最高金額更新した」

「これはもう伝説誕生しちゃったねえ」

———


 う、うわぁ……赤いコメントの波が終わらない。これ、押しつぶされそうなぐらい流れてるんじゃないか? 本当に感謝しかない。これはちゃんとフィルのいい餌代に使わせてもらわないと。


「ワンワン」


「お前もうお代わり分も食べたのか!? フィル、お前……食いしん坊で可愛いなぁ! ほら、またお代わりだ!!!」


「わん!」


———

「また社畜餌あげてて草」

「これ、俺らのスパチャを持ってしても足りないのでは」

「そうさせないための俺らだろ!?」

「こりゃ頑張って働かないといけないなぁ!」

「いっぱい食べるフィルちゃんも可愛がる社畜さんも最高!!!」

「尊い……」

———


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