第50話 雷轟神破砕尻槌〈ヘカトンケイルヒップハンマー〉


「もういいでしょう。帰りましょうよ、鬼神さん」

「エンジュちゃん」


 俺の後ろではエンジュちゃんが涙目になっていた。メルルに掴まれて隅っこに隠れていたので無事だったようだ。


「私は助けてくれる人を待ってました。あの男は金はありましたけど……。毎日生き血を飲ませなきゃいけないなんて、まっぴらでした」


「生き血を飲ませるとか、オエェツブエェエ! って感じだな」

「心が人ではないんです。女神もついていて……。もう危ないことはやめましょうよ」


「こっちにも女神は来たがな。おい。起きろ」

「はえ? お、鬼神きゅん!」


 女神ヴェーラが地面から尻を抜いた。俺はこいつとはできるだけ会話をしたくなかったが、状況がわからなすぎる。


「あれはなんだ? 屍田が復活して三頭竜にくっついて」

「あの力からはニュルンちゃんです。女神のダシを放出して世界中のサイコパスを強化しているんです」


「……全体的に意味分かんねーんだが?」

「ニュルンちゃんは女神のエリートです。妖精世界の神に命じられて、人類蠱毒剪定計画を始めました」


「時間がねぇ。三秒で」


「え? えーと。ニュルンちゃんは私の友達で……。でも神の命令で悪いことをしているからお尻相撲で止めようとして。お尻を破壊したんだけど、ニュルンちゃんの意思は固くて……。お尻は柔らかくて……」


 ダメだヴェーラでは要点を得ない。


「うん。ちょっと黙ってて」

「鬼神きゅんに嫌われちゃう?! えーと。ニュルンちゃんのお尻がメタルなのは私が破壊したからで」


「黙って、正座してろ!」

「ふええぇぇえええん!」


 女神ヴェーラは俺のいうとおり正座した。


 会話から尻以外のなんの情報も読み取れない。

 こいつはなんのためにでてきたんだ?


 エンジュちゃんがさらにすがってくる。


「鬼神さん。逃げましょう。屍田がまさか神と繋がっていたなんて。もう懲り懲りです。上を目指したらキリがない。帰りましょう」


 だがエンジュちゃんは、とんでもないことを言ってのける。


「その女の子を渡して命乞いをしましょうよ」


 リコを渡せと言っているらしい。

 まあ命大事にしたいなら、そういう選択もあるわな。


「私じゃ、ダメですか?」


 セクシー女優に『私じゃ、ダメですか?』と言われるなんて、夢みたいだ。

 だが俺は、リコが奪われることは許さない。


「なんもねー俺の前に現れたのがリコだ。俺は初見でこいつを犯した」

「犯し……え?!」


 リコが『う、ぅぅん、と呻く』。

 ったく。可愛いぜ。


「ダンジョンで陵辱をした俺を、笑って許してくれた。俺は基本女がムカツクし。モテないし。不謹慎なまとめサイトにも同感するタイプだがよぉ。心の中の子供の頃の透龍君がよぉ。リコだけはオッケーっていったんだ」


「じゃあ、女神付きの三頭竜と闘うんですか?」

「奪う奴は許さねえ。話はこれで終いだ」

「武器もないのに。雷轟神も収束したのに。どうやって……」


 そのときリコが目覚める。


「鬼神さん。武器なら……、あるよ。私のレンジャー能力で見えてる」

「しゃべんな。触手で痺れてんだろ」


「抱きしめられてるから大丈夫ぅ。武器はね。女神のお尻だよ。鬼神さんは紳士だから女神のお尻に波長を向けていないだけ。ちゃんとお尻をみて!」


 俺はリコのいうとおりに、正座するヴェーラの尻に波長を向ける。


『力が漲るなぁ!ヒャハハア!』


 前方では三頭竜となった屍田が、ブレスの姿勢となっていた。

 みっつの竜の首からブレスが放たれようとしている。


 マナのない俺は所詮は人間。喰らえば完全なオーバーキルだ。


 マナは切れている。

 雷轟神も使い果たして消えた。

 リコの言葉を信じてみる。


「ヴェーラ。こっちに来い」

「鬼神きゅんの言うとおりにしましゅ!」


 デレデレの女神が気持ち悪かったが、こいつに恐怖を感じていた理由がわかってくる。


 俺のことをいきなり好きだという。虹色で爆乳の女神が森の中を空を飛んで追いかけてきたら、そりゃあ誰だってビビる。


「リコの言うとおりだ。尻だ……」

「へ?」


 だが俺が本能的に逃げた理由はそれだけじゃなかった。

 こいつには圧倒的なパワーが秘められている。


「お前の尻を使うぞ」


 俺はヴェーラを抱えた。


「メルルぅ。リコとエンジュちゃんを頼んだ! 空飛んで逃げろおぉ!」

「鬼神ぃ。ふたりは無理だよ!」


「天井が開いてんだろ!」

「うーん。がんばらないと殺さるかぁ。鬼神はどうするの?!」


「あいつを殺す」


 俺は女神ヴェーラを抱え、三頭竜の屍田と対峙する。


「ふえぇぇぇ? 鬼神きゅんに抱えられてる?」

「女神だから死にはしねーだろ」


 メルルは翼をさらに巨大化。

 鷲状になったメルルがリコとエンジュちゃんを抱えて上昇する。


「ぬん、ぬぅうううう。無理っぽいけどいける!」


 同時に三頭竜からのブラスが放たれた。メルルとリコとエンジュちゃんは上空へ登ってどうにか回避!


 俺には直撃コースだ。

 俺はヴェーラの足を持ち、振り回した!


「鬼神きゅん?! これは?!」


 ヴェーラから俺にマナが供給され、身体強化がされる。

 最低限のマナだが超高速での動きが可能となる!


 女神の尻が放物線を描いた。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」

「あっっっひゃぁぁあああああああああああああああ!!」


 ぶぉんぶぉんぶぉんぶぉんぶぉんぶぉん!

 ぶぉんぶぉんぶぉんぶぉんぶぉんぶぉん!


 ぶぉんぶぉんぶぉんぶぉんぶぉんぶぉん!


 三頭竜から降り注ぐ炎と氷と重力波のブレス!


 すべてのブレスを、放物線を描いた女神の尻が無効化していく。


「きゃぁぁあああああああぁっぁあああ!」

「ううおおおおおぁぁぁあああああああ!」


 俺は女神を振り回し、尻の奇跡でエネルギーフィールドを形成。

 三つの属性のドラゴンブレスをかき消しながら前に進む。


「馬鹿ナ? コンナコトガ、アリエルノカ?」


「雷轟神破砕尻槌〈ヘカトンケイルヒップハンマー〉だ!」


 俺は身体強化のみで、100階層を、超速飛翔!


『ぼっ』、『ぼっ』、『ぼっ』と縦横、斜めに槌の一撃を走らせる!


「これはリコの分、俺の分、俺の分、俺の分、俺の分、俺の分だぁ」

「私の、女神の分は?」

「ない」


 女神の尻が触れると三頭竜の胴体がえぐれ喪失!

 竜の頭部に雷轟が走り、蒸発後、爆発!

 三頭竜に亀裂が入り、肉がぼこぼこと沸騰!


 三頭竜の肉体が崩壊を初めて行く。

 ブレスと爆散の熱風が吹き上がり、俺とヴェーラは巻き込まれていった。


――――――――――――――――――――――

いつもどおりケツでした笑。来週ラストです。もし続いてほしい人いたらコメください。



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