亜美の誘惑2※性描写あり
それでも。
たとえ過去の自分を相手取らなければならないとしても。
彼女のためを思うなら言わなければならない。
「亜美、やっぱり避妊はしないと」
「……どうしてですか。先輩は生でしたくないんですか」
「いや、そういう訳じゃない。俺だって亜美と直接繋がりたい……けど、それは今じゃない」
亜美は不満げな態度を隠すことをしないが、それでも俺の話に耳を傾けてくれた。
「もし、仮に今妊娠したら1番困るのは、俺でも亜美でもなく、生まれてくる子なんだ。経済力も何もない俺らじゃ、生まれてくる子を幸せにすることは出来ない。分かってくれ」
子供1人大学まで通わせ、独り立ちさせるのに必要な費用は3000万以上と言われている。
仮にクレジットカードすら持っていないただの高校生である俺達が子供を作ったとして、2人で共働きをし、子育てに関する様々な制度を利用してもなお、きっと子供には不自由を強いる事になるだろう。
「……分かりました。じゃあ、前に先輩が置いていったゴムがいくつかあるので、それを持ってきます」
亜美が渋々と言った様子で腰を上げ、ゴムを探しに部屋を出ていく。ムードもへったくれも無くなってしまったが、致し方ない。
それよりも、気になったのは亜美の言動。
思い出したような素振りもなく、仕方がないといった様子でゴムを取りに行ったことから、亜美は元々家にゴムがあることを理解していて、その上で俺に"付けなくていい"と言ったということだ。
その事実が、俺を大いに困惑させる。
しばらくして、亜美が部屋に戻ってくる。彼女が手に持つゴムは確かに俺が以前購入したメーカーのもの。
「先輩、どうぞ」
亜美が俺にゴムを渡す。それを受け取り、中身を取り出そうとvノッチに手をかける時もなお、俺は亜美の不可解の言動の真意を考察していた。
何故亜美は避妊を避けたのだろうか。
快楽の為?……いや、性的な行為に元々積極的ではない彼女に限ってそれはないだろう。ましてや性欲に流されて道を違えるだなんて、聡明な彼女からして考えにくい。
他の方法で避妊をしている?……コンドーム以外なら低容量ピルが代表的だが、それだと今コンドームを取りに行ったことに違和感を覚える。
確かにいくつかの避妊法を同時に取り入れて妊娠のリスクを極端に減らそうとしていることも考えられるが、そうなると今度は"ゴムをしなくていい"という先程の彼女の発言に矛盾する。
……じゃあ何が正解なんだ?
まさか、本当に妊娠しようとしていた訳じゃあるまいだろうし。
全くもって見当が付かなかった。
ちぎって中のゴムを取り出す。用済みとなった包装紙を捨てようとそれをつまんで──
「……穴?」
包装紙の裏に見えたのは、注意しなければ見逃してしまうだろう小さな穴。
「……まさか」
取り出したゴムをよく観察する。しばらく観察した後に、先程俺がまさか無いだろうとバッサリ切り捨てた択に、彼女の真意があると確信した。
「亜美、どういうつもりだ」
俺はコンドームにも開けられた小さな穴を指さして亜美に見せる。
彼女はどこかバツが悪そうに目を逸らした。
「何を考えてるんだ。こんな悪ふざけをしたら本当に妊娠するぞ」
「……別にいいじゃないですか、先輩の子供を妊娠したって」
亜美は不貞腐れたように俺を睨む。俺から糾弾されることに納得のいっていない事を示すかのようなその態度から、彼女は本当に俺の子を妊娠してもいいと思っていることが分かった。
一時期、"亜美との関係はもう長くは続かないのかもしれない"とまで思っていた俺にとって、それはこの上なく満たされる事実ではあるが、亜美のことを思うならば、ここは叱らないといけない。
「いや、良くない。経済的な問題だけじゃない。若年妊娠でのリスクを背負うのはお前なんだぞ?」
「──先輩、随分と変わりましたよね」
俺の説教をもろともせず、亜美は怒気を孕んだような声を漏らした。
「ちょっと前は私のこと妊娠させたいとか言ったり、ゴム無しでさせてくれって言ったりしてたじゃないですか。それが今じゃ急に妊娠のリスクを語り始めるようになって。……今更いい子面ですか?」
「それは……」
「さっきから妊娠のリスクがどうたら言ってますけど、それを理解した上で私のこと妊娠させようとしてたんじゃないんですか?」
亜美が俺にグッと顔を近づける。
「もう私のこと孕ませる覚悟、無くなっちゃいましたか?先輩にとって私は、もうその程度の女ですか?……それとも、別に好きな女が、出来たんですか?」
亜美の、深淵よりも濃い黒目が俺を掴んで離さない。
「……あの女共ですよね」
「……え?」
「先輩、駅前のショッピングモールでよく分からない女2人とデートしてましたよね」
バレていた。
俺が杏奈と美里と出かけていた事が、亜美にバレていた。どこ経由で亜美に伝わったのかは分からない。でも今は重要ではない。
「それは……その、違うんだ。あの日は──」
「言い訳なんて聞きたくない!」
俺が亜美に弁明しようと口を開いたら、それを遮るように、亜美が今まで聞いたことのないような大きな声をあげた。
「あの2人のどっちかは知らないですけど、狙ってるんですよね?どうせ私はもうキープ要員なんでしょ?」
「違うって!俺がそんなこと思うわけないだろ?」
「彼女に黙って他の女と遊びに行った時点で、信用できないです」
「……それでも、違うんだ!」
亜美へ渡すプレゼントを買いに行くという理由があったとはいえ、あの日の俺は側から見れば、彼女がいるのにも関わらずその彼女を放置して他の女と遊びに行っている男。
亜美に"信用できない"と切り捨てられるのも当然だった。
「……じゃあ、私のこと妊娠させるつもりで抱いて示してください。私と一生を添い遂げる覚悟があるって」
亜美が使い物にならないゴムを側に放って、俺の首に手を回して抱き締めてくる。唇と唇が繋がる。もう言葉は紡げない。空気が湿っぽく、妖艶に変化していく。
何が始まるのかは明白だった。
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