第6話 推しからの提案
別の日、確実に労働基準法違反の連勤を終えた私は、それまでよりも一番酷い顔をしていたんだと思う。
「咲ちゃん久しぶり! って、目の下のクマ凄いよ、大丈夫?」
「うん……大丈夫だよ」
あちゃー心配されたくなくって、目の下のクマを必死にメイクで隠したつもりなんだけどな。
ダメでした。
即バレでした。
「咲ちゃんが働いてるとこって、ブラックって言ってたよね?」
「うん」
あーアザちゃんの手が柔らかい。
この手の温もりがあれば、当分生きていける。
「もーそんな会社辞めちゃいなよ。カラダ壊しちゃうよ」
およよよ、まさかの提案。
目の前の世界で一番可愛い少女は、今まで見せたことがない、とても心配そうな表情をしていた。
推しが、推しにこんな表情をさせてしまうなんて、私はなんて愚か者なんだ!
でもねえ、
「そしたらお金がなくなっちゃう」
「そっかあ……だけど、このままだといつ倒れてもおかしくないよ?」
「うぇーい、推しからの心配いただきました!」
「咲ちゃん?」
連勤明けの休み、久しぶりの推しでテンションがおかしくなっていました。
「ごめんなさい」
ここで強制退場。
列に並び直しながら、考える。
うーん、たしかにアザちゃんの言う通りだなあ。
今の会社に残っていいことは?
「お給料がいいことぐらいだなあ」
お金、とても大事。
じゃあ辞めた場合は?
「無職じゃん……いや、転職すればいいのか」
簡単に辞められないことは置いといて、仕事を変えるメリットを考えてみよう。
ごく普通の毎日を送れる。
アザちゃんに会える回数が増える。
アザちゃんと握手できる回数が増える。
私が健康的になれば、アザちゃんに心配をかけなくて済む。
うん、後半アザちゃんに関することばっかりだったけど、メリットだらけなのでは?
よしっ。
辞めることを前向きに考えていこう!
なんて考えていたけれど、同期が飛んで、新人ちゃんも数人飛んで、辞められなくなって。
結局、新しい年を迎えてもブラック企業で働き続けているのは別の話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます