2人の願いを叶える時

小糸匠

第1話 入学式

「ぎゅ〜っ♡起きて〜♡」


朝6時。いつもの甘くて可愛い萌え声が俺の布団の横でする。双子の妹が、朝の弱い俺の事を起こしてくれるのが日常。ここは千葉県木更津市である。


俺の名は小糸匠こいと たくみ発達障害はったつしょうがいを患って産まれた、いわば精神障害者である。そのおかげか、勉強はできないバカであり技術も無い。電車オタクであってバスオタクでもあるが、料理の技術は一品ものと言われる。絶品料理を作るということで有名になったことがあり、テレビにも度々取り上げられたりしたこともあったなぁ。


私の名前は小糸こいと美玖みく。人のことを応援するチアリーダー。といっても、お兄ちゃんのたくみが発達障害を持っているから応援しているだけってのはある。勉強は普通の子より出来て、美人ってよく言われるけど、私はお兄ちゃんのことが好きだからっていつも言っているの!美人でもお兄ちゃんが好きなものは好きっ。たくみしか勝たん。


「今日は高めのポニーテールにする!」


「ハーフアップにしないんだ」


「たまにポニテを作ると気合が入って、やる気が出るの!」


「もしかしてユニフォーム着る?」


「メイクしたらチアのユニ着るよ!」


「そうしたらその間に朝ごはん作っておくべな」


「やったぁ〜!ありがと〜!」


かなりの真面目に見える美玖だが、実態はめちゃくちゃ甘えん坊。元気の源は朝ごはんから出来ているのかと疑うほど、朝から活発的である。


「今日は卵焼きにしてみっか。隠し味は・・・りんごにするべ。米はあと5分か。あーにくっかなぁ」


「フレ〜!フレ〜!たーくーみ!Go!Go!Fight!がんばれ〜っ!!」


「もう準備終わったんだ。あと少しで朝ごはんできるからしばしお待ち」


「ほんと!?じゃあたくみのこと、もっともっと応援する!!」


美玖が着替え終わる時間と朝ごはんを作っている時間が大体重なると、着替えを終えた美玖が朝ごはんを作り終わるまで応援してくれる。美玖はいつも裾に赤・白・青のラインが入った青いプリーツスカートとVictoryと書かれたロゴの入った赤のノースリーブを着て、金色のポンポンを両手にずっと応援してくれる。俺は作り終えると、美玖に食べるよう勧めた。


「はい完成。どうぞ」


「いただきますっ!」


「いただきます。どうだろ、美味いかな・・・」


「えっ、美味しい!」


「それはよかった。俺は準備してくる」


「食べるのほんと早いね・・・」


「入学式だからなぁ。早食いせんと準備できんのよ」


俺はそう言って、クローゼットの中から昨日届いた制服を引っ張り出す。少しサイズが大きい気がするけれど、3年後にはぴったりになるだろう。


朝食を食べ終わった美玖はというと、制服に着替える前にまず髪型を決める。入学式だから、式に相応しい髪型にしたいと前から言っていたのだ。


「たきゅみー」


「ん?あじした?」


「ハーフアップとポニテ、どっちがいいと思う?」


「んー・・・式だからってことを考えると、ハーフアップじゃない?」


「たしかに。じゃあポニテみたいなハーフアップにしてみようかな」


「いじくってやろうか?」


「うん!おねがいします!」


「はいよ。ちと待ってなぁ」


そうして俺はポニテを解いたユニフォームのままの美玖の髪を手に取り、細いゴムでハーフアップを作りはじめた。美玖のヘアセットはどうやらこだわりがあるようだが・・・。


たくみに髪をセットしてもらう理由、それは私が単にめんどくさいってわけじゃない。

私が長年チアダンスを踊り続ける理由にもなるけど、それはたくみを応援するだけではなく、たくみのヘアセットが好きだからという理由。

cheerの意味は、元気づける、励ます、そして応援。一般的な意味で言うとこの3つだと思うけど、私の場合はヘアセットをたくみにしてもらうことで、たくみを元気づけて応援したいって意味もあってヘアセットをお願いしているの。


