【ラスボスはアホばかり!?】魔王や上位存在が明かすおバカな思想

エテルナ(旧おむすびころりん丸)

【ラスボスはアホばかり!?】魔王や上位存在が明かすおバカな思想

・人の命は無価値だ。

・全てのものは平等にゴミで意味がない。

・愚かな人間は滅ぶべきだ。

・感情など欠陥だ。


いかにもラスボスっぽい台詞を並べてみました。

彼らは悪魔だったり魔王だったり、宇宙人だったり超常的な上位存在だったりして、上記の理由で人類を滅ぼしにかかります。


パッと見、何やら深そうなことを言ってるように見えますが、その本質は呆れるほどに浅いです。

ひろゆきさんの有名な言葉をお借りすれば――


「それってあなたの感想ですよね?」


一部のラスボスの到達する真理というものは、倫理観だったり価値観といったケースが散見されます。

数百年、若しくは永遠を生きる設定だというのに、長きに渡って考え抜いた結果が、思春期相応の思想とは……おいおい、君たちの方がよほど愚かで価値が薄く、欠陥だらけだと言わざる負えないよ。


というのは言い過ぎですが、上記のフレーズはほぼほぼ大体、ギリシャあたりの哲学者がより深い真理を探究しています。

人の一生分の時間しか持ち得ない、彼ら人間がです。


とはいえ魔王さんも超常存在さんも、創作物のキャラクターである以上、人の想像から生まれたものであり、例え全知全能を自称するキャラクターといえど、作者の脳内以上の能力は持つことはできず、最強議論に見るような知識を超えた力は発揮できないのが当然です。

真面目に考えては駄目というのは分かってますが、今回は空想科学のようなお遊び感覚で、ちょっとだけラスボスたちの思想を掘り下げてみましょう。


【人間の価値について】


結論から言うと、人の命に価値はあります。

別に深いことを述べるつもりはなく、価値があると思う人がいるのだから、存在するのは当然だということです。


例えば、あなたはピーマンが大嫌いだとします。

しかし市場にはピーマンが出回り、価格が付けられて、購買する人が大勢います。

あなたにとってピーマンは無価値です。しかし市場にピーマンの価値があることは、認めざる負えません。


例えば、あなたは人間が大嫌いだとします。

しかし世間では人と人が契約し、人は人の愛を欲し、時代や地域によっては人身売買されるケースもあります。

あなたにとって人間は無価値です。しかし世間に人間の価値があることは、認めざる負えません。


これがいわゆる、あなたの感想だという点です。

魔王さんにとって人間の価値はないかもしれないが、それは魔王さんの個人的な感想で、客観的に見た場合、世の中に人の価値は存在します。

だのに、「人の価値はないのだぞ」と、主人公に語るのは、「ピーマンに価値はないのだぞ」と、個人的な嗜好を押し付けるのと同じです。

いっそのこと、気に食わないから滅ぼすと言った方が、よほど自然で合理的な理由だと言わざる負えません。


価値とは信用によるものなので、実在するかどうかと問われれば神話的な存在の為、確かにないとも言えるでしょう。

しかし人の価値をないとするならば、同時にあらゆる価値も消失します。そもそも価値というもの自体が前述の通り、存在しない神話のものなのですから。

同時に平等も悪平等も、善悪というもの自体が神話ですので、無価値を語るなら善い悪いだとか、ゴミという言い回しにも矛盾が生じます。


更に言えば、人間は必要であるから物事を分類します。分類するということは、分ける価値があるということです。

例えば庭に転がる石ころを想像してください。その石を一つ一つ分類し、区別するでしょうか?

同じく、己の右側にある酸素だとか、左側にある水素だとか、わざわざ分類する人はおりません。

なぜなら、分ける必要がないからです。そうした区別で生まれる価値がないからです。

しかし人間は、個人個人を区別します。魔王や超常存在も、個人を識別し呼称を使用します。なぜなら区別する価値がそこにあるからです。


もし仮に、人間が真に無価値ならば、魔王さんや超常存在さんにとって人間は、有機物の塊にしか見えないでしょう。

もっと言えば、アップクオークとダウンクオーク、そして『強い力』などの発するエネルギーの集合体、その存在箇所の移り変わりに過ぎませんから、悪も愚かも存在しないはずです。


【感情について】


感情の有無について、宇宙人さんや超常存在さんにとって感情は欠陥だと仮定しましょう。

では果たして、感情を欠陥だと断ずるそれらの生命体は、どのようにしてこの宇宙に誕生したというのでしょうか? また感情がないのなら、何を目的として生きるのでしょうか? 目的もなく成長するものでしょうか? そもそも感情が無ければ、目的など生まれるのでしょうか?


