覇者の靴

坡畳

友情はパワー編

竜炎クロの支配

04.06:入学式

「——校長挨拶」


 男性教諭の厳格なスピーカー音声が、体育館内に響く。

 来賓席から小太りな中年男性が立ち上がって一礼し、壇上に向けて再度一礼すると、小さな階段を上がっていった。

 壇上は演台の他、大きな花瓶と竜炎学園の校章が飾られている。


 今日は入学式。

 挨拶の次に控える、新入生代表の挨拶は私の出番だ。

 貰った紙を読むだけなのに、何だか緊張してしまう。


 この学園のみんなと仲良くなる、そのためには成功させるべきか、それとも多少噛んだりして、愛されキャラの路線でいくべきか。

 既に成功させると決めていたことが、また頭の中でぐるぐるし始めた。

 手を膝から離すと、紙と一緒に震え始める。

 今日は調子悪いかな……。

 もしひとことも言えずに終わっても、それはそれで友だち作りのきっかけにはなるだろうし、壇上に立ったら気楽にいこう。


 ——パシッ


 紙の感触が手元を離れる。

 隣では血の髪色をした女の子が、桃色の瞳で紙を眺めていた。

 

「ちょっと、返して」


 紙へ伸ばした私の手を、少女は見ずに躱す。

 

 やな感じするけど、きっと紙の内容を見た後に返してくれるはず。

 そう思った矢先、彼女は紙をビリビリと破り捨てた。


「ああああぁ……」

 キイイイィィン——。


 私が情けない声を出した直後、壇上からマイクのハウリング音が鳴り響く。




 ぼんやりとした空色の瞳が天井を見上げる。

 ……何故か頬が痛い。


「気絶してたわよ。大丈夫?」

「へあ、ひゃい」


 さっき、私から紙を取り上げて破り捨てた子だ。

 光を跳ね飛ばすようなギラギラとした目が特徴的で、長く顔を合わせているだけでも体が切り裂かれて、死んでしまいそうだ。

 二度見すると、彼女は私に向かって眉を顰めた後、壇上を睨み付ける。


 ふと、頬に触れると腫れていた。

 私を起こすためとはいえ、かなり強く引っ叩いたのだろう。

 この子とは仲良くなれない気がする……。


『サンダー』


 突然だった。

 隣から詠唱が発生して、校長へ向かって雷が飛ぶ。

 壇上の魔法障壁が反応して止めるものの、雷はそれごと校長の喉を焼き切って焦がし。


 ——ゴトン。


 壇上に首が転がった。


 一瞬の静寂の後、「イヤアーー!!」と悲鳴が上がり、周囲の人々がドタドタと立ち上がる。

 先生や保護者、新入生在校生が入り混じり、皆押し合って出入り口へと向かう。

 しかし出入口は開かないらしく、騒ぎの止む気配はない。


「皆さん。お静かに」


 壇上からのマイク音声に目を向けると、そこには隣にいたはずの少女が立っていた。

 彼女は真っ黒になった頭を拾い上げ、演台を蹴り倒す。

 そうして演台の後ろに倒れていた校長の死体へと、持っている首を押し当てた。


『ヒール』


 詠唱が起き、前後逆に首の繋がった校長が動き出す。

 周りから小さな悲鳴が上がる。

 校長は彼女を見上げ、左右反対の方向に指差す。


「何だ君は。今すぐ壇上から」

『サイン』


 彼女の指先から走る一瞬の光を受け、校長は壇上を転げ回ると、そこから転落する。


 サインはその名の通り、魔法を使って紙や板に焼き色をつけ文字を書くものなのに、彼女のそれは明らかな威力を持っていた。


「ワタクシの名前は竜炎クロ。国家戦力の一人です。今日から竜炎学園に運営委員会を設立します。皆さん、精々いい成績で卒業して、ワタクシの役に立てるよう頑張ってください」


 出入口から向けられる恐怖や嫌悪の視線たちに、竜炎クロは笑みを浮かべる。

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