追放された闇社会の暗殺者、次期当主に任命されて追放放免、今更戻るつもりは無い、色々と敵やヒロインに狙われてしまう、全人類能力無効化を持つ世界で暗躍現代バトルファンタジー、題名『影法師の夜』

三流木青二斎無一門

第1話



裏社会でしか生きられない獣が居る。

彼らは人にして人に非ず、人とは離れた異能を操る者。


その力を持つが故に、表社会へ出る事が出来ず闇の世界でしか生きられない。

古より存在する奴等は、忍者、暗殺者、諜報員と。

職業を変えては現代にまで生き残った。


だが、その生業は変わらず。

彼らを知る者たちは、その闇の末裔を『影法師かげぼうし』と呼んだ。


百鬼なきり様の遺言状である」


その集落に、多くの影法師が集う。

彼らは、百鬼と呼ばれる老獪を棟梁として従った。

百を超える影法師の家系が、話を聞く。


「(誰が成るのだろうか)」


一人の影法師が呟く。

誰もが脳裏に過らせるのは、遺言状の中身。

この影法師の家系を束ねるのは一体、誰になるのか、と言う事。


「(単純に考えれば、百鬼様のご家族の何れか)」

「(それか選定した弟子たちだろうな)」

「(大穴で十家の一人かも知れぬぞ?)」


声を殺しながら喋り続ける影法師たち。

その影法師の背後に、一人の男が立つ。

それと同時、鋭い刃が影法師たちの首を切断した。


「喋りが過ぎるぞぉ?煩くて親父様の遺言が聞けぬでは無いかぁ」


赤い血を噴出させ、絶命する影法師たちを見下ろす白髪の男。

その男の背中からは、一振りの鎌の様な鋭利な尾が生えている。


「(ぜん様だ…)」

「(百鬼禪様、百鬼様の実の息子だ)」

「(まさか、あの悪僧を棟梁にしたのでは…?)」


百鬼棟梁の息子として生まれた男。

百鬼禪は有頂天だ。

それもその筈。


父親の死。

当然、その跡継ぎとして自分が選ばれると信じて疑わない。


「さあ、早々と、颯爽と、話をしろぉ」


両手を広げて。

影法師たちに語り掛ける様に言う。


「誰が王となるのかを」


その言い方は、まるで自分こそが、王であるとは信じて疑わない。

言葉を放たれ、それに応じる様に遺言状を口にする。


「…死後、影法師の頂点、棟梁の座、『夜王やおう』の称号は、…ッ」


声が詰まる。

一瞬の間。

そして即座に、遺言状を読む男は、誰が棟梁になるか。

名前を、影法師全員に報せる。


「…組織より、追放した実の息子…、黒方くろかた無銘ななしを棟梁と、する」


誰もが絶句した。

その遺言に記された名前は、この場所には居ない。

否、その存在は消された人間だった。


「…は?」


百鬼禪すら、その名前を聞いて憤る事も無く唖然とする。

自らの弟に該当する黒方無銘と言う青年。

先程言った通り、影法師から追放された血の繋がった弟だ。


だからこそ解せない。

無能、無害、無意味、無価値。

この世で最も蔑まれた者が、これからの次代を担う存在であると。

誰もがそう思った。


「ふ、ははッ、な、無銘、がッ」


十家と呼ばれる名家の当主が笑う。

そして、今まで称えた事すら無い青年の名を口にする。

敬称しながら、両手を叩き、この場に居ないものを賞賛する。


「流石、私はあのお方に就くべきだとそう思っていた」

「そ、そうだ。無銘、新たなご当主様だ」

「早々に迎えの準備を致すぞ」


新しい王。

その座をいち早く呼び寄せ、恩を売る。

そして、媚び諂い、より良い立ち位置に至ろうと。

誰よりも早く、黒方無銘を迎え入れようと躍起になっている。


「(あの混血が…当主だとお?)」

「(認められるかそんな事)」

「(ならば…殺してしまえば良い)」

「(誰よりも早く見つけ出し…殺すのだッ)」


その実、誰よりも蔑んでいた血統主義の者たち。

今更追放した者を当主にするなど許さない。

それが、王と決めた者の決定だとしても。

だからこそ…存在が不明である黒方無銘を。

誰よりも早く殺し、遺言状の内容を破毀させる他無かった。


「…無銘様が」

「お戻りになられる…」

「ああ、無銘様」


そして。

当然ながら。

渋々と新棟梁に就く者。

粛々と暗殺を企む者。

津々と好意を抱く者。


彼女たちは、純粋に。

幼少期の頃に世話になった黒方無銘が戻って来ると言う事実。

其処に歓喜を見出し、悠然と受け入れるのだった。




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