第37話 迷宮だからいくら破壊しても大丈夫っす
『せっかくだし探索しなきゃな』という理由で、俺はダンジョンアトラクションタワー・七十階層から巨大な穴にダイブし、地上に降りることにした。
「穴の下にアイテムがあるなんて、よくあることだからな」
アパート裏の〈果て成る水晶の迷宮〉でも、〈泉〉へ至る道は隠し通路だったっけな。
あの尻のでかい女神が何だったのかはどうでもいいが。
「メルルぅ! 配信できてるかぁ?」
「どんどん穴に落ちていくよ! 映像みるぅ?」
「出してくれ」
「はいよ!」
俺の横に妖精メルルが配信映像ホログラムをぶぅんと出してくれる。
臨場感たっぷりの、穴に落ちていく映像だ。
俺の全身はごおおぉおうううう、と落下の衝撃を受けているが、ジェムで軽くしているし鍛えているのでダメージはない。
俺はダイブについての実況をする。
「70階層をダイブしてまーす! フェザージェムで軽くしないと高所落下は無理なので、真似するときは安全第一でお願いします」
落下しながら俺はコメントを見た。
『いや、真似とか無理でしょ』
『着地どうすんの?』
『五点着地ってレベルじゃねえぉ!』
ふと真似をする人がいたら危ないと思い、詳しく解説をする。
「あー。実は10階の高さまではフェザージェムで身体を軽くすればなんとかなるんですよ。小さい虫って落ちても死なないですよね。あれは軽いからなんですよ」
落下の速度が強まっていくが、身体が軽くなっているので実際は『ふおんふおん』という具合に落ちている。
「でも10階層を超えたあたりから、人間はフェザージェムを使っても死にます。真似しないでくださいね」
俺がおかしなことを言っているのに気づいてくれたようで、コメントが殺到した。
『そんなあなたはどこから落ちたんですか?』
『70階では?』
『嘘乙。コラだろ』
『いや、画面みろ。階層表示が闇の中にみえる』
『55、54……』
『致死レベルの七倍の高さですけど?』
俺の落ちる穴の内部壁面には丁寧にも『51、50、49……』と階層が書かれていた。
ただの穴ではなく、この穴は何かに使われているようだ。
「とりま、10階層以上から落ちたときの、対処法を今からやります」
『迷宮でそんな高さから落ちるとかねーよww』
『ぜひお願いします!』
『いや、マジで死ぬぞ?』
『神の最後か?』
『鬼神神は生きる!』
『神神(かみしん)誕生の瞬間ww』
俺は両腕のハチェットから魔力をぬいて、小さな鉈に戻し、腰ベルトに収納。
フェザージェムで身体を軽くしつつ、装備をハンマー変更。
「今は『ふおんふおん』って落ちてますが、落下速度があがってこのままだと死にます。装備ごと軽くしてても、限界があるんですよね。なのでまずはハンマーをドリルに変えます」
俺はドリルハンマーを生み出し、下に向ける。
グン、と落下速度があがった。
ドリルハンマーは、俺の足場になるくらい巨大なので安心感がある。
『いきなり言ってることがおかしいw』
『いや、その理屈はおかしい』
『ドリル使いじゃないとできないってこと?』
『ドリルはオワコンって言ってただろ!』
『ドリル使い俺、始まった!』
ドリルを生み出したことで、コメ返の暇はなくなる。
「ドリルハンマー・サイクロン」
落下の速度は全開となる。
俺の眼前に地面!
ドリルの回転も最高速度へ!
しゅごぅううううう、きいぃいいんん!!
と、普段なら絶対に聞くことのない音と共に、俺は大穴の下に落下した。
同時。
ぐおぉおおおおん! と俺の周囲に竜巻が吹き荒れる!
ドリルから生まれた竜巻が吹き上がっていたのだ。
フェザージェムで軽くなっていた俺は、竜巻を受けてふわりと舞い上がる。
70階からの落下速度を相殺!
