ヤンデレをやめた俺は、期せずして彼女をヤンデレに育てていたようだ。
あ
俺は拒絶された
放課後。すぐさま一つ下の階にある2年の教室に向かう。亜美が所属する2年A組も既に帰りのホームルームを終えているらしく、生徒が教室から出ようと扉に集中している。
その扉の真横で亜美が出てくるのを待つ。
「うわっ、また来てる……」
「亜美ちゃんの彼氏だよね……」
何やら小言を言われているが、気にならない。亜美以外の人間の評価なんて、どうでもいい。
周りの視線を気に留めずに亜美を待つが、中々出てこない。居ても立っても居られず教室を覗くと、教材を片付けて下校の準備をしている亜美が見えた。思わず溢れそうになる笑みを抑えて声をかけようとした矢先、亜美の隣の男を捉える。その瞬間、俺の心は憎悪に支配された。
楽しそうに話している。会話の内容は聞こえない。しばらくすると、2人に笑顔が灯る。
ムカつく。ムカつく。ムカつく。
あの男の顔面を今すぐグーで殴りに行きたい衝動をなんとか抑えて、亜美が教室から出てくるのを待った。
「おい、亜美。誰なんだよさっきの男は」
「あっ……先輩、もう来てたんですね」
やっと教室から出てきた亜美の肩を掴むと、彼女は露骨に体を震わせた。やはり、あの男との間にやましいことがあるに違いない。
「おい、浮気か?浮気なのか?ふざけんなよ。俺がいるだろ?他の男に色目使ってんじゃねぇよ」
「浮気なんかじゃないです!偶々事務的な用があって話してただけです!」
必死に否定しているのが怪しい。追及の手を弱めまいと口を動かそうとするが──
「……ちっ、まあいい。帰るぞ」
「……はい」
亜美の教室前だったこともあり、かなり多くの視線が俺たちに集中する。バツが悪くなって思わず立ち去る判断をする。亜美の手を引いて学校を出る。
校門からしばらく距離が開いたところで、自然と恋人繋ぎへと移行した。
少し経ったところで、先程の続きをするべく口を開く。
「おい、亜美。さっきは随分と楽しそうだったな。誰なんだよあいつ」
繋いでいる手に力が自然と入る。亜美の横顔は暗い。
「彼とは同じ生徒会に所属している関係で、業務を共有していたんです。その関係で少しお話ししました」
……生徒会かよ。これだから亜美が生徒会に所属するのが嫌だったんだ。
「でも随分笑顔で楽しそうに話してたじゃねぇか。事務連絡とは思えねぇんだけど」
「……それは、少しぐらい雑談だってします」
「いや、要らねぇだろ。何処の馬の骨かもわからねぇ男とする雑談なんてよ」
「………」
「要らねぇよな?」
強い口調で亜美に念押しする。これでいつも通りに亜美が折れて──
「先輩」
「……どうした?」
意を決したように、透き通った声で亜美は俺を呼んだ。何かを言おうとしているのは明白だった。俺はてっきり亜美が俺の言うことに従うと思っていたから、虚を突かれた形になる。それと同時に、彼女の覚悟が決まったかのような目を見て、嫌な予感がした。
「私、先輩に普段から沢山愛を示してもらえて、愛されてるなって感じます。それはとっても嬉しいです」
──でも、と彼女は続ける。
「私、迷惑してます。先輩のせいで異性のクラスメイトの方とまともにコミュニケーションも取れてないです。先輩が放課後すぐに私を束縛しに来るから、学年であらぬ噂も立ってます。……だから、私に干渉してくるのを少しだけ控えてくれませんか?」
亜美が何を言っているのか、理解できなかった。
俺は今、亜美に拒絶されている……?
心臓の鼓動が早くなる。頭が真っ白になって何も考えられない。
「ち、違う!俺は亜美の為を思ってやってるんだ!」
「……そんな気遣いいりません」
「なんで俺の事を分かってくれない──」
「だから!迷惑なんです!分かってください!」
そう告げた彼女は、俺と繋いでいた手を振り払って、先に走っていってしまった。
呆然と立ち尽くす俺の心は、絶望で支配されていた。
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