第7話 信じていれば、必ず 2

「アザちゃぁぁぁぁぁん」


「ふふっ、咲ちゃん泣かないでよ」


「無理、そんなの無理」


 鼻水はなんとか堪えてるけど、涙だけは止まらない。


 仕方ないじゃん。


 生まれて初めての推しが解散だけじゃなくて、引退しちゃうんだから。


「アイドル辞めないでよぉぉぉぉぉぉ」


 今更言ったってどうしようもないとわかっていても、言う。


「咲ちゃん、咲いた花はいつか必ず散るんだよ」


 推しの手の温もりを心に刻みつける。


「わかってるけどぉ……もう会えないの?」


 小さい子みたいに駄々をこねることがみっともなくても、言う。


 本当は「今までありがとう」「お疲れ様」とか言いたいんですけどね、それは後で言います。


 取り敢えず今は駄々をこねなきゃ気持ちが落ち着かない。


「ううん、また会えるよ。信じていれば、必ず」


「え?」


 微笑みながらアザちゃんが言ったセリフ。


 それは、毎日夢に現れるお姉さんと同じセリフだった。


 なんで……いや、偶然だよね?


 思考がフリーズするのとは対照的に、ぼやけていたお姉さんたちの姿がハッキリし始めた瞬間、

「はい、お時間です」


 係りの人の声で現実に引き戻された。


 その後何度も握手をしているうちに夢のことは忘れて。


 何枚もチェキを撮った。


 どのチェキも泣いていて最悪な顔だったけれど、一番最後に撮ったチェキに書いてもらった『愛している』のメッセージ。


 今までアザちゃんが見せてくれた笑顔を思い出しながら、そっとチェキを胸に押し当てた。


 ねぇ、アザちゃん。


 私の好きは本物の好き、なんだよ。


 全部想いを伝えるって決めていたのに、言えなかったけれど。


 言っとけば良かったかな。


 想いを伝えておけば、これからもアザちゃんは私の傍にいてくれたのかな……そんなわけないよね。


 あーあ。


 こんなに胸が苦しくなるのなら、出会わなければ良かった。

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