「おまちどおさまでした」


「ありがとう!」


「あじょうだ?ふんわりしてる?」


「うん!ふわっとしてて、すごいかわいい!」


「踊ってみ」


「うん!たくみ、見惚れないでね」


そう言って美玖は曲をかけてチアダンスを踊り始めた。これから入学式だってのに大丈夫かとは思うが、美玖は何年もやっていることだから今更不安がっても意味がない。


踊り終わって制服に着替えた美玖はカバンを肩にかけ、俺の腕を引っ張って外に出た。


「クラス一緒になるといいね」


「双子って基本別じゃないの?」


「だからだよ〜。むーっ」


「余計に一緒になりたいんだ」


「席近いとさ、たくみの弁当箱に、私のお弁当も一緒に作れるじゃん?」


「さては目的それか」


「違うよ!」


「冗談だって」


学校まではバスで6つ。田舎なので本数がない。よって早く家を出て、学校まで行かなければならないのだ。そういえば今日が入学式だけど、うちの親戚一同は来るのか・・・?


「ご乗車の際お足元に十分ご注意ください。折り返し8時35分発、祇園小前・太田経由の木更津駅東口行です」


「あっ、やっぱり。おはようございますー」


「おぉ。おはよー」


「・・・いたんすね」


「今日急遽1日乗務になってねー」


「・・・だれ?」


「知り合いの松間さん。ここら辺でよくバス走らしてる。あれよ、いとこの同僚」


「ゆうくん今日いないんだけど、そちらにいるのはもしかして、妹さん?」


「双子のね」


「はじめまして。妹の美玖って言います。うちのお兄ちゃんがいつもお世話になってます。よろしくおねがいします!」


「松間颯汰です。よろしくね」


「あれこれ35発ですか?」


「そうだよ」


「もう34分かぁ」


「あら。じゃあ捕まっててよー」


「はーい」


学校に着いて受付を済ませると、教室に案内される。本来なら2人別々になるはずなのだが・・・美玖が見つけたのはとあるものだった。


「あっ!たくみといっしょ!」


そう言って見つけたとあるものとは、教室案内の掲示。そこに俺の名前と美玖の名前が連続で書いてあった。


「やった〜!たくみと一緒だ〜!」


「おいおい、騒ぐなって」


「教室行こっ!」


「全く」


そう呟き、教室へ向かう。入学式は10時開式。現在、午前9時半である。


「おはよー」


「あ、来たんだ」


「裕太お兄ちゃん!おはよ〜!!」


「美玖ちゃん、すごい元気だね」


「いとこ来てたんだなぁって方が驚きよ。そう言えばさ、まっさん清見きよみにいたけど今日裕太兄さん休みなの?」


「あぁ43Aか。そう今日清見台にいるんだよ。俺は今日45B」


話しているのは俺のいとこの裕太兄さん。年が10個離れていて、さっき出てきた松間さんと同じバスの運転士。松間さんの同級生だったりする。


「45Bって・・・イオンの終車じゃん」


「ね、ほんと」


「じゃあ後でイオンいこー?」


「そうだね」


入学式はそんじょそこらの普通の高校と変わらない。正直、退屈である。ただ、いつもと違うのはクラスの中に美玖がいること。普通ならありえないことが、今起こっているのだ。しかも、美玖は現状真横にいる。


「たきゅみ」


「なに」


「体が緊張してる。本当だったらポンポンを持ってたくみを応援したいけど、私はいつもたくみの横にいるんだから。リラックスして、式に参列しよっ」


美玖はそう言って、つけていた赤色のヘアピンを俺の髪につけた。美玖が安心して欲しいって思ったからだろう。それから式を終え、諸々話を聞いたあと、先生が号令をかけた。


「起立。礼」


「ありがとうございました」


「たくみ!早く帰ろっ!」



To be continued....

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