第5話 そしてコンクール
出場する全国コンクールは小学生が対象のコンクールだった。ピアノ部門、ヴァイオリン部門、フルート部門の三つの部門があり、それぞれ一年生から六年生まで学年別に分けられていた。
そして都道府県予選、地区予選、決選という流れになる。各都道府県から予選を通過した者が、地区予選に選出される。地区予選は北海道・東北地区、関東地区、中部・北陸地区、関西地区、中国・四国地区、九州・沖縄地区の六地区から数名が選出され、決選は東京で各部門各学年それぞれ二十人程度が順位を競うことになる。
そして、いよいよ決選の日を迎えた。会場のホールは大きなホールだったが客席は満席となった。コンクールというところは、これから活躍する演奏家が見られるところだ。まだプロではないが、その年齢の全国トップクラスの演奏家の演奏が見られるということもあり見に来る人も多い。実際にそこからプロになっていく人も多い。
決選はまさに全国のトップの演奏家が集まる。そういうと、晴、栄太、麗美の三人が一つの教室から残っているというのがすごいことである。
部門が多いため三週間にわたって審査が行われる。そして、低学年から行われるため、三人のうち最初はヴァイオリン五年生の晴、そしてヴァイオリン六年生の栄太、フルート六年生の麗美の順番で審査が行われる。
コンクールの前日まで教室で練習が続いた。練習ができることでいくらか緊張感がほぐれた。今までいつもフルートの麗美がヴァイオリンの稽古場に顔を出していたが決選二週間前ぐらいから麗美は教室にさえ来なくなった。
栄太は緊張する晴を気遣って、いつも晴と一緒にいてくれる。ちょっとしたことでも気持ちを落ち着かせるように話しかけてくれた。
そして、晴のコンクールの前日。練習が終わっていつものように栄太が家まで送ってくれた。そして別れ際、栄太は晴の両手を自分の両手で優しく包み込み。
「おまじない。明日はいつも通り弾けますように」
と言ってくれた。恥ずかしかったが、とても心が温まり落ち着けるような気がした。
「ありがとう」
そう言って晴の家の前でわかれた。
明日はいよいよコンクールだ。できる限りの練習はできたと思えた。晴の気持ちの中では緊張より期待が強かった。
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