社畜、河川敷でフェンリルを拾う〜街中だと目立つので、ダンジョンの中を散歩することにしたら迷惑系配信者が解き放ったSSSSモンスターを瞬殺して大バズりしちゃいました。ちなみにスパチャは全て餌代になります

倉敷紺

第1話:社畜、河川敷でフェンリルを拾う


 都内某所にある勤務先の会社から退勤して、一時間以上疲れ切った顔をしている人しかいない満員電車に揺られる。

 そして、最寄駅につくと近くのコンビニで缶のハイボールを買って家の近くにある河川敷まで向かう。

 ついたら買ったハイボールを開けてグビグビと飲みながら、のんびりと川沿いを歩いていく。


 これが、俺が毎日している退勤ルーティーン。居酒屋とか家で飲めばいいじゃんと言われるかもしれないが、静かに流れる川の音を聞きながら飲み歩くのが俺は好きなんだ。


 それに、新卒三年目になる社畜こと俺、「鎌田陽一(かまだよういち)」が家に帰る時間は大体22時から23時ぐらい。悲しいことにこの時間ここを出歩いている人なんか皆無で、逆に人がいなくてゆっくりできる。


 はぁ……1日を振り返れば、今日も最悪だった。誰も読まないだろう議事録の作成、鳴り止むことのない取次の電話、大手子会社に所属している社員ならわかるだろう本体からの圧力にコロコロと主張を変えてくる取引先。


 嫌なことならいくらでも言えるけど、楽しいことや嬉しいことは何一つとして思いつかない。

 会社の愚痴を言うにも、職場に同期はいないし強面が影響してか後輩からは避けられてる気がするから気軽に話ができない。

 なら上司と飲みに行く? 論外に決まってんだろ。上司との飲みは実質仕事に該当するんだよ。


 だからこうやって1人寂しく河川敷でお酒を飲むのがいつの間にか日常になってしまった。別に、これはこれで好きだからしてることだけど……やっぱり、ちょっぴり寂しい気持ちもある。


 ま、今日は華金だ! 明日は休みだし、いっぱい酒は買ってきたし飲みまくろう! そうすれば寂しいなんて気持ちも吹っ飛ばせるはずだ。ぐびぐびぐび……ぷはぁ、おいちい〜。ちあわせ〜。


 ひゃあ、このまま草むらをベッドにして眠ってしまいたい……。

 あともう三本ぐらい飲めば理性が飛んでそれもできそうだな……やっちゃおうかな? どこかにふかふかの草むらはないか〜……


 ん?


「なんだこれ。でけー置物だなぁ」


 ふらふらとアルコールに飲まれながら歩いていると、ふと目の前に大きな置物? が置かれていた。おいおい、ポイ捨てか? 勘弁してくれよ。一体何を捨てたんだか。


「ワンワンワン!!!」


「鳴き声?」


 薄暗くてよく見えず置物かと思っていたが、鳴き声っぽいのが聞こえてきたのでどうやら生き物みたいだ。よし、スマホのライトをつけて見てみるとしよう。


「ワンワンワンワンワン!!!」


「んー? なんだこいつ、犬か?」


 明かりに照らされて姿がはっきり見えると、どうも犬っぽい動物がそこにはいた。

 純白のように美しい毛並みに、見とれてしまうほど美しい青い瞳、そして威厳すら感じる端正な顔立ち。

 さらに極め付けは、やけにでかいんだこいつ。身長175cmと人権がある俺よりもでかいし、街にいる犬とは比べものにならないぐらいだ。


「最近の犬はでけえんだなぁ〜。おん? なんかぶら下げてんなお前。「フェンリルです、可愛がってください」だぁ?」


 ほーん、こいつはフェンリルっていう種類の犬なのか。いっちょまえにかっこいい名前してんな〜。しっかしこのプレートが首にぶら下げられてるってことは、捨て犬ってことか?


 全く、ひでーことするやつもいるなー。こんな愛らしい犬を捨てちまうなんて頭おかしいんじゃねーのかぁ。


「いろいろ大変な目にあっちまったみてーだなお前も。ほら、ちょうどつまみのビーフジャーキ買ってきてたんだ。くうか?」


「ワンワンワン!」


「おお、欲しがるねぇ。ほらよ、ゆっくり食べな」


「きゅーん! ……きゅんきゅん」


 どうやらお腹が空いていたらしく、俺がビーフジャーキーを差し出すとすぐにペロリと食べてしまった。

 さらに、ペタペタとでかい前足で俺の身体に触ってきて、もっとよこせと言いたげな主張をしてくる。ちょうどいいや、今日の晩酌の相手になってもらおう。


「へいへい、まだお代わりはあるからいっぱい食え食え。俺は酒で十分だし」


「きゅーん!!! クンクン、クーン」


 餌をくれるから気に入ってくれたのか、フェンリルは俺にスリスリと身体をこすりつけてきて、柔らかな毛並みが俺に当たる。おお、なんて上質な毛並み!


「お前もふもふしてて気持ちいいな! ふわぁ〜、このままだとお前の上で寝ちまいそうだ……」


「ワンワン!」


「おお、離れやがった。眠られるのは嫌なんだな……まぁそりゃそうか。って。もうビーフジャーキーないじゃないか! お前、本当にお腹空いてたんだなぁ」


「きゅーんきゅん」


「うわ、めっちゃ訴えかける目をしてくるじゃん。なんだお前、俺についてきたいのか?」


「ワンっ!」


 よっぽどビーフジャーキーが気に入ったのか、それともこんな冴えない社畜ですら光明に見えてしまうほど、今のこいつは困り果てているのかわからない。


 ただ、目をキラキラと輝かせて大きな尻尾を振っている様子を見るに、どうやらこいつは俺に連れて行って欲しいみたいだ。


 うーん、どうしよっかなぁ。俺、実家暮らしではあるけど親はもういないから1人暮らしだし世話をする人がいないしなぁ。一軒家で、庭があるから住む場所は確保できるはずだし、周りに住んでる人もいないから近所迷惑とかトラブルになることもないだろうけど……。


「きゅんきゅんきゅん!」


「ま、いっか! なんとかなるだろ!!!」


 フェンリルもすごーく俺についてきたがってるし、それを蔑ろにするわけにはいかねぇよな! よーし、今日からこいつは俺に家族、マイファミリーだ!!!


「ついてこいフェンリル……いや、フィル! 今日から住む家まで連れて行ってやる!」


「ワンワンワーン!」


 こうして俺は酔った勢いそのまま、なーんにも考えずにフェンリルを自宅まで連れて帰ってしまった。


 すぐ近い将来、こいつが俺の人生を一変させてしまうことなんか、全く想像もせずに。


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