ここがヒルズなら、きみはヒマワリ

くまべっち

第1話


目が覚めた。高くて白い天井。

ふかふかで大きなベッド、大きな窓、大きな部屋。

コーヒーの香り。焼け焦げたにおい……焦げてる!?


キッチンに行くと、大きめのシャツを着た女の子が、そこにいた。パンと目玉焼きを用意している。焦げているのはベーコンか。真っ黒だ。

大きめの白いシャツを着て、奮闘している。きっとあれは、僕のシャツ。ショーツははいているが、ブラはしていない。髪は無造作にまとめられ、そのくせ、顔はきちんと化粧済み。

「代わるよ」

どこかで聞いたことがあるようなないような、自分の声だった。

朝食を作る。女の子が、甘えてくる。胸を押しつけて。きっと計算のうち。しっかりしている人よりも、可愛い女の子のほうが、何かと得な世の中だ。


朝食を済ませ、シャワーを浴びた。ここはヒルズのマンション。

バスルームに、全身が映る鏡がある。自分の姿がよく見える。

僕は、アイドルグループの一人で、名前は、此花瑞樹。

そういえば、あの女の子は、国民的美少女アイドルグループの一人だ。確か、日野向日葵。


シャワーを浴びた後、スマホをチェックする。普段なら、目が覚めたらすぐにチェックするはずだけど、ベーコンを焦がしたにおいですっかり忘れてた。顔認証、問題なくパスする。

アイドルにはそう明るくない僕だけど、このくらいのレベルの人たちになると、さすがにわかる。昨日、熱愛がバレたと報道されていた。腕を組むふたりの様子が大々的に報じられ、朝から晩までテレビにネットに大騒ぎだった。

「ねえ、これ見てよ」

 向日葵は、自分のスマホに表示したSNSを見せてきた。どことなく余裕そうに見えるのは、報道されることは事前に伝えられていて、あとは、今後どのように対処するか、事務所も込みで検討しているからだろう。彼女の純情そうな写真の下に、たくさんのコメントがある。ほぼ100%、罵詈雑言。殺害予告も溢れている。

いわゆる、ドルオタの人たち。どさくさに紛れて、結婚したいだの、一生面倒見るだの、求愛の言葉がたくさん並ぶ。「君と結婚できないなら、死ぬ」なんて、本気かどうかも分からない言葉が羅列される。きっと本気なんだろう。

「キモいよねー」と、向日葵は、ケタケタ笑う。「オタク君たちはさ、アイドルを応援してるんだから、Win−Winなわけじゃん。みんなが私を応援する、私が売れる、もっと可愛くなる。ほら、みんな満足でしょ?」

だから、自分がダレと付き合おうが知ったことじゃないでしょ、ということらしい。

思わずため息をついたが、気づいたのか気づいていないのか、向日葵は、ねっとりとした視線で、こっちを見ている。

「私が好きなのは、君だけだからね」

笑い声が不快だったので、キスをした。顔はいいんだから、黙れ。

いや。せっかくだから、此花瑞樹には、責任を取ってもらおう。

「じゃあ、結婚しよう」電話をかける。

「はぁ?」

 向日葵は、不快感を一切隠さず言った。

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