仮に彼らが機械のように感情が無いのなら、目的は一切発生しません。

機械が動くのは、あくまで感情のある人間の指令やプログラムがあるからで、例えば自然を汚す人間を、独立した機械単独で見た場合、それらの何が良いことで、何が悪いことなのか判断がつきません。善悪は人の定義したものだからです。

人間を滅ぼすにしても、機械が栄えることに何の良さがあり、なんの意味があるのか見い出せないのです。

所詮は人間が栄えようが滅びようが、機械が栄えようが滅びようが、前述の通りエネルギーの移り変わりに過ぎず、それが何の形を成しているかというだけの違いに過ぎませんから。

物事の良し悪しを決めるのは感情であり、それらが無いのなら機械や宇宙人、超常存在は全く動くことができません。

超自然的な運動や原始的本能に基づく行動以外の理由で、何かしらの目的を持った行動を見せた場合、その時点で感情の存在を認めることになるのです。


また超常的な存在にはよくよく、感情が無く個性の無い描写が含まれます。

「私を倒しても無駄だ。我らの全てが私なのだから」という具合ですね。

しかし、個性のない生命体がどのように生まれるというのでしょう?

微生物、細菌、ウィルスレベルで突然変異は発生し、別の性質を持つ個体が生まれます。個性の発現は進化に必須で、絶滅を逃れるシステムの一つでもあります。

ある種の生命から個性が発現し、それが生きやすい構造であるから繫栄し、更にそこから個性が芽生え、また同じく生存に適した者が後の世代に続きます。


個性を許さぬ生命には必然的に進化もなく、だとしたら宇宙人さんや超常存在さん達は、突然この世に今のカタチで、ぽっと現れたとでも言うのでしょうか?

いいえ、今のカタチに至るまでに、必ず進化という個性を辿り、淘汰を経て来たはずなのです。

大体、個体でなく細胞群として見れば、視覚・聴覚・内臓・循環器等々の役割の違いから、既に己の肉体で個性は許しております。


もし個性の無い存在がいたとして、彼らは進化の過程を抜きにしてしか存在できないものです。

そして自然であり必須条件でもある進化が抜け落ちた彼らの方が、よほど欠陥というに相応しい存在でしょう。


また、彼らが進化の果てに個性や感情を無くしたとしても、個性や感情は彼らの歴史の一部でもあるはずので、理解を示さないのはおかしなことです。

もしどこか地球とは別の星で、王侯貴族が支配し奴隷の存在する世界があったとしましょう。

あなたはそんな世界を理解できず、愚かだとして、超科学を用いてその星を滅ぼすでしょうか?

いいえ、過去の我々にもあった出来事で、彼らはこれから進化していくのだなぁと、一定の理解を示すに違いありません。


つまり、感情や個性を理解できない設定の宇宙人さんや超常存在さんは、己の進化の歴史すら碌に知らない、馬鹿丸出しだということです。

それでも人類を滅ぼすとしたら、それは小説『三体』に出る黒暗森林のように、脅威となり得るから滅ぼすという、気に食わないから滅ぼすに似た、より原始的でありつつも合理的な判断によるものになるでしょう。


人間は動物や他の生命と違い、存在しないものを信用する力を得ました。

それこそが動物にはできない、人間固有の力であり、貨幣や国や会社などの架空の価値を信じることで、今の我々の知る発達を遂げたのです。

つまり価値観を持つことが人間の本質であり、であれば同じく価値観を持つ魔族や超常存在さんは、人類固有の性質となんら変わらない存在だということです。

つまり人間だけを無価値だとか欠陥だと断ずるラスボスたちは、自分はいいけど他人は駄目だという屁理屈でもあり、巨大ブーメランがぶっ刺さる、思慮に欠ける発言ということです。

くどいようですが、無理してかっこつけの真理を語るより、邪魔だからとか脅威になり得る等の、利己的な理由を連ねた方が、よほど合理的で正当性のある人類滅亡の理由となるでしょう。


ここまでラスボスについてを語りましたが、実はラスボスに限らず現実においても、上辺だけ分かった風な倫理観や価値観を振りかざし、自己陶酔している方を多く見かけます。

また酔っている訳でなくとも、そのようなことに悶々として時間を潰すくらいなら、とっくの昔に同じような悩みを考え抜いた、哲学者たちの思想の跡をなぞれば、てっとり早く先に進めます。

一人で悩むだけでは、ラスボスたちのように中二病をこじらすだけです。

答えのない倫理に悩む方は、重い腰をあげて哲学を齧ってみると、見識の幅が広がっていいかもしれません。

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