第17話 ちんぽ騎士団
その
「くっそがあぁ!」
罪坂蛮とは誰か?
5人の騎士団とともにリコを追っていた、イケメン配信者だった。
「くっそ。くそくそくそくそぉ! なんなんだよ、あのおっさんはよぉ! お前らもそう思うだろ?」
騎士団仲間のグラサンの男が同調した。
「ちょうわっかるぜ罪やん~。俺たちばっちり吹き飛ばされるところ、配信されちゃったからリベンジマッチしないと気が済まねえよな。でもボスの山羊鬼は撃破されたからどうするよ?」
罪坂は、ふんと鼻を鳴らす。
「んなもん『やってる感』が大事なんだよ。100階層いってうぇーいってやれればオッケーよ。誰もボスを倒したとかみてねーよ。動画が楽しいか視聴率がすべてだろ?」
仲間達は「そうだな」「罪坂さんのいうとおりだぜ」「うぇい」「うぇぇい!」と同調した。
5人の探索者は、全員が騎士クラスだった。
迷宮探索者でかつ配信を行って集客をこなし、裏アカウントではヤリサーも経営してシノギとしていた。
界隈では〈ちんぽ騎士団〉として名を馳せた五人でもある。
リコはそうと知らずに、迷宮配信の護衛として騎士団を雇ってしまったのだ。
そしてかつては罪坂のイケメンに釣られて、好意を寄せてもいた。
「で。罪坂さん。リコちんはどうするよ」
「当然、ヤルに決まってんだろ。あの女、俺たちの計画に気づきやがって。こないだだってレンジャーの踏破スキルで俺たちを撒いたつもりだろうが、舐めてやがる」
罪坂蛮はリコを狙っていた。
先日は迷宮で睡眠薬を飲ませ手込めにするはずだったが、計画に気づかれた。
配信をしながらも、リコはどんどんと深層へ向かい、罪坂蛮らを撒いたのだ。
屈辱だった。
たったひとつの屈辱が許せなかった。
罪坂は生粋のサイコパスだったので、自分の思い通りにならないことがあると、執着せずにはいられなかった。
(あの女は俺に屈辱を与えた。どんな手を使ってでも手込めにしてやる。人生を終了させてでも、あの女のプライドと地位を奪い尽くしてやる)
「ぜってー犯す」
「超わかるぜ罪坂さん」
「どろどろにしてやろうぜ!」
そして5人のちんぽ騎士団もまた、全員がサイコパスだった。
サイコパス同士で固まることでその欲望を充足させていた。
彼らはヤリサーだけでなく違法薬物の売買や受け子もしている。
『人里かけ離れた迷宮では一部の法が適用されない』ことを生かして、違法薬物や非合法のハーブの売買などをしていたのだ。
悪いことはわかっているが、金が入るのだから笑いは止まらない。
さらに動画配信で市民の人気を得れば、人心も掌握できる。
違法を犯し女を犯しても、イケメンでネット人気があれば、すべてが正当化されるのだ。
「で、リコちんはどうするんだよ? この迷宮に来ても、もういねーんじゃねえの?」
仲間の問いかけに罪坂はにやりとほくそ笑む。
「俺たちは100階層の帰還ワープで帰ったが……。100階層までのリタン水晶はリコが帰れないように、一個一個しらみつぶしに使い潰したり回収してたろ?」
「おお。そうだったな。俺も持ってるぜリタン水晶」
「つまりだ。俺らの後に来たおっさんが山羊鬼を撃破してから、リコを連れて迷宮脱出してるなんてのはな。ありえない話なんだ。いまは迷宮の帰宅途中だ。ボロボロになったおっさんを再準備した俺等で叩きのめすってスンポーよ!」
「ありえねえよな。もし下山してたら、どんだけ下山スピード速いんだよって話だよなぁ」
罪坂と愉快な仲間達は、次々と計略を練っていく。
「俺たちでさえ、100階層に来るのは20人のパーティで三日かかったんだ。しかも脱落者は14人だ。
途中からリコが俺らの計画を聞いてから、先行しだして夜も隠れて見えなくなって。やれなくてクソみたいな気分だったがよぉ……」
「わかるぜ、罪坂さん。あのもどかしい夜は耐えられないよなぁ」
「ああ。だからリコとおっさんを待ち受ける。俺たちが登りにかかったのは三日だ。あいつらの降りも三日かかると思った方がいい」
罪坂は冷酷に淡々と計算をする。
「俺たちは装備を整え、今日どんぴしゃで、あいつらの『三日目』に合わせた。あいつらはちょうど低層あたりにいるはず。さすがのおっさんもボロボロだろう。そこを万全の準備をして戻ってきた俺らがボコる。そしてリコを犯す!」
実際のところ罪坂の予想は外れていた。
鬼神とリコはとっくに迷宮を脱出していた。
三日かかる迷宮を一日で脱出していて、ぐっすり眠っていたのだ。
リコは鬼神の家で一泊してから「またね」と一度家に帰り(二日目)、次の日また鬼神の家に来訪(三日目)。
三日目に鬼神の分からず屋で喧嘩してリコはアパートを出た。
自棄になったリコは、鬼神が追ってくることを期待して迷宮に突入。
現在は3階層あたりをうろうろしていた。
そして罪坂らは1階層にいる。
意図せず、追いかけっことなっていたのだった。
3階層にいたリコは、時折後ろを振り向いた。
鬼神が追ってくることを期待していた。
「居ないし」
リコは戦闘に関しては未熟だが、踏破力や隠密行動だけでいえば凄まじい踏破力だ。
この〈果てなる水晶の迷宮〉は以前のパーティでは三日かかると言われていたが、リコにとっては、戦闘を抜きにすれば一日半あれば十分だった。
だが鬼神の踏破力は、それ以上だ。
「私をおぶって、一日……。時間だけを見れば半日とかかってない。すごすぎる踏破力だよ。強さもふざけているのに」
なのに。どうしてあの人は自分を卑下するのだろう?
探索者ランクが低いならこれから査定すればいい。
就職に難航しているなら、一緒に探してあげたい。
34歳だからって引け目に感じることもない。
迷宮探索者に必要なのは、シンプルに踏破能力と戦闘力だ。
いくらでも力になりたいのに……。
「もしかして、ブラック企業でメンタルをやられちゃったのかな? だったら、いいカウンセリングを紹介して……。でも女の人に悩んでいたからなあ。いっぱい誘惑すれば柔らかくなってくれる?」
リコは迷宮をぶらつきながら、鬼神の心にどう寄り添えるかを考えている。
「やっぱり私が悪かったかもな。突き放されたのもきっと……。私のためだし。追いかけてこないなら、また私の方から戻ろう。ああ、でも……。やっぱり追いかけてきては欲しいなぁ」
低層の森を歩くリコの背後で、がさがさと人の足音が響いた。
「鬼神さん? おーい!」
声をかけてから、リコは自分のミスに気づいた。
足音が5つだった。
(声を出すなんて迂闊だった。私、浮かれていた。逃げなきゃ……)
「この声は、リコじゃん。おーい!」
足音は罪坂騎士団だった。
彼らとパーティを組んだのは鬼神さんと出会う前の三日だけだが、その鬼畜さは十分理解している。
ともに行動してよくわかった。イケメンなのは動画と顔だけで中身はどす黒いヘドロのような男だ。
(逃げなきゃ。助けて、鬼神さん……)
「待ってくれよーお」
サイコパス特有の、嘘の優しさが声ににじみ出ている。
捕まったら終わりだろう。
恐怖の鬼ごっこが始まった。
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