第38話 地下坑道爆散! 鬼神さん暴露系配信者とリンクしてしまう!


 地下坑道で俺はまず人の声をきいた。

 働いている人がいる?


「隠しダンジョンじゃねーのかよ」


 少しがっかりだった。

 がらんごろんと、鉄や機材の打ち付ける音や、罵声が響いてくる。


 俺は迷宮探索会社でブラック労働をしていたときを思い出した。

 


「鬼神ぃ。でも働いてるってことは掘ってるってことじゃないのぉ? ドリルハンマーで助けてあげなよ」


 メルルが提案してくれたが、どうしようか。

 ダンジョンアトラクションがメインなんだがな。


「配信の皆の意見を聞くか」


『ぜひとも進んじゃってください』

『裏道ワクテカ』

『正規ルートじゃないんじゃないの?』

『ダンジョン扱いだからへーきへーき』


 進む方が撮り高が良さそうだな。


「穏便にいきまーす」


 俺はハンマーと鉈を元のサイズに戻し腰にかけ、丸腰となる。

 人の声の響くところに向かった。


「ちぃーす」


 そこに居たのはひと目で分かる地下労働者達だった。

 地下労働者達は皆、死んだ眼をしている。


 あーうん。そういう眼になるよね。


 だが俺の知っているブラック労働の眼よりも、もっとドス暗く澱んでいる。

 一欠片の希望もない絶望の瞳だ。


 俺は近くのひとりに声をかける。


「なぁ。何してんの?」


「……みて、わからないのか……? ここは屍田グループに借金をした者たちの最終処理場だ。1000分の1の価値しか持たない通貨〈デスペイ〉のために、過酷な労働を強いられているんだ」


 大変な人もいるもんだなあ。

 ってことは、ここは裏ダンジョンじゃないってこと?


「うーん。ちょっと期待してたのと違いますね。帰りましょう」


『そうだね』

『見てはいけないものなのでは?』


「鬼神ぃ。人の心がないよぅ? ふぎゅ!」


 妖精メルルがいい人ぶってきたので懲らしめてやる。

 仕方がないだろ?


 まあ刑務所に入ってるやつが脱獄するシチュエーションは、燃えるがな。


「んー?」


 みやると何故か再生数が爆上がりしていた。


 同時接続は500くらいだったはずが、990、1200、1300と急成長を始めている。


『暴露系配信者もびっくり』

『噂は本当だったんだ』

『屍田グループの闇』

『都市伝説乙』


 コメントも増えているが、荒れてきている。

 難しいな。どうしたものか。


 このとき俺の中の、原始的な戦闘本能が告げた。


 ――中途半端は駄目だ。潰すなら徹底的にやれ――


「なるほどなあ。読めてきたぞ」


 思うに、『裏ダンジョンがあるんじゃね?』と勘違いした俺は、『見てはいけないもの』を見てしまったらしい。


 普通ならここで大きな権力に潰されて終わりだが、どうやらここで引き換えしてもだぶんもう駄目だろう。


(迷宮扱いなんだよな。だったら何やっても許されるよなぁ。俺を口封じに殺そうとしてくるかもしれないが。なら答えは一つだ)


 簡単なことだ。


『俺を殺そうとすれば、莫大な被害総額が生まれる』ってことをわからせる。


 

「なーんか社会の闇っぽいけど進みまーす。どうせもう拡散されてんだろw」


 リコとのことがあったが、俺は基本的に精神が無敵なので、関係ない。

 ずんずんと地下を進む。

 


 休憩スペースのような場所では、ふたりの男がサイコロを転がしていた。 


 ひとりは『番長』と呼ばれていた。

 ほっぺたがアン○ンマンのようにふっくらしたているが、狡猾な顔の男だ。


 もう一人は顎のとがったダメ人間のような風貌の男だ。

 こちらは『ダイジ君』と呼ばれているようだ。


「俺は、ここにすべてを賭ける!!」


 事情はわからないが、ダイジ君は何かに賭けていた。


 だがサイコロは無情にも1がでてしまう。


「ああああー!! あああああーー!! あんまりだぁぁああああああ!!!」

「ダイジクーン。下手だねぇ。欲望の解放のさせかたが下手」


「うぁああああああああああああああぁあ!!! あぁぁあああああ!!!!」

「これで君の人生は終わり。どん底で地下を這いずり回るだけだよ」


「ぢがう! ぢがうんだ! まっでぐれ! あんだはイガザマヲ!」

「証拠を見つけられなかった。残念だったねぇ、ダイジクーン!」


「うわあぁああ! ああぁぁぁああああああああああああ!」


 うるせえ叫びだな。


 ダイジ君はどこかに連れ去られてしまった。

 地下の最奥の、地獄と呼ばれる場所らしい。


(いや、賭けに勝つんじゃないのかよ)


