存在しない私

第58話 キヨシと光子の関係！✰＊＊

　サンカ三人姉弟キヨシの家族のその後はどうなったのか？

　二〇〇七年元旦🎍二〇年もゆかりと愛人関係だった事が分かり、里美の逆鱗に触れ別居中の二人だが､医学部に通う誠も､もうすぐ二十三歳「確かにパパは悪いけど？あの鼻持ちならないゆかりがパパを散々脅して離さなかっただけだよ｡ママいい歳してみっともない。パパを許してやりなよ～！」

　息子誠の強い勧めもあり正月は家族水入らずで過ごす山本家なのだが、里美の怒りは収まらない。

　十五歳も年上の、もう六十四歳の里美に引き換えまだ四十九歳の渋みを増した色男、致し方無いと言えばそれまでなのだが、それだから尚更キヨシを奪われたくない。

　これだけの美形キヨシを今のこの年齢で掴める訳がない。それだけ優しいキヨシを愛しているという事だ。

　一方のキヨシはどう思っているのか？

　もう女としての魅力は半減した里美だが？キヨシは女房に女というよりも､幼くして離れ離れになった微かに残る母の面影を里美に投影している。

　また、美しかったゆかりだが､最近はゆかりにつくづく嫌気がさしている。

　会いたい！会いたい！とキヨシの立場も考えず電話交戦に辟易している。

　そんな､ゆかりとの事を潮時と考え一層憂鬱になるキヨシだが、水面下ではとんでもない事が起こっていた。

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　遡る事三十年前の一九七六年の事。

　キヨシがホストとして働きだした半年後位の事だ。

　サングラスを掛け、目深に帽子を被った、いかにも…いい所のマダムといった感じの気品溢れる四十代の美しい女性がこのホストクラブキングに現れた。

　その時にキヨシを指名したのが、あの大女優の山本光子なのだ。

　已むに已まれず我が子を､X薬物療養施設に入所葬させてしまった光子は、息子が療養施設で薬物を絶つ為に戦っていたが、覚醒剤の後遺症で中毒症状だけでなく、心臓の動きが低下して急性心不全を引き起こし、死亡してしまった事に今尚苦しめられている。

　もう何年も前の事ながら、今でも独りヒッソリ懺悔の日々。そして…今でも涙に暮れる毎日。

　清輝の世話をしてくれたクラブのママとは､今でも窮地の仲。

　そんな時に、その知り合いのクラブのママが、とんでもない事を口走った。

｢そんなに清輝の事が忘れられないのだったら、実は…この事は秘密ね！あなただって私がクラブのママで田淵組長の女だって事知っていながら相談したのだから…だから…公にしない約束が出来るのなら…あなた田淵から聞いているでしょう？あなただって売れない時期に散々田淵のお世話になっていたのだから…だから知っているでしょ？清輝ちゃんの成りすましがいる事。田淵に絶対話したらダメと言われているけれど…あなたがあんまり､立ち直れないから…実は…キングというホストクラブにキヨシという名で…訪ねてみたら…｣

　昔は芸能界と暴力団は密接な繋がりが有った。そして…光子も組長と密接な繋がりが有った。そしてあの薬物療養施設は田淵組が経営に携わっている。

　清輝が亡くなった事を聞きつけた田淵組長に、戸籍背乗りの相談を持ち掛けられた光子は最初は､散々抵抗したが、売れない時代の過去の裏事情をバラすと脅され、(夫に過去の秘密をバラされては?)と思い、清輝の戸籍を死亡したにも拘らず、生存している事にして戸籍を背乗りさせてしまった｡

　無国籍のキヨシは､薬物中毒の山本清輝となった。　　　　　　

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　仮初めにも愛着のある息子の成りすまし、会いたくて！会いたくて！取るものも取り敢えず、ホストクラブキングに駆け付けた。

　そこで成りすましのキヨシと初対面を果たした。

　長年にわたり芸能界で綺麗な男達を山ほど見て来た光子だったが、余りの美しい男に立ちくらみを覚えた程なのだ。

　やはり血族での結び付きが多いせいなのか、障害者も多いだろうが、綺麗な人は又類を見ない美しさに生まれるらしい。

　光子は､息子清輝は失ったが、背乗りした青年が思いの外印象が良かったので、徐々に立ち直り初めている。

(清輝を忘れる為にも､この青年を息子清輝と思う事にしよう。そして亡くなってしまった苦しみから一刻も早く立ち直らなくては…)

　大女優が足蹴くホストクラブに入り浸る事など週刊誌の格好の餌食｡夫にバレたら嫉妬深い夫の事､只では済まない。

　最初の出会いはホストとお客様の間柄だったが、形を変え関係は続いて行く事になる。

　それでも…由緒正しい御家柄の夫が、背乗りをよく許したものだ。

　夫は､あんな薬物中毒の息子等とっくに、排除して妻光子に任せきり。あんな出来の悪い息子の顔など、二度と見たくない。

　果たして光子とキヨシの関係は……?