目が覚めたら2
これは夢だろうか。
まるでアニメか漫画の世界のような……いや、どこか外国の城のような、鏡張りの壁に、眩いまでの豪華な装飾のシャンデリア。
たくさんの紳士淑女が、ゼンマイ仕掛けの人形のように踊っている。
なんだか気味が悪かった。
ドレスの裾を捌いて踵を返し、外へ出る扉を開けた。
――ドレス? 俺が? なんで……。
心は戸惑うのに、高いヒールを履いた足は、慣れた裾さばきでドレスに絡まることなく歩いていく。ふと、その足が止まると、異様にウエストの苦しい腰を曲げて踵をさすった。
――なんだ、この鎧のように硬い腰回りは。息苦しくなるほどグルグル巻きにされている。それよりも、なんで俺は足をさすっているんだ。
視線がさする足に移ると、艶のあるストッキングに血がにじんでいる。
――靴擦れか、こんな高いヒールなんか履くから。
それは誰の感想だったのか……、その時。
屈んだ姿勢のまま、後ろから鈍い衝撃を受けた。あっという間にバランスを崩し、すぐ下の階段に向かって横倒しになった。一瞬で上下が曖昧になり、自分がどんな状態になったのかわからなくなった。
ぐるぐると回る視界の端に、眩しいほどの白い光が見えたが、果たしてシャンデリアの光だったのか。どこか他人事のように考えながら、手すりに頭を、階段の角に肩を激しくぶつけながら、なおも落ち続けた。
最終的に床にぶつかると思ったその瞬間、なにかマットのような、固いけれど柔らかい、不思議な感触の中にすっぽりと納まった。
反射的に目を開け、そこにある顔を見たが、すぐに頭の中がシャットダウンしてしまった。
自分のことを呼ぶ声が、だんだんと小さくなっていく。
――いや、この名前は俺のじゃない……そう、あいつの……。
ふと、目が覚めた。
「変な、夢だった……な」
起き上がろうとしたが、何もかもが鉛のように重い。身体を横に転がし、片腕を支えにしようとして、すぐに違和感に気が付いた。視線の先に見えた自分の腕が、異様に細い。見慣れた膨れた風船が折れ曲がったような手首ではなく、嫋やかで今にも折れてしまいそうな白い手首。
「なんだこれ……って、え?」
そして、口から飛び出した高い声色に、再び驚いて目を丸くした。思わずベッドに再び沈み込んで、口を手で押さえた。
『ようやく気が付かれましたわね。待ちくたびれましたわ』
「わっ、えっ、だ、誰」
いきなり頭に響いた声に、びっくりして周りを見回す。
『お静かに、わたくしですわ。そんなに驚かないでくださいませ、これが初めてというわけではございませんでしょう? もっとも、どうやら立場は逆ですけれど』
「……グレイシー? と、いうことは、この身体は」
そう、ここはグレイシーのいた世界。
純からすれば、信じがたいことではあるがゲームの世界である。そして、前回とは逆で、グレイシーの身体に純が憑依したのである。
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