第47話 前方の触手タコ、後方には触手ウィングマンが!
俺はエンジュちゃんをお姫様だっこしながら100階層に到達する。
『鬼神ぃいいい! 美女を片手に一位で100階層へ到達だぁ~~! 止まるところを知らない。圧倒的かつ絶対的踏破力ぅ!』
ディレクターがドローンカメラで俺を撮影してくれていた。
ハイテンションで何よりだぜ。
100階層のカーテンが開き、ダンジョンタワーのボスが現れる。
【オメガ・デビルフィッシュ・クトゥーゾプ】
タコ型の迷宮魔獣だが、クトゥルフ的な要素を宿してもいる、全長30メートルの触手の塊が俺の前方で屹立する。
「にしてもでけえな」
100階層は体育館ほどの広さの巨大エリアだが、前方の壁を埋め尽くすがごときサイズだった。
「ぁ、ぁぁ、あ……。もう、終わりだ……。こんなの終わりだよ……」
「エンジュちゃん、大丈夫か?」
お姫様だっこをしていたエンジュちゃんが、目に涙を浮かべていた。腰が細いのに大きな胸が過呼吸で激しく上下する。
「【オメガ・デビルフィッシュ・クトゥーゾプ】だよ? これは屍田さんの魔獣コレクションの最上位種だ……。屍田さんは鬼神さんを殺す気だよ。あの人は、自分の邪魔者を許さない」
「俺なんか悪いことしたか? むしろ敏腕経営者に名前を知ってもらって、働かせてもらいたいくらいなんだがよ」
「あの人は、人の心とかないから……」
ちょっと小休止なので俺は考える。
エンジュちゃんは公称Iカップだが、リコはHカップだ。
カップ数ではエンジュちゃんはリコに勝るが、たぶん肉の総量ではリコが勝っているだろう。
腰のくびれはさすがセクシー女優というべきか。すらりとした曲線が服の上からよくわかる。
リコはちょっと寸胴気味だからな。
まあでもふとももとか尻とか、男が好きなポイントは、リコが圧倒的に上だ。
リコは安産型だしな。
「どうしたんですか? 鬼神さん」
エンジュちゃんはめっちゃ綺麗だが、将来的にはもっと太った方がいいだろう。
(めっちゃ綺麗だけど。孕ませるならリコだな。でも乳でけーな。やっぱカップ数が圧倒的だよな。でも質量はリコの方か。エンジュちゃんはボインだけど、リコはムチムチって感じだよな)
「鬼神さん。何故ぼうっとしてるんですか? 逃げましょう。勝てませんよ?!」
「ん。あぁ。大丈夫っすよ」
エンジュちゃんはなんだかビビっているようだが何が問題なのかわからない。
【オメガ・デビルフィッシュ・クトゥーゾプ】とかいうけど、要するにでかいタコだろ?
「逃げましょうよ! 屍田は怒らせちゃダメなんです。彼は圧倒的なアルティメットなサイコパスです。私たち女優の血を、彼はディナーに入れて……。毎日飲まないと地下送りにされて……」
「え?! さすがに引く!気持ち悪いヤツだなぁ。おっといけね! 今のはオフで!」
俺は配信を一時オフにする。
「鬼神さん……」
「いやぁ。だって偉い人の悪口とかいえないじゃん? 別にブラック上司で実害がでたわけじゃないんだからさぁ。俺だってこのアトラクションで、次の仕事欲しいんですよ」
「私を助けてはくれないんですね」
エンジュちゃんのいうことはよくわからない。今の会話は助けて欲しいって意味だったのか?
(エンジュちゃんも屍田のコレクションの女優ってことだけどな。彼女を助けたら俺がNTRするってことだし)
まあリコだってNTRしたようなものだけど。
しかも処女だったからなぁ。
俺は処女厨ってわけじゃないが、エンジュちゃんとリコかっていえばリコだ。
だがセクシー女優という肩書は魅力的だ。
セクシー女優と付き合ってたとか、最高じゃない?