ふわんと地面に着地した。
「こんな感じで。身体を軽くしながら、ドリルサイクロンを使うと、七十階から落下しても死にません」
コメントは沈黙していた。
俺、何か外したかな……。
メルルが横から、合いの手を入れる。
「ふぅぅ。怖かったぁ。よい子は真似しないでね!」
コメントが復活してくれた。
『妖精無事!』
『妖精、元気そうでなにより』
『妖精ちゃんは男の子なんですか、女の子なんですか?』
『妖精全裸はいいのか?』
『妖精だからおk』
メルルめ、いらんことを……、と思ったが、溶け込んでいるのでよし。
妖精コメントはメルルにまかせて、俺は技コメントに返事をする。
『ドリルサイクロンの竜巻で軽くなった自分を拭き上げつつ、落下を相殺って。常人はできませんよ?』
「70階ジャンプのときみたいに、磁力であがるのもいいんだけどね。雷系よりサイクロン系の方がやりやすいかなって」
『一般向け解説が常軌を逸してないか?』
『神の領域乙』
『70階から落ちてもしなない男w』
『新たな称号w』
「うーし。探索再会しまーす」
一区切りついたところで、周囲を見渡す。
すべてが暗闇だった。
暗闇の中で、骨の残骸のようなものが吹き溜まっている。
おそらく焼かれた骨だ。
骨の残骸が闇の中にあった。
「あー。もしかして」
俺は理解してしまう。
大きな落とし穴。
搬入エレベーターのように階層が書かれた内壁。
70階層到達時に、わらわらと現れた迷宮魔獣達。
「焼却炉かぁ……。どうしよぉ」
俺はうっかり可愛い声がでてしまう。
『どうしよぉ』
『どうしよぉ』
『どうしましょう……』
『可愛い声ww』
『おっさんギャップw』
コメントはほっこりしていたが、焼却炉ならピンチだ。
その頃、屍田踏彦はダンジョンアトラクションタワー監視ルームで、マスターキーを起動していた。
「いまだ。焼却炉!」
微塵の容赦もない焼却炉の起動だった。
人の命を顧みない。
金と弁護士ですべての罪を帳消しにして、のし上がってきた男である。
「鬼竜リコに伝えたらどんな顔するかなぁ。お前の彼氏は焼却炉で殺されたってな。もちろんこのタワーは迷宮扱いだから、事故死扱いだ。法的に俺を訴えることはできねーんだよ。恨むなら俺のものにならなかったことを恨むんだな!」
焼却炉が起動し、鬼神の周囲が赤く燃え始める
俺の周囲がごおおおうううぅ、とうなり始めていた。
「ははーん。燃えるタイプね」
俺は床を見やる。ドリルは床にささり、ひび割れている。
落ちてくるときはフェザージェムを浸かっていた。
なら全身全霊で床を砕けば……。
「
俺は磁気嵐を操作し、エネルギーの奔流を全力で床にむける。
「雷轟神戦鎚・
「地面はごと破壊すれば、焼却炉は回避できるな!」
以前この技を使ったときは、ダンジョン内部の遺跡を破壊してしまった。
コンクリ床を割るくらい容易いだろう
ごおぉおおおおおおおおぅぅぅ!!
と急激な火炎が巻き起こると同時。
俺は地面を割り、さらに地下へと落ちる。
「あぁん? 下があったのか?」
俺は落下していく。
俺の頭の上を炎が通過している。熱気がちょっと熱い。
地下には坑道が続いていた。
「これぞ裏ダンジョンじゃねーか!」
わくわくしてきた。
でも、タワーを壊してしまった。弁償とかされるのだろうか。
「鬼神ぃ。このタワーは迷宮扱いだから。いくら壊しても大丈夫だよ」
「そか。気が利くな」
「えへへ」
「なんかただの坑道だな。適当にジェムをあさりながら、壊しながら進むか。70階までは磁力で飛んでいけばいいからな。他の集団が登る間、裏道探索としけこむか」
俺は地下の坑道をずんずんと進むのだった。
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