3.ラグナロクの歴史的経緯 ①ラグナロク現象
① ラグナロク現象
歴史上のこれまでのパンデミックが,世界各地で徐々に広まったものだったのに対して,この危機は,一瞬のうちに世界中に広まり,ほぼ同時に観測された,まさしく世界的な「現象」であった.
すなわち,カミが消えたのである.
地球上の全ての人類は,等しく,カミを失った.
もちろん,ここで言うカミとは,その存在すらもあやふやな神(=GOD)ではない.神学論争は,一部のマニアが行うものであり,ただの儀式として祈ることなど役に立たないと断じるのが,現代の科学的知見である.哲学者の言葉を待つまでもなく,神はそもそも生き死にでもなく,ただ,いない.
ペーパーレス社会が推進され,オフィス用品としてのペーパー消費が減り,媒体としてのBOOKもデータ化されるのが主流となり,果ては,効率の悪い貨幣(紙幣)に至るまで,全て電子に置き換えがなされた,紙(=PAPER)でもない.
カミ(=HAIR)である.
あの日.そう,まさにあの日,世界に風が吹いた.
医学的・政治的な,集められるだけの有効な資料は,今から10年前の,2051年8月31日だと伝えている.(注1)
その風は,地球上の人類から,等しくカミを奪った.
カミは,頭部から生えているものだけを指すものではなかった.人間の身体から生えている,上も下も含む,ほぼ全ての体毛=カミが失われた.失った,と表現するのがしっくりくる現象で,まるでそれが当たり前の自然なことであるかのように,風にさらされて痛みを一切伴わずに抜け,はらりはらりと風に乗って消え去っていった.ただただ重力に引かれ抜け落ちていくカミ.路上に限らず地球上の全ての大地を覆い尽くす,抜けたカミ.地上を埋め尽くしながら,粉々になり消失していったカミに対して,必死で押さえて,抜けないように失わないように抵抗しても,全ては無駄だった.
きれいさっぱり,カミはなくなった.(注2)
人類は,原初生まれたままの姿,まさにつるつるの状態になったのである.老若男女を問わず.
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