女装百景
葉っぱふみフミ
強制女装シリーズ
下着女装
森下翔馬が地獄のような猛暑日の外回り営業を終え、冷房の効いたオフィスにもどるとホッと一息付けた。
「ただいま」
オフィスに残っていた他の営業部のメンバーに声をかけ座った。そして、鞄から水筒を取り出すと中に残っていた麦茶を一気に飲み干した。
そのようすを見ていた、隣のデスクの川崎が話しかけてきた。
「係長は、夏なのに上着きているんですね」
「なんとなく、先方に失礼な気がしてね」
「会社に戻ってきた時ぐらい、脱げばいいのに」
「脱いだら忘れそうだから、着たままにしてる。それにこっちの方が、仕事に気合いが入る感じがする」
本当は翔馬も川崎と同じようにクールビズで、半袖のワイシャツで仕事がしたい。でも、会社内では上着を脱ぐわけにはいかない事情があった。
◇ ◇ ◇
「ただいま」
「おかえり」
残業を終え家に戻ると、妻の恵理が夕ご飯を作っていた。汗でぬれたワイシャツが気持ち悪いので、シャワーを浴びるために風呂場にむかった。
ワイシャツを脱ぐと、ピンクのキャミソールに真っ赤なブラジャーが透けている上半身が洗面台の鏡に映った。
下の下着もブラとセットになっている真っ赤なパンツだ。いや、ショーツと呼ぶと妻から教えてもらった。
シャワーを浴び終わり、を拭くと、洗い替え用のブラとショーツをつけた。こちらは紫で、妖艶な感じだ。
女性が着けているのなら興奮するかもしれないが、自分が着けるとなるとそんな感情も沸いてこない。
下着を着け終わると、夏の部屋着として使っている短パンとTシャツを着てリビングへと向かった。
テーブルの上にはすでに夕ご飯が並んでいた。恵理の前に行き、Tシャツをめくりあげ、短パンを膝まで降ろし、ブラとショーツを付けているのを確認してもらった。
「なあ、恵理、ブラとショーツの色なんだけど、ベージュとか白とか地味なのにしてもらえないか?会社で上着が脱げなくて暑いんだけど」
「あら、私が買ってきた下着が不満なの?」
「そういう訳じゃないけど」
「じゃ、いいじゃない。あなただって、私がベージュの下着着けていた時、『色気がない』って言ってたから、可愛いのにしてあげたのよ」
そう言われると抵抗できず、だまって受け入れることにした。
「でも、暑くなってきたから、洗い替え用にあと何着かあってもいいわね。今度の休み買いに行こうか?一緒にどう?」
一緒にどう?と言われたが、拒否する権利は今の自分にないことは分かっているので、同意するしかなかった。
1週間前、総務の派遣社員と浮気しているのが恵理にバレた。探偵会社に依頼したみたいで、派遣社員の子と食事したり、ホテルに入ったりしている写真がテーブルの上に置かれた。
「で、どうする?別れる?」
「その子とは別れるし、何でもするから、離婚だけはやめてくれ」
恵理と別れると、恵理の実家から支援を受け購入したこのマンションから追い出され、慰謝料も払わないといけない。
「何でもするのね」
そう言って、恵理は袋からブラとショーツを取り出し、テーブルの上に置いた。
「じゃ、今日から下着はこれにして。これなら、浮気できないでしょ。早速、着けてみてよ」
たしかに浮気してホテルに行ったとしても、そこで脱いでブラを着けていることがバレたら引かれるだろう。
ブラジャーを着けることに抵抗はあったが、言うことを聞くしかないので、着けることにした。
「サイズはよさそうね。肩紐はここで調整するの。わかった?」
「はい」
夜の窓ガラスに、真っ赤なブラとショーツを着けた自分の姿が映っていた。
◇ ◇ ◇
女性の下着売り場は、女性の花園という感じで色とりどりの下着が並んでおり華やかな雰囲気ではあるが、男性である翔馬が入ると気持ちが落ち着かない。
「せっかくだから、サイズも計ってもらおうか」
恵理が悪戯っぽい表情で言った。こちらの同意をとることもなく、店員を呼びに行った。メジャーを持った店員さんが恵理と一緒に戻ってきた。
「すみませんね。男なのにブラジャー着けたいって、急に言い出しちゃって」
胸のサイズを計っている店員に恵理が話しかけた。そうじゃないと、否定したかったが、恵理の機嫌を損ねそうなので話を合わせることにした。
「妻のブラジャー見てたらきれいなので、自分も着けてみたいなって思っちゃっいました」
「そうですよね。男性でもブラジャーしている人、最近増えてきましたよ」
サイズを計り終えた店員さんが戻ると、他の店員と話し始めた。何を話しているかは聞こえないが、こちらの方をみているので自分のことを言われているとわかる。
サイズが分かったところで、下着選びに入った。もちろん、ベージュや白の地味な下着は選ばせてもらえるわけもなく、花柄やリボンやフリルたっぷりのかわいらしい下着が買い物かごへと入れられて行った。
「ほら、お会計してきて、あとこれ、ちゃんと読んでね。」
恵理からメモを渡された。
「ちょっと、これ、本当に言うの?」
「言わないの?」
今までにこやかだった恵理の表情が変わった。
「つべこべ言わずに、さっさと行って」
恵理に背中を押され、レジへと向かった。他の買い物客が自分の方を見ているのが分かる。支払いを済ませて、商品を受け取った。
「今日はありがとうございました。おかげでかわいいブラジャーが買えて、嬉しいです。着けるのが楽しみです。また、きますのでよろしくお願いします」
恵理から渡されたメモに書いてあったことを言った。他の客がクスクス笑っているのが聞こえる。
恥ずかしさでいっぱいの買い物を終えて、ようやく下着売り場から出ることができた。
「じゃ、次はスカート買いに行こうか?今度から、家ではスカート履いてもらうからね」
恵理が楽しそうに言った。翔馬の女の子への道は、始まったばかりのようだ。
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