Summoner Book

riakis

第1話 道端のローブの男

早朝6:00時、僕はこれから運ぶ荷物を荷台に乗せている。


ちょうどよく体が温まり、眠気がなくなってきた。


すると


「ムーア、この荷物もお願い!」


「はーい店長、」


事務所から出てきた店長がそう言うと、小包を僕に手渡す。


僕は荷台の整理をしてその荷物の入るスペースを作り、受け取った荷物を荷台に収めた。


「じゃあ行ってきまーす!」


「お願いねー」


僕は持ち手を握り、荷台を引っぱりながら、前へ進み始める。


にしても今回はちょっと多いな、

効率よく行かないと、遅くなっちゃう。


リスト表を確認しながら、この都会とも、田舎とも言えない街中を巡る。


...


1件目の届け先に着き、荷物を抱えながら、ドアをノックした。


「はーい」


「お届け物でーす」


配達員アルバイトを初めて一ヶ月、このやりとりにもだいぶ慣れ、ちょっとした優越感に浸る。


今までのバイトは、なんだかんだ自分に合わなかったため長く続かなかった。


ガシャ


「お、いつもの奴だな、おつかれさん」


「どうもです」


顔も覚えられてなおさら誇らしい、これが必要とされる喜びか...


「にしても、今回もすごい荷物の量だな、」


「そんなことないですよー」


ちょっとした会話をはさみ、互いにほのぼのとした空気が流れた。


「では、失礼します」


「おう、体壊すんじゃねぇぞ」


僕は、軽くお辞儀をし、次の届け先へと歩幅を少し大きくしながら向かった。


...


すっかり日が沈み、街灯があたりを照らす。


すべての荷物を届け充実した気持ちでいる反面、もっと効率を上げるために、考えを巡らせていた。


そうすれば、妹に美味しいものをいっぱい食わせてやれる。


「よーし、頑張るぞ!」


そう小声でつぶやき、荷台を引きながら事務所へ向おうとしたその時、


「そこのお兄さん、」


ん?


少しかすれた男の声がしたので振り返ると、ローブで顔を覆った人が、道端で座っていた。


男の周りを見ると、何やら怪しい本や雑貨が並べられていた。


「何でしょうか?」


「いやー、なかなか品物が売れなくて困ってるんですよ、」


「はぁ」


「どうです? 珍しい品物が揃っていますよ」


露店か何かだろうか?


あたりはやけに暗く人気がほとんどない。


そんなことを言うなら、大通りで人目がつくところでやればいいのに...


「僕あまりお金ないですから大丈夫です」


「いえいえ、買わなくても見るだけで結構ですからぜひ!」


自分には財がないとアピールしたのに、少ししつこい。


「でも、そういうの興味ないし、」


僕がそう言うとローブの男は、嬉しそうな声を出す。


「なるほど、この品物たちに興味がないですか、うん、実に良いですね~」


声色が少し気味悪くなった気がした。


「では、ちょっとしたゲームをしましょう。」


ローブの男がそう言うと、懐から何か球体のようなものを取り出す。


「あのー僕は別に...」


「ルールは簡単です、この卵の中身を取り出してください」


話が一方的に進んで、少し混乱していた。


そもそも僕にメリットが、


「卵の中身を取り出せたら、この中の品物どれか一つ無料であげましょう」


「えっ!?」


僕はその言葉を聞いた途端、目を光らせる。


自分で言うのも恥ずかしいが、僕は無料という言葉に目がない。


いやだめだ、こんな怪しい人の言うことに流されてはいけない。


そう、よく考えて行動するんだ。


よく考えて、



「やります!!」


「おぉ、いい返事ですね〜」


無料を何もせずに逃すなら、少しでも無料を引き寄せてやる!


自分の中で考えをまとめ、あたまの中で繰り返される無料という響きに熱くなっていた。


「では、どうぞ」


ローブの男がそう言うと、僕にその卵を手渡した。


手のひらよりも少し大きいその卵を見て、とりあえず両手で握ってみる。


「道具を使ってもいいですよ、まぁどんな衝撃を与えても無理でしょうけ、」


バキっ!!


「殻が薄い割に結構硬いな、これ」


僕は爪を食い込ませ、ひび割れた部分を広げていく。


「...」


さっきまで話していたローブの男が、すっかり黙り込んで、殻が割れる音だけがあたりに響く。


「よしっ、もうすぐだ」


親指が完全に食い込み、腕全体の力を使って引っ張る。


すると、


「バン!!」


殻が真っ二つに割れ、あたりに弾け飛ぶような音が鳴り響く。


ポフッ


それと同時に、卵から弾け飛んだ何かが僕の手に収まる。


「なにこれ、白いトカゲ?」


よく見て見ると、半透明な羽のようなものが生えていて、とても馴染みのない姿をしていた。


「あの、これなんですかって、あれ?」


周りを見渡すと、ローブの男がいなくなっていることに気がつく。


これって、


もしかして、


「逃げられた~!!」


「キュウ?」


あたりには、僕と、卵を割るときに傷ついた指先をペロペロと舐めるこの生き物だけしかいなかった。












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