6.結論
新しい人類を生み出すためのウイルス,通称「カミヌケール」を開発したのは,既に述べたとおり,誰あろう私だ.このことを知る研究者は,私以外にいない.ラボのメンバーにしても,部分的な研究を任せていたにすぎず,その全容を知るものもまた,私以外にはいなかった.その研究員たちも,ラボの中でひっそりと,全て始末した.実験中の事故や自殺に見せかけて.元々,外界と遮断しているので,余計な素人探偵や間の抜けた刑事が闖入してくることもなく,平和に粛々と実行された.そして,私以外誰もいなくなった.
「カミを失えば,カミに見放されれば,誰もがこうなる」
まるでカミ(=GOD)の託宣を受けたかのように,悟った顔でそう言っておけば,全ての罪に対しての私の中の罪悪感は減じられた.
さて,問題はその先だ.アンチウイルスとして開発した,試験薬「キットハエール(注14)」は,すでに臨床実験も済ませていた.研究員たちは,男女問わず,ある程度の効果が見込めた.しかし,カミの生え方には,個体差も大きく,スピードはまちまちで,生え方もまばらで,細くて弱いものが多かった.そこから更に開発を続けた新薬「ゼッタイハエール(注15)」は,どうにか形になった.そして,その成果を見届け,私は,それらの全てを廃棄することに決定した.
地球人類など,その種そのものが滅びるまで,生涯を通じて,ハゲたままでいればいいのだ.私にはカミは生えてこないのだから.
だから,この論文にも,薬の製法は書き記さない.いずれにせよ,その製法を書き残すには,この論文は余白があまりにも足りなすぎる.
地球人よ,絶望するがいい.
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