サマーライト

izu

第1話



「時間は不可逆だからその一瞬すべてを大切に」なんて、擦り切れるくらい使い古された言葉。そう感じてしまう事実が既に、時間の不可逆性を証明してしまっている気がする。


 好きだと思えた曲に出会えたその一撃の感覚が好き。聴いてすぐには口ずさめないけど、「とんでもなく好きだ」ということだけが強烈に残る。でもすぐにリピートするから、印象だけが残る時間は儚い。


 染まったものを元に戻すのは難しい。「忘れる」と「知らない」ではとてつもなく大きな差があって、本当の意味で白紙、リセットというわけにはいかない。それが時にありがたく、時にやるせない。



「煙草吸ってすっきりできるならコスパいいよね。吸おうかな」


 風に身を委ねた雲に紛れるかのとく、隣からふわりと上がる副流煙。目に少しかかるくらいの前髪と、少し出た喉仏。いつも日の沈む側、見慣れてしまったシルエット。



「コスパ良くはないんじゃない。吸い始めたら、吸えないことにイラついてくる」

「あー……そっか。難し」



 さっぱり離れるか、どっぷり浸かるか。どっちも試して良かった方を選びたいのに、そう上手くはいかない。


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