俺の人生でこんなことある? ってレベルの話だ。
非常に、悩ましい。
「鬼神さん。聞いてます?!」
「いえ。エッチなこと考えてましたわ」
「こんな時に?!」
「なんか余裕なんで。まぁ。本当にやばいモンスターならぶち殺せばいいだけですし?」
「……屍田は巧妙なヤツです。弱音をさらすことなくこの先も、生きていくでしょう。地位と権力を駆使して人を食い物にして……」
そのとき壮大な影が、背後の天井から舞い降りてきた。
紅白歌合戦の目立ちたがり歌手のごときシルエットが、100階層に顕現した。
『よくぞここまで来た。そしてよくも、俺の地下労働者達を暴露してくれたな
!』
「お。あんたは。屍田さん……。ですか?!」
俺は敬語になる。
偉い人には敬語だ。仕事が舞い降りてくるかも知れないからな。
俺のとなりではエンジュちゃんがさらに絶望していた。
「ぁ、あぁ……。終わりだ。【オメガ・デビルフィッシュ・クトゥーゾプ】だけじゃなくて……。〈邪神のダシ〉を使い、完全覚醒を果たした屍田さんまで、なんて……」
「あの紅白歌合戦みたいなシルエットが完全覚醒屍田さん?」
俺が余裕でエッチな妄想をしているとエンジュちゃんは何やら怒りだしていた。
「神無月エンジュ。僕のネタばらしは控えて貰おう! 買われている女の分際をわきまえるんだ」
「うぅ……。あなたなんか、人殺しです! 私を……。他の皆もダンジョンに放り込んでハニートラップに使うなんて! あやうく殺されかけたんですよ?!」
天井から顕現した屍田踏彦の、紅白歌合戦めいた翼のシルエットがみえてくる。
「あん?」
巨大な翼にみえたものは、すべて触手でできていた。
〈触手ダブルウィングマン〉といったところだ。
「ウワキモ!」
俺はつい呟いてしまった。
「鬼神ぃ。またもコケにしやがって。僕の芸術がわからないのか?」
「いやぁ。さーせん。ちょっとすごすぎてびびりましたぁ。でも主催者じきじきの相手っすか? 100階層踏破したら、仕事とかよろです!」
俺は配信を再開。
エンジュちゃんにカメラを持たせ、全世界に配信する。
「はい。100階層到着しました~! 皆さんにもがんばって力をみせつけるので、応援よろしくっす!」
屍田踏彦は激怒していた。
「お前はふざけているのか? 鬼神? 資産家の僕をどこまでもコケにしやがって!」
「いやぁしてないっすよ! 尊敬してます! でも闘うからには全力ですよ!」
「圧倒的な質量で殺してやる。そしてこのリコ君も僕のものになる」
屍田が触手を広げると、うぞうぞと蠢く触手の中でリコが呻いていた。
「うぅ……ぅぅ……うぐぅ……。ひぐぅ!」
「どーうだ! 鬼神ぃ! 輝竜リコは触手媚薬に漬けている。邪神のダシを受けて進化した僕は、欲望を現実化できるようになった!」
絶望するエンジュちゃん。
媚薬漬けにされ、触手の中で悶えるリコ。
「そして鬼神ぃ。お前は挟まれている。【オメガ・デビルフィッシュ・クトゥーゾテプ】はタコの子供を吐き出している!」
屍田と会話している隙に、背後の【オメガ・デビルフィッシュ・クトゥーゾテプ】が無数のタコの子供を生み出していた。
屍田踏彦は、触手ダブルウィングを蠢かせ、リコがさらに『あぁあぁ!』と悶える。
「999の触手がお前を囲んでいるのだ!」
ぎゅんぎゅんぎゅんと触手が舞い、俺とエンジュちゃんに飛来する。。
俺はリビングハチェットをダブルで展開。
ひうんひうんと巨大な鉈が舞う。
右腕だけで、56本の触手を斬殺しつつ、楽勝でエンジュちゃんに語りかける。
「エンジュちゃーん。ちょっと俺のスマホ持ってさ。100階層の隅っこに行ってて」
「私は、あの男に言いたいことが……」
「そーいう蛮勇はいいから。大丈夫。守ってやんよ。リコを救うし君も守る。俺は欲張りだからね」
「鬼神さん。あなたは……」
エンジュちゃんが隅っこに非難。
屍田がさらに激昂する。
「鬼神ぃ。お前の弱点は面攻撃しかできないことだ。調査済みなんだよ。鉈は迎撃にしか使えない。ハンマーの威力は絶大だが、このように人質を取れば……」
「ひぐぅうぅぃぃ!!」
リコが触手の中でうめきをあげた。
「手出しは出来まい!」
正直なところ俺は、リコが触手に悶える様子にちょっと興奮していた。
「これがNTRだ! ふはははは!」
この屍田踏彦ってヤツは偉い人だと思っていて容赦していたが、俺のリコを奪おうとしている時点でもうおしまいだった。
「もういいぞ、リビングハチェット。少し休め」
『げひひひぃいぅん……』
眼と口があり生きている鉈リビングハチェットが、収束していく。
俺の手にあるのはただの小さな鉈となる。
ハンマーも今は金槌となり、腰に納めている。
「力尽きたか! ちんまい力だなぁ!」
そのとき、リコの捉えられていた触手ダブルウィングの片翼が、根元から真っ二つに切り裂かれた。
「はぇ?」
俺の持っていた小さな鉈が、瞬時に巨大化していたのだ。
肉切り包丁のような、鉈だった。
しかしながら、その刃の表面では、光がぶぅぅんと灯っている。
「
「なん……、だと?!」
「俺のヘカトンケイルは雷轟と同時に、100の形態を持つという意味だ。俺にできないことはねえよ」
立ちはだかる触手ウィングマン屍田を見て、『もういいや、殺すか』とだけ思う。
リコを傷つけた代償だ。
偉いやつだろうが、番組だろうが世界だろうが敵に回しても構わない。
全員殺してやるよ。
「ヘカトンケイルの片鱗をみせてやるよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます