初めての女友達


「はい到着ー」


放課後、紫苑に連れられて着いた先は繁華街にあるカラオケボックス。割と大規模な施設である。


「男2人でカラオケかよ」


「まあまあ、着いてきなさい」


紫苑はそう言うと店内へと吸い込まれていく。ここで引き返すわけにも行かないので、慌てて追いかけると、彼は受付もせずに2階へ上がる。


「おい、いいのかよ」


「いいの。


そう言って紫苑が向かったのはこの施設の中でも大人数が収容出来るようになっているパーティールーム。


後ろを追って恐る恐る部屋を覗くと、その中には大人数の制服を着た学生がたむろしていた。


「みんなお疲れー」


紫苑は何も言わずに中に入っていく、とりあえず俺もついていくしかない。意を決して部屋に入る。


「お!紫苑!……ってその隣の方は?」


「彼は聡太!俺の高校の友達。連れて来ちゃった」


「おぉ!よろしくな!」


「……うす」


どうやら、俺は紫苑とそのダチのパーティーに連れ込まれてしまったらしい。


「お!なんか見ない顔がいんじゃん」


誰かがそう呟くとゾロゾロと俺の周りに人が集まってくる。


「え、結構カッコいい」


「聡太は彼女持ちだよ」


「えーつまんないのー。……まあいいや、聡太君だっけ。なんか歌おうよ」


「それよりまず自己紹介だろ!」


「まあそうだね、私は───」


=====


「おい、こんなの聞いてなかったぞ」


一息ついた後、俺は連れションと称して紫苑を連れ出す。


「ごめんね!でもみんななら絶対聡太のいい友達になるなって思って」


手を合わせて大袈裟に頭を下げる紫苑。あまりこういう風に思うのは良くないのかもしれないが、適当に謝ってそうではある。


「一歩間違えたら借りて来た猫状態になる所だったぞ」


仲の良いグループに部外者が1人放り込まれるのは単純に地獄。これは誰もが納得してくれるはずだ。


「でもみんな積極的だったでしょ?」


「……まあ、そうだな」


俺という異物がパーティールームに混入してしまったわけだが、紫苑の友達は俺をいないものとして扱う訳でもなく、誰1人嫌な顔せずに、むしろ興味津々と言わんばかりに質問責めをしてきた。


そのおかげで俺は孤立することなく、彼らと交流することができた。恐らく紫苑のこの行動も、彼らの性格を理解した上でのものだったのだろう。


「というか、紫苑の友達ってわりとあんな感じの系統なんだな」


「意外?」


「まあ、そうだな」


礼儀正しい紫苑の友達が、どちらかというとチャラい寄りのヤツらが多いとは思わなかった。


「実はさ、中学の頃は僕もやんちゃだったんだよね。その時に仲良くなったのがあいつらで、今でも定期的に遊んでるって感じさ」


「なるほどな」


今でこそ可愛いベクトルの強い美少年キャラが確立している紫苑が、中学時代では彼らのようにチャラかったという事実は意外だった。


「……どう?楽しめそう?」


「まあな」


「よかったー!いきなり連れてくるにはちょっとアウェー過ぎたかなって思ってたんだよね」


「いや、それは純然たる事実だ」


「えへへ、そうだね」


紫苑はバツが悪そうに頬を掻く。


「まあ……ありがとうな」


やり方は強引だったが、俺を思って行動してくれた。俺のことを思って行動してくれるヤツがいるという事実が、嬉しかった。


「いいってことさ!……じゃあ、戻ろっか」


「おう」


=====


「聡太!じゃあな!」


「じゃあねー!」


「来週も集まるからまた来いよ!」


「……おう、また来週」


駅の近くで解散する。別方向で帰る人達も、俺のことを最後まで気にかけてくれた。


さて。


ここからは目の前の問題に対処しなければならない。


俺と同じ方向で帰る人が2人。美里さんと杏奈さん。彼女らとはいくらさっきの時間で親睦を深めたとはいえ今日が初対面。紫苑がいない今、話が弾まず気まずい雰囲気が流れる可能性は大いにある。かなりの難所だ。


「聡太君、今日は楽しかった?」


「あ、あぁ、お陰様で」


何か俺から話しかけようかと思考を巡らせていると、むしろ美里さんから話しかけてくれた。


「でも、何も言わずに連れてこられたんしょ?ビビるよねそれ」


すかさず杏奈さんも会話に入ってくる。


「そうですね、最初はちょっと大変でしたね」


「そうよねー」


「まあ、最初はやってくれたなって思ったけど、美里さんと杏奈さんと知り合えたから、明宏には感謝してます」


言った後にクサい台詞を吐いたことに気づいて、少し恥ずかしくなる。恐る恐る2人を横目で確認すると、少し不満気なご様子だった。キモかっただろうか。


「なんか距離感じるんだけど。もうマブダチなんだからさ、もっと砕けた口調で良いし、ウチのことは杏奈って呼んでよ」


よそよそしい口調が気に入らなかったらしい。

俺がキモかった訳ではないと分かって安堵すると同時に、"マブダチ"という言葉の響きの良さに感動する。


「私のことは美里で!」


「……分かった。よろしくな、杏奈、美里」


「うっしゃ!そうこなくっちゃな!」


杏奈に肩に手を回されて思いっきり締め付けられる。杏奈の大きな胸が当たって一般的にはご褒美の部類に入るだろうが、いかんせん力が強い。


「いてて!ギブ!ギブ!」


「杏奈ちゃん!聡太君痛がってるよ!」


「マブダチの証だからノーカンノーカン!」


「美里……助けて……」


「あわわわわわ」


会話が弾まない、だなんて全くの杞憂だった。


今日1日で、亜美しかなかった俺の心に色んなものがズカズカと入ってきた。けれどもそれは決して嫌なモノではなくて。


俺を人間として大きく成長してくれるものなのだろう。




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