冴えないオタクが推しのアイドルと心中する話
平日黒髪お姉さん
第1話
クリスマスイブ。
聖なる日に、僕——
「はぁ〜。それにしても、東京は凄いんだなぁ〜」
目の保養になる緑と、山から降りてくる豊富な水資源だけが取り柄の田舎町に別れを告げ、僕は大都会東京へと足を運ばせた。
頭上を覆い尽くすほどに立ち並ぶビルの電光掲示板には、CMが流れている。映し出されているのは飲料メーカーの広告。
起用されているのは、誰もがその顔を見ない日はないと呼ばれるほどの大人気アイドル——
『青春しようよ、私と一緒に☆』
快活で笑顔が愛らしい清楚感溢れる超絶美少女である彼女と、後味が爽やかそうなサイダーはとっても似合う。
テレビとは一味違う大スクリーンに映し出される彼女に、またしても僕は儚い恋心を抱いてしまう。叶うはずがないと分かっているのに。
夜行バスに揺られて、15時間弱。僕が住む地元では考えられないほどの、人、人、人、でごった返している。奇抜なファッションやド派手な髪色をしていても、誰もが気に留めもしない。当たり前の日常として映るこの街は、僕には異様に見えて仕方がない。
「絶賛引きこもり中の僕が、ここまで来るなんて……」
僕は高校二年生だ。だが、高校には通っていない。
俗に言う不登校児と呼ばれる存在だ。
そんな僕がわざわざ東京まで足を運ばせているなんて信じられない。
自分の行動力に素直に感心していると——。
「ねぇ、キミが
突然喋りかけられた。銀鈴が鳴るような美しい音色だ。
僕の名前を言い当てるということは、僕と同じ野望を持つ仲間だ。
「あ、そうです。僕が
振り向いた先に佇んでいたのは、線が細い一人の少女であった。
グレー色のベレー帽を深々と被り、目元には丸いサングラス、口元はマスクで覆い尽くした謎多き少女。
隙間から見える白い肌は一度も日焼けがしたことがないと言われても納得できるほどに真っ白で美しさが際立っている。
「……………………」
顔は隠したがっているのにも関わらず、服装はオシャレだった。
首には鎖に繋がれた銀プレートに、耳元にはワイシャツの袖口にあるボタンみたいなピアス。
白色のブラウス、その上には膝下まで隠れるほどの長い緑色コート。
レギンスの黒ズボンを履いており、防寒対策もバッチリのようだ。
「……………………」
それにしても……。
有名人が変装して街中を歩いている。そんな格好に見えなくもない。
「あのさ、さっきからジィーとこっちを見てるけど何? 何か変かな?」
女性をマジマジと見る機会なんて、そうそうないのだが。
今日という今日だけは特別だった。
だって、どれだけ隠そうとしていても、生粋のオタクである僕には分かってしまうから。というか、既に芸能人オーラが出ているから。
「
僕は星座橋捺月の大ファンなのだ。
生粋のオタクだと言ってもいい。
と言っても、一度もライブに参加したことはないけれど。
浅すぎるオタクに過ぎないけれど。パソコンの前に座って、彼女が歌って踊る姿を何度何度も見ただけに過ぎないけれど。
それでも、僕は星座橋捺月に対する想いは大きいものだった。
「えっ……えええええ? な、ななな、何を言ってるのかなぁ〜」
サングラスが若干傾き、目元が見えた。
グルグル回っているのが分かる。言い当てられて困っているようだ。
必死に隠そうと手足をバタバタしているけど、その反応で分かってしまう。彼女が本物だと。彼女が星座橋捺月本人だということぐらいは。
「もうバレているんで白状してください!!」
僕がそう呟くと、星座橋㮈月は悲しげな表情でコクリと頷いた。
小学生が先生に怒られて、もう二度としませんと言わされた時みたいな表情をしている。でも、そんな反省中の彼女の姿さえ、可愛かった。
「灰瓦礫くん。でも内緒だからね、私が星座橋捺月だってことは」
長い指先を鼻先に当てて「しぃ〜」と言う姿も、可愛い。
でも、そんな彼女に、僕はどうしても聞きたいことがあった。
「どうして星座橋さんは自殺者オフ会に参加したの?」
世間一般的には、家族や恋人と過ごすのが当たり前のクリスマスイブ。
冴えないオタクである僕はわざわざ片田舎を飛び出し、大都会東京へとやってきたのだ。
共に同じ野望を掲げる同志と共に、短い人生を終わらせるために。
死にたいけど一人で死ぬ勇気がない愚か者が一緒に死ねるように。
「そんなのキミが一番知ってるでしょ。私もキミと同じく死にたいからだよ。こんな世界から少しでも早く抜け出すためにね」
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作家から
プロトタイプ作品です。
皆様の意見を聞き入れながら、少しずつ改善していこうと思う。
兎に角、完結まで書いたので、皆様最後までお楽しみください。
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