番外編3 家
物事には、それ相応の順序というものがあるように思える。次の展開が予想できない、なんてことが立て続けに起こるのは小説の中の話だけで、基本的には道理に従って事が進んでいく。
そう思っていた。
「もし良かったら、私のお家に来ませんか?」
亜美は素知らぬ顔でそう言って見せた。一体、何故。疑問符が頭に留まり続けているが、考えてもそれを解消させるような答えは俺1人では得られなそうだった。
「亜美さんのお家……ですか?」
「えぇ、今日は家に人もいないですし、お二人が良かったらですけども」
「ご迷惑にならないかな」
「私が提案した事ですので、全然迷惑とかじゃないですよ」
「美里、どうする?折角だしお邪魔させてもらう?」
「うん、そうしよっか」
「……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらってもらってもいいですか?」
「もちろん!じゃあそういうことで、先輩もいいですよね」
「あ、あぁ」
俺が混乱している内に、3人で高速に展開された会話によって俺達が亜美の家に上がらせてもらうことが決定してしまったようだ。
…………。
いやいや、待て待て。
今さっき、亜美は敵意にも似た皮肉を2人に放ったばかりではないか。そこからどう事が変われば2人を家に招待する事になるのだろうか。
……もしや、さっきの発言は俺の考えすぎなのか?
分からない。そもそも同性の考えることも分からない鈍い俺には、身体の作りから違う異性の思考を理解しようとすること自体が無謀なのかもしれない。
などと考えつつホームへ向かい、電車を乗り継いで亜美の家に向かう。ぎこちないながらもなんだかんだ4人の間では円滑に会話が弾み、どこか亜美と2人は打ち解けているようにも思える。
いよいよ先程の俺の考えが勘違いだと証明されつつあった。
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30分も掛からずに、亜美の家に到着した。此処にはこれまでも何回か来たが、どうにもまだ慣れたものじゃない。
今までと違って側に杏奈と美里がいるのも、"違和感"と言えば良いのだろうか、それに近しい感覚をより強くさせた。
「入ってください」
亜美が玄関を開けて俺達に入るよう促す。横目で2人を見ると、やはりまだ
「「「お邪魔しまーす」」」
若干ハモったところで、俺から中に入る。靴箱の上に置かれた芳香剤の香りが鼻腔を優しく刺激した。
脱いだ靴を揃えたあと、亜美に誘導されて洗面所で手を洗う。
「では皆さん、ついてきてください」
全員手を洗い終わった所で、そう告げて階段を登り始めた亜美に続く。
「人の家に来るのって緊張するな……」
「ウチも」
後ろで2人が何やら話しているのを背に、階段を登り切る。
今まで同様二階にある亜美の部屋に案内されるのかと思ったが、その奥に見える扉の方に誘導された。
中に入ると、陽光が刺す広々とした、恐らくリビングとして使用されているだろう空間が視界に入った。
基本的にこのような部屋は一階に置かれるものだと思ってたのだが、意外とそうでもないのかもしれない。
「私は飲み物とかを用意するので、適当に腰掛けていてくださーい」
「あ、ありがとうございます!」
「ありがと〜」
美里が恐縮だと言わんばかりにお礼を言うのと対照的に杏奈が気の抜けた感謝を放つその対比が面白い。
俺も亜美にお礼を告げた所で、何処かへ腰掛けようと辺りを見回す。
視界に入ったのは横広の茶色いソファ。一言で言い表すならば、高そうなやつだ。
ここまでそこそこの道のりだったため、少し腰に疲労を感じる。お言葉に甘えて座らせてもらおう。
「おぉ……沈む……」
腰を下ろした途端に高度を下げるソファ。その柔らかさは一級品。疲労が溜まった腰に効く。
もうこのままここで暮らしたい──
「ちょっと、1人で占領してないで詰めてよね」
「おぉ、すまん」
快楽に身を任せていたところに杏奈が無理矢理隣に腰を下ろしてくる。そして躊躇いもなしに俺を端に追いやってくる。
他に椅子やら座るものはチラホラ見られるが、このソファが1番"格の高そうな"ものであるが故に、他の2人もこのソファを使えるようにスペースを開けにきたのだろう。
その意図を感じ取ったので、抵抗せずに大人しく端に寄る。
杏奈は更に詰めてくるので、必然的に俺と杏奈は密着する形になる。その拍子に、杏奈の大きな胸が腕に押し当てられる。俺の心臓は否応なしに高鳴り始めて──
「……?」
ふと、何やら物々しい感覚を覚える。
まさかと思い恐る恐る後ろを伺うと、そこには4人分のコップを乗せたトレイを持った、取ってつけたような笑顔を浮かべる亜美がいた。
その目は、欠片も笑っていなかった。
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あとがき
先週は本当に失礼しました!"初めて亜美の家に行く"という択を残していたつもりでしたが、前回の2人の集合場所を颯太の家から亜美の家に変更したのを忘れていました!
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