お前のヲとコは電車で轢死
矢尾かおる
第0話 ヲを殺したマキエダは誰
◯
「殺しちゃったかも知れない!! 殺しちゃったかもしれない!! 私本当に殺しちゃったかも知れない!!」
ただロボットが壊れただけだというのに、そいつはあまりに取り乱していた。
ギャアギャア騒ぐ女は好きじゃない……なんて、冷めたDV男みたいな趣味嗜好を持つ私はそのせいで頭痛までしてきたから、真白の錠剤を噛み砕いた。
すっと染み込む白色はすぐに私の目玉まで浸潤して、さっきまで赤い警告色をしていたこの世界を漂白し、落ち着かせた。
「ねぇ!? 殺しちゃったかもしんないってば!?」
マキエダと名乗る正体不明女は、血まみれの金属バットを放り投げそう言った。長い髪はあまりに綺麗で、手首に傷は見えなかった。目にクマもないし、唇も荒れていない。
どうしてこんなにも普通で残酷な人間が私にコンタクトを取ってきたのかと言えば、とあるヲを殺したいと言ってきたからだ。
そう。だから予定通りだった。この汚らしいヲが死ぬのは。
まだピクピクと動いてる金髪のヲがちゃんと死ぬように、私は落ちてるバットを拾いあげた。手が震えていたのは怖かったからじゃなく、久々に重いものを持ったからだ。
振り上げたそれをヲの顔面に叩き落とすと、ボキッと脳殻プラスチックが割れる音がした。ほらやっぱりね、ロボットだ。
「良かったね」
マキエダにバットを返すと、律儀に握って膝から崩れた。呆れるほどに汗ダラダラなこの女は、人間臭くて気持ち悪い。
元病院の廃ビルでヲのロボットを処分し終えた私が踵を返すと、後ろからジョボジョボと小便を漏らす音がした。
「どうしてこんなことしちゃったんだろう、どうしてこんなことしちゃったんだろう」
繰り返すマキエダになにか言葉をかけてやろうかと思ったけど、やめた。「しょーがないよ人間だもん」。良い歳した中学生はきっとそんな諦観した言葉聞きたくないだろう。だから彼女はロボットじゃなく、人間なんかやってるワケだし。
黄色く濁ったジョボジョボ音は止まらなくて、私はまた頭痛の気配を感じた。
帰らないと、人間のいない場所へ。
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