 普通に死んでて、ちょっとおもしろかった。

 

「はぁ。無視して戻るかメルル。他の集団の様子はわかるか?」

「実は70階に飛んだとき、中央の空洞がみえるようにカメラを置いてきたんだよ」


「お、お前、有能だなぁ」

「鬼神、いつも褒めてくれるねぇ!」


「有能な奴は当然褒めるさ。信賞必罰だぜ」

「えへへ」


 メルルが妖精世界から来る前は俺のアプリを操作していたずらしていたようだが、仕事においてはいい妖精のようだ。


「んー。先頭集団は20階層か。いまなら、間に合うかなあ」


 俺は作業現場にかつかつと歩いていく。


「なんだ? あんたは」


 現場監督の男は無視。 


 俺は両手にハンマーを持ち、左右に巨大なドリルハンマーを生み出す。


「なぁメルル。なんで俺の技がヘカトンケイルっていうかっていうか知ってるか?」

「おしゃれなノリなんじゃないのぅ?」


「ヘカントケイルとは100の腕を持つ神だ。俺は腕は二本しかないが、ハンマーと鉈の武装の組み合わせで、100通り以上の形態がある」


「ふえぇぇえ! すごいねぇ」


『技のデパートか?』

『いぶし銀』

『でも大丈夫なんです?』

『この動画をみている俺らもやばくないか?』



「まぁ食うか食われるかなんで。皆を助けるためにもがんばってみますわ」


 俺は両腕のドリルに螺旋機巧を生み出す。


 ふたつのドリルが、ドリルの回転と、腕の回転のダブルの回転により、強力な掘削機となっていた。



双頭螺旋破砕掘削機ツインドリルスパイラルパニッシャーだ」


 俺はぎゅいんぎゅいんぎゅいんぎゅいん、ぎゅいんぎゅいんぎゅいんぎゅいんと、バターでも削るように、地下を掘り進んでいく。


『俺たち100人分の仕事が一瞬で終わっただと?』

『タワーの下に埋まっている、異世界迷宮へのジェムゲートを掘る仕事だったというのに……』


 ぎゅいんぎゅいんぎゅいんぎゅいん、とドリルで進んでいくと、直径3メートルほどの巨大な水晶が見えた。


「マナが詰まってるのか?」


 どうしよう。水晶にドリルを当てるべきか、否か。


「つっこみまーす!」


『やると思った』

『神の思考』

『ノータイムすぎる!』

『高速で思考した結果なんだよ!』

『即断即決ww』


 ドリルが水晶にあたる。

 マナの奔流がほとばしり、俺のドリルのエネルギーを上方に射出した!


 ないって言われてたけどあったじゃねえか。

 裏ルートの強化パーツがよぉ!





 ダンジョンアトラクションタワー3階層をさまよっていた探索者達は、地下から異音が響いていることに気づいた。


「なんだ? この轟音は?」


 ボディビル探索者。胸囲120センチ。五里アキラ《ゴリ アキラ》は、筋肉でオークと殴り合いながら、警戒する。


 ホスト探索者。光苔yasusi《ヤスシ》は、輝くオーラで、ゴーゴンの女性と魅了対決をしながら、地下からの奔流を察知した。


「皆、危ない。隅に寄るんだ!」


 3階の床からマナのエネルギーが、ビーム状に変換され、どぶん!と床を溶かし消滅させた。


 現れたのは鬼神だった。


「垂直で3階まで飛び出るとはなぁ」


「あいつは?」

「70階に飛んだヤツじゃないか?」


 力士探索者。爆乃海ばくのうみも感心する。


「無茶苦茶なヤツでごわすな」


 




 3階に飛び出た俺は、穴の下を見やる。地下労働者達が一斉に逃げ出していた。まぁ捕まるのが落ちなんだろうけど、迷宮だしなぁ。


 ん。待てよ?

 迷宮で強制労働って違法じゃなかった? これは主催者の屍田の違法性を暴露したってことになってしまう。


「俺のチャンネルが暴露系配信者とリンクしたのは、そういうことかぁ」


 俺は図らずも、このタワーの危険性や違法性を暴いてしまったわけだ。

 できれば、甘い汁を吸いたかったんだがなぁ。


「賞金とってから考えるか。力をみせつければ、向こうも手を出してはこないだろう」


 俺は素直に階層を登ることにした。

 飛んで登って、地下を破壊したのだから邪道は十分満喫。

 ここからは王道ルートで踏破するのもいいだろうさ。




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大事なお願い

おもしろかったら☆☆☆評価よろしくおねがいします。

【異世界迷宮で俺だけリミットオーバー~】もよろしくおねがいします

https://kakuyomu.jp/works/16817330649818316828





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