猫耳パーカーVtuberのウラ事情

双葉音子(煌星双葉)

プロローグ

 午後9時、都内のとある一軒家にて、僕――或音煌莉あるねきらりはパソコンのディスプレイに表示されている時間を凝視しながらカウントダウンしていた。


「……3、2、1、0!」


 カウントダウンを終えると同時に、僕は配信を開始した。すると、画面には猫耳パーカーを着た中性的な見た目の少年(男の娘といった方が正しい気がする)が現れた。


「ネトネコども!夏休みの宿題の読書感想文をラノベで書いてきたら先生に怒られたネコ。夜陰よかげかねこだよ~!こんかニャ~」


〈こんかニャ~〉

〈こんかニャこんかニャ〉

〈残当乙〉

〈ハハーン、さてはバカだな〉

〈推しがまさかの同志〉

〈因みにワイは怒られなかったゾ〉


「ハーレム系異世界転生モノだったのが駄目だったのかなぁ?次書く機会があったら、Vtuberモノのラブコメにしよう!」


〈なるほどさんこうになる(棒読み)〉

〈そうか貴様も同志か〉

〈ラノベが原因とは考えないのか〉


「という訳で、今日も雑談していこ〜。今日のテーマは夏休みだよ」


〈そういえばそろそろ夏休みか。ま、ニートの俺には関係ないはなしだけどなッ〉

〈カッコつけんな〉

〈社畜のワイにも関係ないがな〉

〈夏休みの宿題の読書感想文どうしようかな…。ヨシッ、ラノベ読んだ感想を書こう!!〉

〈人の話聞いてないやついるぞ〉

〈このための冒頭の挨拶だったのか……?〉


「ネトネコどもの予定はどんな感じ〜?ボクの予定は、まず配信。そして…、ないっ!?何もない!貴重な高校1年生の夏休みの予定がこれだけってどうなの!?」


 1時間前に『そろそろ活動にも慣れてきたし、今日の配信は台本書かなくても大丈夫っしょー』とか思ってたヤツ誰だよ!


「えー。ネトネコの皆様、どうかこの陰険クソガキに高校生の夏休みを満喫出来る予定を教えて下さいませ」


 リスナーたちが手を差し伸べてくれるように、精一杯の土下座をした。見える訳ないけど。

 それに応えてくれたのか、リスナーたちからは多くのコメントが送られてきた。


〈3期生全員と顔合わせとかはどう?〉

〈ねおちゃんとデートしないの?〉

〈夏休みの宿題〉

〈1,2期生たちとの絡みが見たい〜〉

〈歌枠をぜひ〉

〈チソ舐めASMRまだ?〉


「うわ〜!ネトネコのみんなありがと〜。これなら何とか充実した夏休みを送れそう!ナンカヘンナノマジッテタケド」


 僕はまだ高校生だからね。エッチなことは出来ないんだ。そういうことは二次創作でやらせてね。成人したら絶対巡回するから。後、僕が受けのやつにしといてね。


「それじゃあ、小学生の時の夏休みの時の話でもしよっかなぁ」


紫煙しえんがかねこで童貞卒業して捕まった話か?〉


「ねえ、人の親戚を勝手に犯罪者にしないでくれない?」


   ―――――――――――――――――


「それじゃあネトネコども、しーゆーねこすとた〜いむ」


 締めの挨拶を言って、配信を終わらせた。


「ひにゃ〜〜〜〜。今日の配信も良くできたー!」


 背伸びをしてリラックスし、パソコンの画面を眺めた。映っているのは、Vtuber事務所【リア:Life】所属の3期生Vtuber、夜陰かねこ。僕のVtuberとしての姿だ。

 毛筆フォントでデカデカと『暇』と書かれた白地のTシャツ、その上に重ね着している群青色の猫耳パーカー、裾の白い黒のショートパンツという簡素な服装となっている。

 活動を始めてから2ヶ月、チャンネル登録者数も順調に伸びてきて、今や30万人を越えた。

 あの時はまだ、ここまでくるなんて全然思ってなかった。

 あの時……、歌奏かなでと再会してなかったら、どうなってたんだろう……。

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